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どうしたら格好良くなれるかな?

今回はいつもより長いです

 終業式の日、拓海はいつものように帰る準備を終えると音楽室へと向かう。

 古川と一緒に練習をするようになってからは、音楽室を待ち合わせ場所にして古川とこのみの3人で小五郎宅へと通っている。

 その際、古川の計らいでギターケースを音楽室に置かせてもらえるようになった。

 これで今まで1度家に帰ってケースを取りに行く手間も省け、お昼も弁当を作り小五郎の家で食べるようになった。

 毎回音楽室に誰もいないのと古川が音楽室を占拠している理由についても当初は気になったが、そのことも最近ではあまり気にならなくなる拓海であった。


「剛も最近元気ないしな」


 最近剛の元気が全くない事の方が拓海は気になっている。

 先週の山口達と遊びに行った時以来、ずっと剛は沈んでいる。

 あの時何があったのだろうと考えたが、自分達のことで精一杯なのでそのことは極力考えないようにしていた。


「拓海先輩、発見しました」

「このみ? 今ホームルームが終わったの?」

「はい。追いかければ先輩よりも早く着くかなと思って、急いできました」

「みんなで一緒に行くんだから、そんなに急がなくてもいいのに」


 このみと話をしながら2人で音楽室へと向かう拓海。

 ショッピングモールにいた時の機嫌の悪さとは打って変わり、現在はニコニコと常に笑顔を浮かべるこのみ。

 篠塚愛梨という少女と出会ったことが、このみにとってプラスになっているように拓海は感じるのだった。


「そういえば、この前愛梨先輩と電話しましたよ」

「へぇ、愛梨ちゃんと話したんだ。ってかこのみ、愛梨ちゃんの呼び方変わってない?」

「何ですか? そんなにあたしが敬意ある呼び方で呼んではいけないんですか?」

「そういうわけじゃないけど‥‥‥‥」


 その理屈で行くと古川は自分の同等かそれ以下にしか見ていないんじゃないかと思う拓海だった。

 ただ、それを本人の前で言うのは何故か気が引ける。

 そのため拓海は今の話は聞かなかったことにした。


「それで、愛梨ちゃんとは何を話したの?」

「それがですね、なんと愛梨先輩は今度私達が出るライブに来てくれるらしいです」

「本当に?」

「はい」


 うれしそうに話すこのみを見て、そのことが本当なのだと拓海は思う。

 それと同時に自分の知っている人に演奏を聞かれると思うと、途端に恥ずかしくなるのであった。


「なんか恥ずかしいな。自分達の演奏を身内に聞かれるのって」

「だったら恥ずかしい演奏をしないために頑張りましょう。練習あるのみです」

「そうだな。愛梨ちゃんが見てるんだし、がんばらないと」


 それからこのみと音楽室に着くまで、来週末に迫ったライブの話で華をさかす。

 篠塚が拓海達のことを見に来るとなれば、失敗しないためにも張り切って練習をしなければならない。

 時間も忘れ2人で話しながら歩いていると、いつの間に音楽室へとつく。

 2回ノックをすると、中から古川の「どうぞ」という声が聞こえたので中へと入る拓海とこのみであった。


「お待たせ、遅くなってごめん」

「こんにちは、古川さん」

「拓海君にこのみちゃん」

「古川君は来るの早いね。クラスのホームルームは終わったの?」

「うちのクラスは担任が適当だから、ホームルームはすぐ終わるんだよ」

「そうなんだ」


 よく考えれば古川の所属するC組はいつも終わるのが早いように拓海は思う。

 真里菜が古川と同じC組だったが、バスケ部時代孝明や拓海よりも必ず早く体育館にいた。

 C組とは対照的にA組はホームルームが長いので、B組がもしかしたら普通なのかもしれないと思う拓海であった。


「莉緒はどうだった? もう帰った?」

「本田さんは確かサッカー部の方に行った気がする。今日は午後から部活があるとか言ってたから」


 拓海がその情報を知っていた理由は、同じクラスのサッカー部の人達と話しているのを盗み聞きしていたからである。

 その内容はサッカー部の練習があるので、お昼をどこかに食べに行くような話をしていたことを拓海は思い出す。

 そうなると必然的に本田莉緒も外で昼食を買いに行っていた可能性もあった。


「今はもしかしたら昼ご飯を買いに行ってるかもしれないかな」

「じゃあもう少し待ってから行かない? そっちの方が都合もいいと思うし」

「でも本田さんが学校にいないのなら、今がチャンスだと思うけど‥‥‥‥」

「それだと莉緒と外で会う可能性があると思う。僕としては出来ればもう少し時間を置いて、校内に戻ってきたタイミングで行きたいな」

「俺はいいんだけど、このみはどうする?」

「あたしも別にいいですよ。急いで行っても、おじいちゃん達いないと思いますから」

「ありがとう、このみちゃん」


 このみの同意を得た所でピアノの前に移動し、ピアノを弾き始める古川。

 古川が月末のステージで披露する曲を弾き始めたので、拓海も音楽室に置いたギターケースからギターをを取り出し練習することにした。

 

「なんか拓海先輩のギター姿って様になってきましたよね?」

「そう? そんなにしっくり来る?」

「はい、アコースティックギターが様になっています」


 このみにそのように言われ、内心うれしく思う拓海であった。

 得意げにギターを弾き始めると古川のピアノに合わせて、演奏を始める。


「こうして聞くとすごくいい演奏のように感じます」

「それって本当?」

「あくまで古川さんのピアノがあるからですよ。だから拓海先輩のギターも上手く聞こえるんです」

「このみちゃんに上手いって言われるとうれしいな」

「古川さんは調子にのらないで下さい」

「ひどっ」


 拓海達が演奏をしながら楽しくしゃべっていると、音楽室の扉が開く音が聞こえる。

 演奏していた拓海や古川は演奏していた手を止めこのみも扉の方を振り返り、誰が音楽室へとやってきたのかと思う。

 扉に立っていたのは男性であり、本田莉緒ではない。

 そのことにほっとするが、ほっとしたのもつかぬまそこに立っていたのは拓海の友人の1人でもある佐野剛。

 剛はその場に立ち、拓海のことを睨みつけるように立っていた。


「ちょっとすいません。誰だか知りませんが、ここは関係者以外は立ち入り禁止ですよ」

「拓海、お前俺に黙って抜け駆けしたな」

「剛、どうしたんだよ? ちょっと落ち着け」


 拓海が剛を押さえる前に、剛が拓海に掴みかかろうとする。

 その光景を見た古川が慌てて2人の間に慌てて割って入ることで、何とか剛が拓海の胸倉を掴むのを阻止した。

 だが、状況はかなり悪い。そのまま古川を巻き込んで拳を握り締めた剛は拓海を殴ろうとしていた。


「お前、どうしたんだよ? 訳を話せ」

「話なんかで片付けられる問題じゃないんだよ。とりあえず拓海を一発殴らせろ」

「何がどうなってるかわからないけど、とりあえず落ち着いて話そうよ。落ち着いて」

「やめて下さい。暴力を振るう人なんて最低です」


 このみも争いを止めるために間に入り、剛を引き剥がすことに成功した。

 2人は拓海の間に立ち、剛がこれ以上拓海に掴みかからないようにけん制する。


「何で俺の邪魔をするんだよ」

「うるさいです。そうやって暴力に訴えることしか出来ない人に文句なんか言われたくありません」

「何だと」

「このみ、あまり挑発するな。俺が剛と話すから」


 このみの怒りは頂点に達しているようで、言葉の節々や雰囲気から怒気が出ているのが拓海にもわかる。

 自分の問題にこのみを巻き込むのは悪いので、そっと自分の背中にこのみを隠した。


「拓海先輩?」

「俺のために怒ってくれるのはうれしいけど、これは俺の問題だから俺が何とかするよ」

「でもですね」

「でもでもなんでもないから。とりあえず落ち着いてくれ」

「わかりました。拓海先輩がそう言うなら」


 このみが大人しく下がったことに拓海はほっとする。

 自分の話にこのみが口を突っ込むと今以上にややこしくなると拓海は思っていた。

 現在古川は拓海の隣でオロオロし、このみは拓海の背中から顔を出し剛のことを睨みつけていた。


「剛一体どうしたんだよ? そんなに興奮して」

「お前が悪いんだろ? 嘘なんかついて。俺を騙して」

「騙す? 俺がいつお前を騙した?」


 拓海には全く剛を騙した覚えがない。むしろ何度もお膳立てをしてあげ、それをぶち壊してきたのは剛である。

 感謝される覚えはあれど、恨まれる覚えなど拓海にはなかった。


「しらばっくれるなよ。お前俺に言ったよな? 彼女がいないって」

「そうだけど、それがどうしたんだよ?」

「お前いるんじゃん、彼女。今まで俺に嘘ついて、おれの頑張りをあざ笑ってきたんだろ」

「はぁ?」


 剛の突拍子もない発言に拓海はポカンとする。

 このみが振り返って顔をしかめている所を見ると、このみも剛の言っていることがわからないようである。

 そしてこのみが拓海の制服を引っ張っている所を拓海は見た。


「どうしたんだよ、このみ?」

「拓海先輩、もしかしてこのみにも嘘をついてるんですか?」

「ついてないよ。それによく考えてみろよ。彼女がいるなら、バンドの練習なんか毎日しないから」

「それもそうですよね。拓海先輩モテないですし」

「モテないは余計だ。モテないは」


 剛に聞こえないようにこのみと話をする拓海。

 以前ショッピングモールでこのみや古川との間に出来た誤解は解けている。

 それに毎日のようにこのみは篠塚と連絡を取り合う仲なので、拓海に女性の影が見えないのは理解している。

 それでモテないと言っているのだろうと拓海は思う。


「何をこそこそと話してるんだよ」

「なんでもないよ。それに剛、悪いけど俺彼女いないんだけど?」

「嘘つけよ。1年生の可愛い後輩を引き連れて毎日遊んでるって聞いたぞ。そこにいる可愛い女の子がお前の彼女なんだろ」


 このみの方を剛は指さすとこのみは拓海の隣に移動し、まんざらでもなさそうな顔をする。

 そして拓海の方を見上げると嬉しそうに笑う。

 その表情を見るだけで、余計面倒なことになったと思う拓海だった。


「先輩先輩。あたし可愛いって言われましたよ。あたしってすごい可愛いらしいです」

「はいはい。可愛い可愛い」

「どうですか? 今なら100歩‥‥いや1億万歩譲ってあたしがしょうがなく、本当にしょうがなくですけど、特別に彼女になってあげますよ」

「付き合う気もないくせにそんなセリフを言うな。だからこうして勘違いも生まれるんだろ」

「てへ」

「はいはい。わかったから。これ以上問題をややこしくしない」


 このみの舌をだした可愛いアピールに辟易していると、剛が歯ぎしりをしている音が聞こえてきた。

 それを見て拓海はこのみを1回睨みため息をついた後、剛の方に向き直った。


「お前ら、そうやっていちゃいちゃいちゃいちゃして。俺に見せつけるように」

「だから剛、誤解だ。俺はこのみとそういう関係じゃない」

「そうやって下の名前呼んでるのは仲がいい証だろ?」

「確かにあたしと先輩は仲がいいですね。ラブラブと言っても過言ではないです」

「なんでこのみは火に油どころか、ガソリンを注ぎ込むようなことをするんだよ」


 何故このようなことをこのみがいうのか拓海はわからないが、話がどんどんずれていくように感じる。

 このみが話しに介入するたびに話がどんどん脱線し、その度に剛が激怒する。

 どのように打開するか考えるていると、拓海の隣からおずおずと出てくる古川の姿があった。


「あの、ちょっといいかな?」

「部外者は黙ってろよ」

「僕も拓海君達の友達だから、部外者じゃないんだけど。それに一応拓海君の弁護もしなきゃいけないと思うから、ちょっとだけ話させてもらってもいい?」

「拓海の関係者ならいい。ただ、少しだけだぞ」

「ありがとう。あっ、僕は古川陽一っていいます。あなたの名前を聞いてもいいですか?」

「剛。佐野剛」

「じゃあ剛くんって呼んでいいかな?」

「あぁ、別に好きなように呼べばいいじゃん」

「じゃあ剛君って呼ぶことにするね」


 古川が口をはさんだことで、先程までピリピリとした雰囲気がどこか和らいだ気がする拓海。

 拓海の隣にいる古川はいつも通り笑顔で剛のことを見ていた。


「えっと、まずは1つ質問があるんだけどいい?」

「何だよ?」

「剛君はどうしてこのみちゃんと拓海君が付き合ってるって思ったの? 確かに初めて会った時僕もそう思ったけど、拓海君のこのみちゃんの扱いを見てたら、違うと思わない?」

「古川さんは失礼ですね。このみと拓海先輩は‥‥‥‥」

「このみは少し黙ってて。話がややこしくなるから」


 このみの口を塞ぎ、これ以上余計なことを言わないように促す拓海。

 しばらく暴れてたが、このみも抵抗することを諦め静かになり拓海も口を塞いでた手を離す。


「どうしてか教えてくれないかな? 僕もそれを聞かないと判断できないから」

「それは、永森がそう言ってたから」

「永森が?」


 永森という名前を聞いて拓海は山口と遊びに行った時にいたチャライ男の顔が浮かぶ。

 何故自分とは関係のない人が、そんな話をしていたのか全く分からなかった。


「拓海君は永森って人のこと知ってるの?」

「確かこの前の映画の時に剛が誘ったやつだよ。俺達の他にもう1人いたじゃん。少し軽薄そうな人」

「あぁ、あのちゃらちゃらした人ですか。あたしも派手な衣装だったので、よく覚えてます」

「このみ、ちなみにその時に剛もいたけど覚えてる?」

「う~~~~ん、覚えてないですね。女性人が可愛い子ばかりでしたので、そちらに目がいってました」


 このみは女の子しかみていなかったらしい。

 あの時確かにこのみは女の子の話しかしていなかった。

 そのため、男のことは二の次なのだと拓海は思った。


「ごめん、2人共。話を戻してもいいかな?」

「「すいません」」


 このみと拓海は古川に頭を下げた。

 この時古川の笑顔を見て、心の中で怒らせてはいけない人の名簿の中に古川を追加する拓海。

 いつもと違う古川の雰囲気にこのみも反省しているようで、今度こそ完全に口をつぐんだ。


「その、今話しに出てきた永森君がなんて言ってたの?」

「『加藤は彼女がいるから女の子の扱いがうまいんだよ。ほらいつも加藤と一緒にいる後輩の女の子がいるじゃん。その子と付き合っているみたいだよ』って」

「なんでそんな噂が立ってるんだ?」

「あたしも、同級生の友達からそんな話聞いたことがありません。上級生の奴隷を引き連れているとは言われましたが」

「このみ、今のその話詳しく聞かせろよ」

「拓海君?」

「ごめんなさい」


 古川の怒りを買いたくないため、拓海はこのみの話は一時的に忘れることにして黙る。

 さっきの剛の話に、拓海は疑問しかわかない。

 このみとは一緒に歩いたりはしていたが、大抵荷物持ち等の仕事を手伝うことしかしていない。

 校内では主にそれぐらいしかしていないのに、他人に勘違いされる理由が拓海にはわからなかった。


「でも、永森が言ってたぞ。2人が一緒に帰ったり、こそこそと裏門から2人で出ていくのを見たって」

「あっ」

「ごめん、剛君。それは僕が悪いんだ」

「えっ、何? どういうこと?」


 古川が剛に対して唐突に頭を下げる。

 頭を下げた古川に対して、驚いた表情をする剛であった。


「実はその裏門から帰ってるのって、僕の都合だったりするんだ」

「都合? 何の都合だよ、拓海?」

「実はちょっとした理由があって、古川君と裏門で待ち合わせて一緒に帰ってるんだよ」

「でも、そこの1年生とも一緒に帰ってるんだよな? なんで? 学年もクラスも違うしお前ら一体どういう関係なの?」

「あたしと拓海先輩は‥‥‥‥」

「このみはちょっと黙ってて。実は俺、バンド活動を始めたんだよ」

「バンド? 拓海、お前が?」


 剛にバンドのことを話すと驚いていた。

 驚くのも無理はなく、普段は楽器も弾いたことがなく極度の音痴な男がバンド活動を急にやり始めるのがおかしいことである。

 それに剛にバンド演奏のことなど話したことがないので、そのように思うのも仕方がなかった。


「そうだよ」

「えっ? いつやり始めたんだよ? そんなこと俺知らないんだけど?」

「期末テストの前だよ。そこの女の子、このみのおじいちゃんに頼んでみんなで練習してる」

「全然気づかなかった」


 気づかないも何もクラスの誰にも話していないのである。

 そのため剛が気づかないのも無理はないと思う拓海だった。


「ちなみにですが、そのバンドのボーカルはあたしです」

「僕はキーボードを担当することになってて、月末のライブに向けて練習してるんだよ」

「月末? ライブ? どこで?」

「この前剛達と行ったショッピングモールの特設ステージでやるんだ。剛も見ただろ? エントランスの中央にあった」


 剛は何か思い出したようで、その場で苦い表情をする。

 そこは剛が山口と一緒に催し物を見ていた場所なので、記憶に新しいはずだ。

 その時の思い出がフラッシュバックしているのだろうと拓海は思う。


「結構大きい所じゃん。そんな所でギター弾けるのかよ?」

「弾けるよ。俺をなめんな。今までどれだけ練習してきたと思ってるんだよ」

「まぁ、拓海先輩が練習していたのは1ヶ月ぐらいですけど」

「僕に至っては2週間ちょっとだね」


 古川は苦笑いをしながら、このみの言葉にそう付け加える。

 確かに良く考えれば、とんでもない挑戦をしているんではないかと拓海は思った。


「お前達、そんな状況で大丈夫なのかよ?」

「大丈夫だよ。全体練習もほぼ完璧に出来てるし」

「拓海先輩のギターがもう少し上手くなればいいんですけどね。時々音はずしますし」

「おい、このみ。それを言うな。自分が1番わかってるんだから」


 このみは拓海の顔を見て楽しそうに笑っているだけである。

 拓海をおちょくっている所を見ると、先程とは違い余裕があるような気がした。


「じゃあ本当にお前は誰とも付き合ってないんだな?」

「当たり前だ。俺は1年365日彼女募集中なんだから」

「拓海先輩、それは誇っていい所ではない気がしますけど」


 剛もようやく納得してくれたようで、拓海は思わずほっとする。

 剛の説得をしてくれた古川に拓海は感謝しかない。

 目の前にいる剛は見るからに落ち込んでいた。


「なんだよ。永森の言ってたこと、嘘じゃん」

「むしろ何で信じたんだよ。映画館から出た後、俺彼女はいないっていったよな? そんなに俺の信用ってないの?」

「普段の拓海君とこのみちゃんを一緒に見てたら、そう思うのも無理はないんじゃないかな」

「ちょっと、古川君?」


 古川は拓海の事を見て苦笑いをしていた。

 古川にまでそう言われると、早急にこのみとの関係をどうにかした方がいいんじゃないかと拓海は思う。


「そういえば剛、瑠璃ちゃんはどうしたんだよ? この前仲良く2人で遊んでたじゃん」

「瑠璃ちゃんには振られた」

「振られた? お前何やったんだよ?」

「何もしてないよ。普通にステージ見たりお茶したりゲームセンターに行ったりしてただけだから」

「それで何で振られるんですかね? えっと、ゲームセンターでは何をされたんですか?」

「シューティングゲームとかレースゲームとかをずっとやってた」

「それは瑠璃さんという方が誘ったんですか? 行く場所も含めて?」

「いや、全部俺が誘った」


 その話を聞いて、拓海は嫌な予感がする。

 剛の話を聞く限り、デートで行った所は剛の好きな所ばかりだからだ。

 山口がどんなものが好きなのかは知らないが、さすがにそんなことをしていたら振られるのは普段は鈍い拓海にだってわかる。

 剛の自業自得のため、全く同情することが出来ない拓海だった。


「もしかしてだけど、お前の趣味全部押し付けてたわけじゃないだろうな?」

「確かに俺の趣味だけど、瑠璃ちゃんも喜んでくれてたから」

「それって本当に喜んでくれてたんですか? あたしはただ付き合ってくれてただけだと思いますけど?」

「喜んでくれてたよ。瑠璃ちゃんに『楽しい?』って聞いたら、『すごく楽しい』って言ってくれてたし」


 剛の話を聞いているが、完全に1人よがりだと拓海は思う。

 瑠璃はその時剛を傷つけないために、そのようなことを話したのだと推測した。


「その後どうしたんだ?」

「遊び終わった後、プリクラの前で告白したら『ごめん、友達としてしか見れない』って言われて帰っちゃって、その後俺も1人で電車に乗って帰った」

「拓海君、僕話を聞いてなんだか悲しくなってきた」

「俺は自業自得だと思うけどな」


 古川と拓海で意見は全く違うようであった。

 剛からこのような話を頻繁に聞いている拓海は同情しないが、聞きなれていない古川は同情しているようである。

 拓海も入学当初、剛の話を聞いて同情して励ましていた覚えがある。

 しかしそれが何度も続くと、さすがに同情できなくなるのであった。


「そりゃそうなりますよ。今の話を聞いている限り、キュンポイント皆無ですもん」

「このみちゃん、ちょっとそれは言いすぎじゃない?」

「言い過ぎじゃないですよ。女の子にはもっと優しく好きなところに連れて行ってあげて、壊れ物を扱うように接してあげないとだめなんですから」


 先程まで黙っていたこのみのテンションがどんどんヒートアップしていく。

 古川が止めているにも関わらず全く聞き耳を持たないこのみ。

 この状態のこのみを止めるのは不可能だと思った拓海は口を出すのをやめてしまう。

 本当は止めないといけないのだが、このみを止めるすべが拓海には考えつからなかった。


「何で剛さんはもっと瑠璃さんのことを考えてあげないんですか? 自分本位で行動してちゃ、女の子はついてきませんよ」

「そう言われたって、瑠璃ちゃんの趣味とかわからないし」

「そこを上手く男の人が聞いてあげないとダメなんですよ。だから剛さんはだめなんです」

「ダメっていうなよ。俺だって、こう見えても頑張ってるんだから」


 剛が情けない声をあげ、このみの事を見ている。

 先程とは違い、剛が段々とかわいそうになってきた拓海。

 拓海のそんな思いも届いていないようで、相変わらずこのみは怒っているようだった。


「頑張ってるかどうかなんて、他人が見て判断するんです。剛さんは女の子の気持ちを察する努力をもっとするべきですよ」

「このみ、さすがに言いすぎだから。それ以上はやめよう」

「しょうがないですね。拓海先輩がそう言うなら特別にこれぐらいで許します」

「剛、あまり気にするなよ。剛にもきっといい人が見つかるから」


 俯く剛に対して拓海は励ましの言葉をかけた。

 それぐらい今の剛はこのみの叱責にあい、落ち込んでいる。

 拓海は剛にそんな言葉をかけるしかなかった。


「なぁ、拓海」

「どうした? 剛?」

「俺、どうしたら格好良くなれるかな? どうしたら女の子に振り向いてもらえるんだろう」

「剛?」

「俺、いっつも女の子に振られてばかりで。どうすればいいんだろ?」


 剛の心からの悩み相談に、拓海は何を言っていいのかわからない。

 拓海だって女の子にモテた事もなく、彼女すら今まで出来たことはない。

 そんな拓海が剛の相談にのれるわけがなかった。


「そう言われてもな」

「それならさ、僕達とバンドをやらない?」

「古川君?」

「バンドやってる人はモテるっていうし、剛君さえよければ一緒にやろうよ」


 古川の発言に驚く拓海。

 このみも同じように目をまん丸に開き、慌てた様子を見せた。


「ちょっと、何言ってるんですか? 古川さん。たぶんこの人楽器やったことないですよ」

「僕はそれぐらい些細なことだと思うんだけど? それにベースもドラムもやる人いないんだし、人を増やすのは悪くないと思うけど」

「確かにそうですが」


 このみが微妙な表情をするが、古川の指摘は確かに拓海も以前から思っていたことだった。

 古川が加入した時、ベースとドラムがいればいいのにと思った拓海。

 その時は今はまだいいかと思ったが、剛がやってくれるのなら確かに丁度よかった。


「古川君はそう言ってるけど、剛はどうしたい? 一緒にバンド活動してくれるなら、俺はうれしいけど」

「少し考えさせてくれ」

「わかった。もし俺達とバンドしてくれるなら、連絡を頂戴」


 その言葉を剛に言うと、音楽室を出て行こうとする剛。

 これ以上剛にかける言葉は拓海にはなかった。


「そうだ、もしよければ月末にショッピングモールでやるライブに来てよ。僕達の初舞台だから」

「考えておく」

「絶対こいよ、剛。約束だぞ」


 去り行く剛にそのような声をかけると、今度こそ剛は音楽室の外へと出て行く。

 落ち込み落胆する剛の姿を見て、拓海は心配になる。

 今まで合コンを失敗する度に剛を励ましてきたが、あんなに憔悴しきった剛を見たことはなかった。


「あいつ、大丈夫かな」

「人の心配よりまず自分達の心配です。とりあえずは月末のライブの成功だけを考えましょう」

「そうだね。あっ、サッカー部が練習始めてる。これなら莉緒に会わなそうだし、そろそろ裏門から帰ろう」

「裏門からなんですか? たまには正門からでもいいじゃないですか」

「ダメ。莉緒と鉢合わせちゃうから」

「本当に古川さんは莉緒さんアレルギーですね」


 このみは古川の小心者ぶりにあきれていた。

 拓海はそれを見て、先程とのギャップに思わず笑ってしまう。


「どうしたんですか? 拓海先輩?」

「なんでもない。それよりも俺達は自転車を取りに行くから、古川君は裏門で待ってて」

「わかった」

「じゃあこのみ、行こうか。自転車を取りに」

「なんか釈然としませんが、わかりました。早く取りに行きましょう」


 話がまとまると、拓海とこのみは古川より先に音楽室を出て自転車置き場へと向かう。

 その後拓海達は裏門で古川と合流した後学校を出て、いつものように小五郎宅へと向かう。

 剛のことは気になりつつも、拓海達は月末のライブに向けて練習を行うのだった。

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