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名前で呼べばいいじゃん

「剛、どうしてここにしたんだよ」

「しょうがないだろ。他の店の行列が凄かったんだから」


 お店の中で席に座ると拓海は小声で剛に注意をする。

 拓海が剛達と昼食のため入ったお店は、ショッピングモールにあるお好み焼き屋であった。

 普通に洋食店に行くのかと思っていたが、どこもお昼前ということで長蛇の行列ができ、中に入るまで時間がかかるようであったためここに決めたらしい。

 男子は手前から永森、剛、拓海の順で座り対面の席に光、山口、篠塚の順で座る。

 現在剛と拓海は隣同士の席になったため、女子達に聞こえないように2人で話していた。


「お前、お好み焼きとか焼けるのかよ」

「それぐらい俺だってできるわ」

「本当かよ」


 拓海達の入ったお店は店員がお好み焼きのタネを持ってきて、各自で焼くタイプのお店であった。

 バスケ部の集まりでお好み焼き屋に行った時タネを焼いていた拓海と違い、剛がそういうことをしていた話を拓海は全く聞いたことがない。

 そのためこのようなお店に来て、剛にボロが出ないか心配であった。


「ねぇ、注文なんだけど何にする?」

「俺は豚玉がいいかな~~。光ちゃんも一緒に食べない?」

「そうだね。うちも健君と一緒に食べようかな」


 拓海から見て光と永森の2人は凄く打ち解けているように見えた。

 それは拓海と篠塚に対しても言えることだが、問題はこの遊びに行く企画を立案した剛である。

 いまだに2人共よそよそしく、まだ他人行儀な所が抜けていないように感じる拓海。

 何とかすることが出来ないかと考えながら、剛のことを心配そうに見つめる拓海だった


「剛は何にする?」

「そうだなぁ~~。山口さんは何がいい?」

「私はなんでもいいや。篠塚はどうする?」

「私も皆さんに合わせます」


 山口と篠塚の2人もそのように言うが、拓海としてもチョイスに困る。

 ここで少しでも剛の株を上げておかないと色々とまずい。

 今日の目的が剛の恋の成就という点なので、なんとかしようと拓海は考え女の子達に聞かれないように小声で剛にアドバイスをすることにした。


「剛、とりあえず2人の苦手なものをまずは聞け」

「何で?」

「2人の苦手なものを頼んで食べられなかったらどうなる? お前の評価駄々下がりだぞ」

「そうか、わかった‥‥‥‥2人共、何か苦手な食べ物とかってある?」

「私は大丈夫ですよ」

「あっ、わたしチーズがダメなの。出来ればそれ以外でお願い」

「わかった。じゃあ豚吉とかいう奴どうだろう?」

「それってチーズ入ってるじゃん。他の選べよ」


 拓海が剛に突っ込みを入れると、山口達がクスクスと楽しそうに笑う。

 剛は拓海を睨むが、とりあえず失態を笑いに変えることができてよかったと思う拓海であった。


「じゃあこのスジ牛ってのでいい?」

「うん。チーズも入ってないし大丈夫だと思う」

「私も大丈夫です。拓海さんは何にしますか?」

「俺はデラックスにしようかな。海鮮系の具材が入ってておいしそうだし」

「後はドリンクバーも頼もうか」

「そうだね」

「そっちは準備できた? 俺と光ちゃんの注文は決まったから店員さん呼んじゃってもいい?」

「お願い」


 永森が店員を呼び出すと流暢に全員の注文を頼んでいく。

 店員さんが厨房に戻るとメニューを席の端に戻し一息つく拓海。

 こんなに気疲れしたのは久しぶりだと、この時しみじみ思う。


「それじゃあ、ドリンクバーを取ってこようか。光ちゃんは何がいい?」

「うちはコーラでお願い」

「わかった。ちょっと待ってて」


 永森が立ち上がり席を離れるとドリンクバーの所へと歩いていく。

 それを見て剛が立ち上がろうとしている手首を拓海はすかさず取る。

 ムッとした表情をするが、拓海としてはそれどころではない。

 自分の分だけ取りにいくつもりかよと心の中で思いながら、必死に手首掴んでいた。


「何だよ、拓海」

「愛梨ちゃんの分は俺が持ってくるよ。何がいい?」

「持ってきてくれるんですか? ありがとうございます。それじゃあ私は烏龍茶で」

「山口さんは? 剛が持ってきてくれるから好きなもの言っていいよ」

「私も烏龍茶でお願いしてもいいかな? ごめんね、剛君」

「いや、別にいいよ。すぐ持ってくるから、ちょっと待ってて」


 剛の手を離した拓海はその場に立ち上がり、ドリンクバーのコーナーに剛と共に行く。

 ドリンクバーのコーナーに向かう拓海の表情は冴えない。

 この短時間でそれだけ疲れきっている拓海だった。


「さっきはありがとう、拓海。全く気づかなかったわ」

「別にいいよ。とりあえず今日はできる限りフォローするから。あまり気にしないで」

「おっ、剛達も来たんだ」


 ドリンクバーに行く途中の廊下で、拓海と剛は永森に出会う。

 その両手にはコーラとメロンソーダの2つが入ったコップが握られていた。


「永森君、もうジュース入れてきたんだ」

「もちろん。先行ってる」


 そういい残すと、永森は先に山口達の待つ席の方へと戻っていく。

 先程から拓海は永森のことが胡散臭く見えてしょうがない。

 今日の言動や行動を見ていると永森は自分の利益のために動いている。

 せっかく剛の誘いで来ているのだから、もう少し剛のことも考えてくれてもいいのにと思う拓海だった。


「なぁ、剛。今日って何で永森君を誘ったの?」

「悠馬の代わりを探してたら、あいつが行きたいって言ってたから決めたんだよ。協調性もあって適役だろ?」

「そうかぁ?」

「そうだよ」


 拓海にはそんな風には全く見えなかったが、剛の手前文句を言うことが出来ない。

 なので難しい顔で剛にちょっとした反抗をするにとどめておいた。

 

「それよりお前の方こそ、篠塚さんのこといつの間に下の名前で呼んでるんだよ? そっちの方がビックリしたから」

「あれはなりいき上そうなっただけだから。別に他意はないよ」

「なんだかんだお前ら上手くいってるんだな」

「そうか?」

「そうだよ。この調子で頑張れよ。今度ダブルデートしようぜ」


 剛にわけもわからずはげまされ、首をかしげながら飲み物をコップに入れる拓海。

 途中剛とは特に会話もなく、頼まれたものを持って席へと戻るのだった。


「拓海さん達も帰ってきました」

「遅くなってごめん」

「全然待ってませんよ。それよりありがとうございます。飲み物を入れてきてくれて」


 篠塚はそういい、拓海から飲み物を受け取る。

 ありがとうと素直に言う篠塚に対して、拓海は高い好感が持てた。


「山口さん、これ」

「ありがとう。剛君」


 山口にそのようにねぎらわれ、剛もその場に座る。

 しばらく永森と光の2人と残りの4人という構図で話をしていた。

 丁度おなかが空いたねという話が話題に挙がった頃、店員がそれぞれの注文したものを運んでくる。


「おまたせしました。こちらはデラックスになります」

「すいません。こっちです」

「スジ牛のお客様は」

「それもこっちにお願いします」


 店員さんからお好み焼きを受け取るとスジ牛の器を拓海は剛に渡す。

 自分は海鮮の器を手にすると一旦机の上に置き、剛の方を見る。

 剛は具の器を持ちながらその中をただ見ているだけだったので、拓海は再び小声で話しかけるのだった。


「剛、わかっていると思うけど、その中の具をかきまわすんだからな」

「わかってるよ。それぐらい」

「なるべく空気が入るようにぐるぐるかき混ぜて、丁度よくなったら鉄板の上にしくんだぞ」

「大丈夫だよ。ちゃんとやるから」


 拓海が周りに聞こえないぐらいの音量で剛に話しかけると、不慣れな手つきでお好み焼きを作り始める剛。

 手つきは危なっかしいが、かき混ぜて鉄板にのせた所まで見届けるとほっと胸をなでおろす拓海であった。


「拓海さんは作らないんですか?」

「えっ?」

「拓海君、もしかしてこういうの苦手だったりする?」

「いや、別にそういうわけじゃないけど」

「私がやりますよ。家でもこういうことをやっているので得意なんです。それにさっき飲み物を持ってきてくれたお礼をさせて下さい」

「別にそんな気を使ってもらわなくても」

「大丈夫ですから。たまには私にもやらせてください」


 そういうと拓海の席においてあるお好み焼きの器を取り、篠塚が勝手に作り始めてしまう。

 それを見て篠塚に対して申し訳なく思うも作戦を変更し、拓海は剛が作っているお好み焼きの方に全身系を集中することにした。

 剛にミスがないように。


「剛君手際がいいね。普段からこういうことやってるの?」

「多少はね。でも俺不器用だからあんまり上手くできないけど‥‥‥‥」


 嘘つけと心の中で思いつつ楽しそうに山口と話している剛を尻目に、焼いているお好み焼きを注視する拓海。

 拓海が見た所これ以上焼いてしまうとこげてしまう可能性もあると判断して、剛の脇を肘で小突く。


「何だよ、拓海」

「お好み焼き焼けてるぞ。ひっくり返さないとこげちゃうから」

「わかってるよ」


 女性人に聞こえないように剛に話しかけると、剛もお好み焼きをひっくり返す。

 裏向きにひっくり返してみると丁度いい感じで焼けていた。


「剛君、いい感じで焼けてるね」

「ありがとう」


 小声でサンキューという剛の声を聞きながら、拓海は再びお好み焼きを注視する。

 楽しそうに山口と話す剛のこと等気にせず、今は剛が失敗しないようにフォローするのが精一杯の拓海であった。

 やけにうるさい店内の喧騒を聞きながら、お好み焼きが焦げないように目を向ける拓海。

 その目つきは真剣そのもので、それ以外は目に入ってこなかった。


「拓海さん、拓海さん」

「あっ、ごめん。どうしたの? 愛梨ちゃん」

「もうすぐお好み焼きできますけど、拓海さんはマヨネーズをかけますか?」

「うん。お願いしていい?」

「じゃあかけますね」


 篠塚がお好み焼きをひっくり返してるのを見て、剛も同じように自分が焼いているお好み焼きをひっくり返す。

 剛のお好み焼きも丁度いいぐらいに焼けていて、拓海は備え付けてあったソースとマヨネーズを手渡すのであった。


「剛、これ使って」

「サンキュー、拓海」

「拓海君って本当に剛君と仲がいいよね」

「俺と剛ってそんなに仲良く見える?」

「うん、2人って親友って感じじゃなくて戦友って感じがするよね」

「そうなんだよ。俺達超仲いいから」

「やめろ、剛。手を肩に乗せるなよ。そんなことより早くお好みやきわけろ。焦げるぞ」


 そんなバカ話をしている間に篠塚が剛達の分のお好み焼きの取りわけもしてくれていた。

 取り分けると皿にのせたお好み焼きを拓海に渡してくれる。


「これは拓海さんの分です」

「ありがとう」

「上手く作れたかわからないんですが、味はどうですか?」

「いや、これすごくおいしいよ。愛梨ちゃん料理も出来るんだね」

「それほどでもないですよ。でも、拓海さんにそういってもらえてうれしいです」


 褒める拓海に対して篠塚は終始照れていた。

 それを見て拓海の脇を肘で小突く剛。

 剛の対面に座る山口も、肘で隣に座る篠塚の脇を楽しそうにつついていた。


「そういえばさっきも思ったんだけど、拓海君って篠塚のこと下の名前で呼んでるんだね」

「まぁ、それは色々あったからね」

「篠塚もやるじゃん。私ちょっと見直したかも」


 篠塚は照れているのか、俯いて顔を赤くしている。

 その2人の様子を見て、剛は拓海の肩を揺さぶっていた。


「お前いつの間にそんな仲よくなってるんだよ? 俺を差し置いて」

「剛、そんな肩を揺するなよ。そうだ、剛も山口さんのこと名前で呼べばいいじゃん」

「えっ?」


 肩の揺さぶりが止まり、思わず後ろの壁に頭をぶつける拓海。

 山口の方に視線を移すと、彼女は何か考えるそぶりを見せていた。


「私は別に構わないけど。拓海君と剛君のことも名前で呼んじゃってるし」

「えっ? いいの? 本当に?」

「うん。剛君達が迷惑じゃなければ、そう呼んでほしいかな」

「迷惑じゃないよ。むしろこっちからお願いしたいぐらいだから」

「剛、がっつきすぎだよ。少し落ち着け」


 拓海が剛を落ちつかせていると、剛は何度か深呼吸をしている。

 それを見て笑ってくれているのを見ると、今のやり取りも失敗ではないように見えた。


「じゃあ、改めて‥‥‥‥瑠璃ちゃん」

「ちょっとぎこちないように見えるけど、まぁいいか。拓海君も私のこと名前で呼んでいいよ」

「わかった。瑠璃ちゃんって呼べばいいよね?」

「拓海君はすらっとそういう言葉出てくるよね? もしかして女の子の名前とかって呼び慣れてる?」

「そんなことないと思うけど‥‥‥‥」


 そのように話す拓海だったが、頭には真里菜とこのみの顔が浮かんだ。

 それと同時にどこかからお好み焼きを焼くへらを落とした音が聞こえた気がした拓海。

 周りを見回すが自分の周りにヘラを落としたような客はいなかったので、拓海は幻聴だったことにするのだった。


「拓海さん、どうしたんですか?」

「なんでもない。俺の気のせいだと思う」

「そういえば光は? さっきからこっちの会話に入ってこないけど」


 拓海達が光と永森の方を見ると、2人で楽しそうに話している姿が見えた。

 それをあっけに取られた表情で4人は見ている。


「健君って軽音楽部に入ってるんだ。文化祭でも演奏するの?」

「もちろん。その時は光ちゃん達も呼ぶから、来てくれるかな?」

「もちろん、その時はうちも絶対行く」

「そうしてくれるとうれしいよ。あっ、店員さんミックスもんじゃ1つ。うん? どうしたの? 4人とも」

「いや、なんでもない」


 剛が光達のことを見て、うらやましそうな視線を向けながら自分の皿に置かれたお好み焼きを食べ始めた。

 結局この後拓海と剛はお好み焼きを注文することなく、山口達との会話に終始し昼食を終える。

 会計後、恋人同士の雰囲気をかもし出す光と永森に対して、どこかよそよそしさが抜けない剛と山口のことを拓海は不安に思うのだった。

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