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ハイタッチ~私とバンド活動しませんか?  作者: 一ノ瀬 和人
結成 そのバンドの名は‥‥‥‥
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絶対にいいことが待ってるんです

 それから5件程店をはしごして、ようやく拓海の洋服一式のコーディネートが完了する。

 散々着せ替え人形のようにされた拓海はベンチに座り、ため息をつく。

 服選びがこんなに大変だと拓海は全く思わなかった。


「はぁ、疲れた」

「お疲れ、拓海君」

「お疲れ様です。拓海さん」


 小さいペットボトルを持った古川が拓海の隣に座る。

 その隣に篠塚も座り、拓海のことを篠塚と古川が挟んだ形で座ることになった。

 隣に座る古川が少し疲れた様な表情に対してまだまだ元気いっぱいの篠塚の表情を見て、女の子が買い物好きなことを拓海は改めて思い知らされる。

 このみに至ってはいまだどこかの店で、買い物をしているみたいだった。


「疲れたよ。本当に」

「これ、拓海君の分のお茶だから飲んで」

「ありがとう」


 古川からペットボトルを受け取ると、口をつける拓海。

 もらった紅茶は疲れてほてった体にすごく効き、疲れが和らぐようだった。


「拓海さん疲れきってますね」

「そうだよ。だって俺、皆の着せ替え人形なんだから」

「でも、いい服を選べたんじゃないかな? 僕も皆で選んだ拓海君の服、すっごく似合うと思う」


 拓海が選んだ服は上から下まで、全てこのみ達が選んだものである。

 内訳はシャツは篠塚、上着はこのみ、ジーンズは悠馬が選び古川はアクセサリー系を選んでいた。

 残った剛は靴を見繕い、拓海の全身コーディネートが完成する。

 このみ達4人が真剣に選ぶ中、4人の選んだ服を見て適当に靴を見繕っている剛が拓海には印象的たった。


「愛梨ちゃんはまだしも、陽一君がこんなにノリノリだなんて思わなかったよ」

「そうかな? 結構僕はこういうことするのって好きだけど?」

「本当?」

「うん。小さい時よく莉緒の買い物に付き合ってたから」


 そういう古川はどこか遠い顔をしていた。

 拓海はその時本田莉緒が古川の幼馴染だということを思い出す。


「莉緒さん? その人と古川さんはどういったご関係なんですか?」

「僕と莉緒は小さい頃からの幼馴染なんだよ。今は全く顔を合わせてないけど」

「そうなんですか」


 篠塚はそれ以上、古川に対して本田莉緒の事を追及する気はないように思える。

 いつもと違う古川の様子に、篠塚も何かを察しているようで黙りこくってしまう。

 とにかくこの重い空気を変えなければいけないと拓海は思い、何かしゃべらないとまずいと思うのだった。


「よくこのショッピングモールにに遊びに来てたの? 本田さんと」

「この場所というよりはもう少し都心の方にかな。そこで親の行きつけのお店とかあったから、莉緒の両親も交えてよく遊びに行ってたな」


 まるで遠い出来事のように語る古川。

 その話を聞いて拓海は1つ疑問が浮かぶ。

 ただその疑問を古川にぶつけていいのかと、しばし拓海は悩むことになる。


「どうしたの? 拓海君」

「本田さんのことで聞きたいことがあるんだけど、陽一君に聞いていいのかちょっと迷ってて」

「別にいいよ。もう莉緒のことは気にしてないし」

「陽一君がそういってくれるなら聞くけど、本田さんって昔はどんな子だったの? 俺今の本田さんしか知らないから、ちょっと知りたいな」

「いいよ。昔の莉緒は結構我侭だったんだよ。我侭の割には人見知りな所もあったし、僕から見て手のかかる女の子だったなって印象だよ」

「そうなの? 今の本田さんからは考えられないな」


 拓海が知る本田莉緒はいつも愛想がよく明るい性格で周りからは慕われている。

 そんな人が我侭で人見知りな性格だと全く思わない。


「そんな事ないよ。幼稚園ぐらいの時には莉緒の奴、僕の後ろにずっとくっついて歩いてたんだよ」

「嘘?」

「本当だよ。僕の服の裾を掴んで、人が来るとすぐ僕の後ろの隠れてさ。あの時の莉緒は本当に可愛かったな」


 昔の思い出を語る古川はやけに楽しそうだった。

 それは現実のことなど考えていない、逃避のようにも思える。


「確か小学生ぐらいの時だっけ。本田さんが変わったのって」

「うん。正確には小学生の高学年ぐらいの時。最初は学校で僕ともいてくれたんだけど、徐々に離れていっちゃって。その時はやっと莉緒にも友達が出来たんだって、ほっとしてたんだけど」

「だけど?」

「それから扱いが少しずつ変わっていったんだよ。学校で僕と話すときはよそよそしいのに、家には毎日のように遊びに来てたし」

「へぇ~~」

「莉緒の奴、毎週末になると僕と一緒によくどこかに行こうって言ってたんだよ。今思えば莉緒も僕のこと気にしてくれてたのかな」

「それって、本田さんに誘われたの?」

「うん、よく一緒に出かけようって。映画見たいとか水族館行きたいとかプラネタリウムみたいとか、あの時はよく言われたな」


 古川の話を聞いていると、当初拓海が思っていた本田莉緒の印象が違ってくる。

 当初はただ古川のことを面白半分でいじめていただけだと思っていたが、なんだか違うような気がしていた。


「中学に入ってからは、そういうことあったの?」

「そういうことはなかったな。その頃には莉緒のやつ、彼氏がいたから」

「なんで陽一君は本田さんが彼氏できたの知ってたの? 普通そういうことって周りから隠さない?」

「それが隠さないんだよ」

「隠さなかったの?」

「うん。莉緒のやつ、付き合ってたことを隠すことしなかったから。僕だけじゃなくて、学年中の人がそのことを知ってたと思うよ」


 なんとなく古川の話を聞いていると、拓海は本田莉緒は古川のことが好きだったんじゃないかと思ってしまう。

 だが、それなら中学時代に彼氏を作っていた理由がよくわからない。

 拓海が悩んでいると、古川の隣から篠塚が顔を出す。


「古川さんって、中学時代は苦労されてたんですね」

「全然そんなことないよ。ただ、色々ありすぎただけ」

「でも、中学時代大変だった分高校ではいいことがありますよ。人間って悪いことがあった後には、絶対にいいことが待ってるんです」

「そういってくれると元気が出るよ。ありがとう、愛梨ちゃん」

「こちらこそ。今日はバンドだけの集まりなのに、お邪魔させてもらってありがとうございます」


 古川の隣にいる篠塚は、照れているようにも拓海は見える。

 そこで2人が以前この場所で、連絡先を交換したことを思い出した。


「そういえば2人って連絡取ってるの?」

「はい」

「1週間に1回くらいは連絡を取るよね?」

「そうですね。月末のライブの話も古川さんから聞きましたし」

「その話まで知ってるの?」


 ライブの話を篠塚が知ってることにびっくりする拓海。

 それを古川から聞いていたことにさらに驚く。


「はい。このみちゃんからも連絡が来ましたし、拓海さん達の情報は逐一聞いています」

「ちなみに、このみは俺のこと何か言ってた?」

「そうですね。拓海さんが焼いた焼きそばがすごくおいしかったと聞きました」

「他には? 例えばバンドの話とか」

「それは全くしていませんね。後、アイスと餡蜜がおいしかったという話を聞きました」

「このみのやつ」


 このみが送るメールが食べ物のことしか送っていないのがわかった。

 練習のことは一切書いていない。それでいいのかとも思う。


「たまに拓海さん達ちゃんと練習してるのかなとは思いますけど、このみちゃんの情報ですから練習のことは省いてるんだと思います」

「うん。俺達はちゃんと練習してるよ。ねぇ、陽一君」

「うん。今回の曲は難しいから、拓海君なんて毎日必死に練習してるよ」

「それを聞いて安心しました。もしかしたら、遊んでいるだけなのかと思ってしまって」


 そのセリフを聞いて、遊んでいるのがこのみだけだということを篠塚にはいえない。

 いつも漫画ばかり読んで笑っている事等、口が裂けていえなかった。


「いました。拓海先輩」

「このみ」


 その直後、このみが拓海達の所にくるのがわかった。

 その手には何も持ってなく、買い物をした様子ではない。


「お前自分の服を探してるんじゃなかったの?」

「実は今あたしに似合いそうなのが2つあって悩んでいるんですよ。出来れば拓海先輩の意見が聞きたいなと思いまして」

「俺? 俺よりも古川君や愛梨ちゃんの方がセンスあると思うんだけど?」

「センスはありませんけど私でよければ、このみちゃんの服選び手伝いますよ」

「よかったら、僕も選ぼうか?」

「愛梨先輩ありがとうございます。あと古川さんは結構です。そこで休んでてください」

「また、僕だけ?」


 古川の申し出をばっさりと切るこのみ。

 古川を拒絶しているこのみを見ると、先程までのシリアスな空気が薄れていくのを感じられた。


「このみ、俺は疲れてるから陽一君達に選んでもらえよ」

「ダメですよ。古川さんじゃ、孝明先輩のこのみなんてわかるわけありません」

「孝明なら何着ていっても可愛い可愛いって言ってくれるよ」

「それじゃあダメなんです。孝明先輩をあっと言わせないと」


 このみは孝明が惚れ直すぐらいの服がほしいようだが、そんなものはないように思える。

 高校1年生の時、孝明と真里菜と共に拓海は出かけたのだが、いつもそれとなく真里菜の服を褒めていた孝明。

 こんな風に褒めるのは真里菜だけかと思ったが、他の女の子と出かけた時もそれとなく褒めていたのでその線は薄い。

 その時に孝明がどうして女の子から人気が高いのかも拓海は認識した。


「あっと言わせたいなら、ジャージ上下とかどうだ? 孝明の奴、目玉を見開いて驚くよ」

「それは女子力が低すぎます。もっと大人な姿を見せたいんです」

「大人な姿ね」


 このみの頭のてっぺんから足のつま先まで見る拓海。

 そのあまりにも幼すぎる体型は、このみが望む大人な体型とは程遠いものである。

 可愛いならまだしも大人なコーディネートをしてくれと言う無茶な要求に、思わず拓海はため息をついてしまう。


「今ため息をつきましたね。拓海先輩はあたしのことを何だと思ってるんですか」

「いや、なんでもない。あまりにも無茶な要求にちょっと絶句しただけだから」

「無茶な要求とはどういうことですか。高校生になったんですから、あたしだって充分大人ですよ。お・と・な」

「まぁまぁ、2人共落ち着いて」


 古川が仲介に入ったことで、拓海達の言い争いが収まる。

 最近古川には助けられてばかりだなと思う拓海だった。


「このみちゃんの意見もわかったから、とりあえず4人で服を選ぼうよ」

「そうですね。きっとこのみちゃんに似合う服があるはずです」

「古川君と愛梨ちゃん、あんまりこのみを甘やかさなくてもいいよ」

「違うよ。拓海君だってこのみちゃんにさっき服を選んであげたでしょ。そのお礼って事でいいじゃん」

「そうです。このみちゃんにちゃんとお礼をしないと、嫌われちゃいますよ」

「でも、俺服選ぶセンスないから」

「だから僕と愛梨ちゃんの3人で選ぼうよ。1人で決めるよりも3人で決めた方が絶対にいいって」

「私もお手伝いしますから。だから一緒に選びましょう」

「そこまで言うなら、しょうがないな」

「ありがとう。僕も拓海君とそういう話をするの楽しかったからさ」

「さっきの服選びのこと?」

「もちろん」


 照れ笑いを浮かべる古川を見て、拓海も古川の頼みを断りにくくなった。

 元々こういった友達付き合いをあまりしたことがない古川を誘ったのは拓海自身である。

 そんな古川の要望に応えないわけにはいけなかった。


「わかった。陽一君と愛梨ちゃんがそう言うなら付き合うよ」

「ありがとう、拓海君」

「あの~~、これってあたしの買い物なのわかってますか?」

「大丈夫ですよ。拓海さんも古川さんもわかってると思います」


 篠塚はそう言うと、その場に立ち上がる。

 古川は先程までベンチの横においてあった自分の手荷物を持ち、移動する準備を始めていた。

 やけに張り切っている古川と篠塚の姿が拓海には印象的だった。


「じゃあ行こう。このみちゃんがさっきいたお店ってどこ?」

「あっちのお店です。今セールをしているみたいで、安いお洋服がいっぱいあるんです」

「このみ、俺は引っ張らなくてもちゃんとついていくから。だからその手を離せ」

「ダメです。そう言って拓海先輩はベンチに座っていることもあるので」

「俺ってそんなに信用ないの?」

「はい」

「拓海さん、このみちゃんから離れないで下さいね」

「愛梨ちゃんはどうしてそんな事言うの?」

「拓海先輩、ちゃんと歩いてください」

「歩いてるって。こら、そんなに強く手を握るな。痛い」


 拓海の抗議も受け入れられず、このみは店まで拓海のことを引きずっていく。

 結局この後このみの服選びを4人ですることとなり、剛と悠馬の2人が3人を発見する頃には時刻は既に正午を過ぎていた。


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