1人で何とかできる?
「映画、面白かったね」
「はい。私あの俳優さんのこと好きでしたが、改めて良いなって思いました」
映画が終わり拓海と篠塚は映画館を出ると、それぞれの感想をお互い述べた。
そのような話に興じながらも、拓海は剛のことがすごい気になっている。
映画の上映前に剛にポップコーンや飲み物を買おうと誘い、飲み物等の他にパンフレットも買ったほうが上映前に話が盛り上がるとアドバイスした拓海。
それが本当に実ったのか、上映中にやらかして山口さんに嫌われていないか等、剛に対しての心配事が尽きない拓海だった。
「皆さん出てくるのが遅いですね」
「本当にどうしたんだろ?」
今頃館内で修羅場が起こってるんじゃないかと拓海は心配する。
それでなくても過去に散々女の子を怒らせて振られてきた剛なので、その再現があるかもしれない。
映画館から中々出てこない剛達に拓海は不安を募らせていた。
「出てきましたよ。剛さん達」
「本当だ。4人一緒になって、一体何を話してるんだろ」
映画館の外に出てきた剛や永森達4人のグループは楽しそうに話しながら外へと出てきた。
その様子を見て、剛が上手くやったことに安堵すると同時にそれとは別の嫌な予感も頭によぎった。
「お待たせ。2人共、結構待った?」
「俺達も今出てきた所だから。気にしないで」
拓海が剛と話している最中、篠塚は光や山口達の方へと行きひそひそと話している。
3人が内緒話をしている所を見て、嫌な予感が現実のものになるのを感じる拓海。
剛と2人で話している最中、永森も拓海の元へとやってきた。
「加藤だっけ? ちょっといいかな?」
「永森君? どうしたの?」
「実はさ、さっき映画館から出る時剛とも話したんだけど、ここから別々に行動しない?」
「別々って、個々にってこと?」
「個々ってよりはペアごとにってこと。俺は光ちゃんと一緒に行くから、拓海君は愛梨ちゃんとペアで、剛は瑠璃ちゃんと一緒に行動するの。そっちの方が仲も深められていいでしょ?」
永森の言っていることには間違いはないが、それではいけないと拓海は思う。
ここに来てからの剛の行動を見ていれば、誰かが絶対にフォローしなければ女の子に愛想を着かされてしまう。
篠塚の様な寛容な女性ならまだしも、山口は絶対イライラすると思う。
なので拓海的にはそれは辞めた方がいいと考え、ささやかな抵抗を試みる。
「でもさ、それって瑠璃ちゃん達がOKしないとダメじゃない?」
「そこらへんは大丈夫。もう光ちゃんや瑠璃ちゃんにはOK貰ってるから。俺と剛も賛成だし、後は加藤達次第ってこと。加藤は別にいいよね? ペアで行動しても」
永森にそう言われ、拓海は返答に困った。
ふと、拓海は永森の隣にいた剛の方を心配そうに見る。
剛は拓海の視線に気づいたのか、笑顔でOKサインを拓海にする。
「俺は大丈夫だから。心配するなって」
「剛、本当に大丈夫? 1人で何とかできる?」
「大丈夫だって。拓海に心配してもらわなくても、1人で何とかするから」
先程までの剛を見ていて本当に大丈夫なのかとすごく不安になったが、そのようなことを言われると拓海は何も言えない。
今は剛のことを信じるしかないと拓海は思った。
「剛がそういうなら、俺もそれでいいけど」
「じゃあ決まりだね。ほら、あっちも決まったみたいだし」
女子達が話している方を向くと、話が終わったのか拓海達の方へと歩いてきた。
光と山口の表情は晴れやかで、篠塚の顔は赤くなり下を見て俯いているのが印象的であった。
「光ちゃん、そっちは大丈夫? 話ついた?」
「うん、こっちも話はついたから。じゃあ行こう」
永森の腕を取り、幸せそうに体を寄せる光。
その行動は永森が彼女のいない剛にわざと見せ付けているように拓海には見えた。
「じゃあ俺達先行くから。そっちもがんばって」
「あぁ、またな」
「じゃあね」
永森はそういい残すと、うっとりとした表情をする光をつれて人ごみの中へ消えていった。
その行動は最初から計算しているように拓海には見えた。
「じゃあ瑠璃ちゃん、俺達も行こうか」
「剛達はこれからどこに行くの?」
「とりあえずショッピングモールをブラブラかな。拓海達は?」
「俺はまだ決めてない」
「そうなんだ。篠塚さん、ちょっと拓海借りていい?」
「いいですよ」
「ありがとう。拓海ちょっとこい」
「何だよ。そんな引っ張らなくても自分で歩けるから」
剛は拓海を女子達と少し離れた所に連れて行くと、女子に聞こえないように小声で話し始めた。
先程拓海が剛にしていたことと真逆のことをされ、拓海は少しイライラした。
「拓海、チャンスだぞ」
「チャンスって何だよ?」
「篠塚さんだよ。さっき瑠璃ちゃん達とも話してたけど、絶対お前に気があるって」
「気があるって言われても‥‥‥‥俺、そんな気ないし」
拓海の中では現在このみ達と一緒にバンド活動に打ち込んでいるため、今はまだ彼女を作る気はない。
今日の遊びに行く約束も剛のことが心配でついてきただけである。
むしろ剛からそのようなことを言われても全くピンとこなかった。
「まさか、拓海。俺に内緒で彼女が既にいるとか?」
「いるわけないじゃん。俺に彼女がいるように見える」
「それはもちろん‥‥‥‥見えない」
「だろ?」
拓海が女の子といる所を剛に今まで見られたことはない。
しいていえばこのみといる所だが、それも奴隷と雇い主の関係である。
真里菜に関しては孝明と3人でいることが多いので、真里菜と2人っきりということ事体が元々少ない。
そのため剛に彼女がいると疑われる覚えがない拓海であった。
「それよりもお前の方こそがんばれよ。山口さん、絶対に剛のこと興味持ってくれているはずだから。応援してる」
「ありがとう。気分を損ねないようにがんばるから。応援してて」
「うん。じゃあ戻ろうか」
「そうだな」
剛との話し合いが終わり、拓海達は山口と篠塚の所へと戻る。
女子達の方でも色々と話していたようで、拓海達が来るとおしゃべりを中断して拓海達に視線を移した。
「そっちの話は終わった?」
「うん。じゃあそろそろ俺達も行こうか」
「そうだね。じゃあ、篠塚も頑張って」
「拓海も頑張るんだぞ」
「そっちこそ頑張れよ」
「また学校で」
拓海達に対して手を振りながら、剛と瑠璃も人ごみへと消えていく。
残された拓海も手を振って2人を見送り、これからどうするかを考える。
色々と行きたい場所を考えるが、咄嗟に行きたい場所と言われても思い浮かばない拓海であった。
「どうしよっか」
「そうですね。こういう時って迷いますよね」
いざ女の子と2人になると、拓海も会話が止まってしまう。
さっきまでは剛達がいたこともあり、場所は勝手に決めてくれたためついて行けばよかったが、今回は自分1人で全てを決めなければならない。
そのため少しだけ剛のことを見直す拓海だった。
「拓海さん?」
篠塚からの呼びかけにも応じず、必死に行く場所を考えていると拓海のお腹からぐ~~っという気の抜けた音が鳴る。
自分のお腹の音に気づき、恥ずかしそうに拓海はお腹を押さえると、それを聞いていた篠塚が笑い出した。
「拓海さん、お腹が減ってるんですね」
「そういえばさっきのお店でお好み焼き1切れしか食べてなかったな。緊張が途切れたらお腹が減ってきちゃった」
先程まで剛の好感度が下がらないようにずっとフォローしていた拓海。
そのことに集中していたため、全くお腹が減っていなかった。
そのため自分の分も剛や山口達全員に分け与えていたため、自分が殆ど食べていないのを失念していた。
「遅い時間ですが、ご飯でも食べに行きますか?」
「お願いします」
「じゃあいきましょう。よければまた私が作りますので」
「本当に?」
そんな冗談交じりの話をしながら2人はご飯を食べにお店を探すことになる。
結局お昼時を過ぎても飲食店の行列は途切れず、2人がたどり着いたのは先程行ったお好み焼き屋。
ついさっきまで6人で昼食を取っていたお店の暖簾を再び2人はくぐるのだった。




