私といて楽しいですか?
ゲームセンターについてからは各々がやりたいゲームをやっていた。
永森と光はゾンビを倒していくシューティングゲームをしており、剛と山口はレースゲームをやっている。
拓海は何をしているのかといえば、ベンチに座っている篠塚にお茶を買っているところであった。
「篠塚さん、どうしたんだろ?」
今日の篠塚の様子はどこかおかしいと拓海は思う。
よく考えれば電車の中でも殆ど話していなかったり、一緒に歩いていた時も会話らしい会話はなかった。
そんな彼女のことを心配しつつ、自動販売機で買ったお茶を篠塚に手渡す拓海だった。
「お茶買ってきたよ。紅茶と緑茶どっちがいい?」
「ありがとうございます。出来れば紅茶の方でいいですか?」
「はい、どうぞ」
篠塚に買ってきた小さい紅茶の入ったペットボトルを渡す拓海。
それを受け取った篠塚は、ペットボトルの蓋を開け紅茶を一口のみ俯いてしまう。
やっぱり今日の篠塚は以前会った時とは様子がおかしい。
どこがどうおかしいかはわからないが、拓海は篠塚を見てそのように思った。
「そういえば篠塚さん、今日はどうしたの? 何か元気ないけど?」
「いえ、別に何でもないんです」
「言ってみればすっきりするかもよ。さっきも言ったけど、俺でよければ相談にのるから」
努めて明るく拓海は話すが、篠塚は相変わらず俯いたまま顔を上げる気配がない。
まるでその話を拓海にするのがためらわれているかのように、重い口を開く。
「でも、拓海さんに悪い気がして」
「別に俺は気にしないよ。何でも言っていいから。だから俺に話してみてよ」
「じゃあ聞きますけど、拓海さんは私といて楽しいですか?」
「えっ?」
拓海としても篠塚の意外な質問に戸惑ってしまう。
篠塚といても楽しくないわけではないが、確かに今日はあまり篠塚のことに気を向けていなかった気がする。
剛が山口と仲良くなれるかばかり気にかかっていて、篠塚のことを見てないように思った。
「別に楽しくないわけじゃないよ。でも今日は別のことを考えてたりしたから、篠塚さんのことをあまり考えてあげられなかったかも。ごめん」
「謝らないで下さい。最近色々とお忙しいようでしたし、今日も何か色々なことに気をかけていらしたので。てっきり私といても楽しくないのかなって思って」
「そんなことないよ。考え事してたのは本当だけど、篠塚さんといて楽しくないとかそういうのは絶対にないから」
「本当ですか?」
「本当だよ。篠塚さんと一緒にいて楽しくない人なんていないよ」
拓海のその気持ちだけは本当だった。
篠塚と一緒にいて楽しいが、剛のことがどうしても気にかかってしまう。
それと同時に今日サボってしまった練習のことも拓海気にかけていることの1つにあげられた。
小五郎から「たまには休むのも大事だ」と言われたが、このみのむくれた顔が頭の底に残っている。
先程からちょくちょくこのみのことが頭に浮かぶのも、その罪悪感からだと拓海は思った。
「でも私っていつも静かで、光ちゃん達にくっついているだけですから。私自身にいい所なんてないんです」
「そんな事ないと思うよ。この前のカラオケだって俺の歌フォローしてくれたのすごいうれしかったし。正直歌うのって俺すごい苦手だからさ、ああいうことしてくれるとすごくうれしい」
「そうなんですか?」
「うん。俺はすごくうれしかったよ。だから自分を責めるようなことはあまり言わないでほしいかな」
「わかりました。すいません、こんなことを言ってしまって」
「別に気にしてないよ。溜め込むよりも吐き出してくれた方が全然いいから。俺もエスパーじゃないから人の考えてることなんてわからないしさ」
「私もです。拓海さんにこのことを話してよかったです」
そういうと篠塚は拓海の方を見て笑う。
今まで暗い表情をしていた女の子が笑ってくれたことに、拓海は思わずほっとしてしまう。
「ついでにもう1つ聞いてもいいですか?」
「うん。この際だから何でも聞いてよ」
「拓海さんが最近忙しそうにしてるって瑠璃ちゃんから聞いたんですけど、何をしていたんですか?」
篠塚の質問に拓海はどう返答しようか悩む。
バンド活動のことは秘密って程でもないが、そのことを篠塚に話していいのかを考えてしまう拓海。
しかし古川に自分達の話もしたので、別に話しても大丈夫かなと思い直すのだった。
「あの、話したくなければ構わないですよ。言いたくない事もあると思いますから」
「そんなことないよ。実は最近俺バンドを始めたんだよ。友達と」
「それって剛さんも入ってるんですか?」
「剛は関係ないよ。俺と別の同級生と1つ下の女の子の3人でやってるんだ」
「へぇ~~、すごいですね」
「すごくないよ。俺ギターも弾いたことないド素人だよ。普通に考えてありえないって」
「ギターを担当されてるんですか? やっぱり拓海さんはすごいです」
篠塚は拓海達が組んだバンドの話を好意的に解釈しているようである。
よくよくメンバーを考えてみると、そんなにすごくないと思う。
確かに拓海以外のメンバーのレベルは高いが、いかんせん個性が強い。
我侭放題のこのみに優しいが気の弱い古川。よくよく考えると問題がありすぎなんじゃないかと思う拓海だった。
「ありがとう。でも俺ギターを担当してるんだけど、みんな個性が強くて大変で」
「へぇ~~、私も会ってみたいです」
「あんまりお勧めはしないけど。月末にライブもあって会場は‥‥‥‥ここのステージだ」
小五郎に言われたライブのステージがここにあることに拓海はいまさらながら気づく。
もしその場所が見れるのなら拓海も1度は下見をしておきたい。
拓海の話を聞いた篠塚も驚いているようだった。
「それなら後で見に行きましょう」
「でも、剛達の行きたい所もあるしな」
「なら映画を見終わったらみんなに相談ということでどうですか?」
「それならいいか」
剛達に相談ということであれば、全然大丈夫だろうと拓海は思う。
拓海自身の近況も話せるし剛達にもいい話題を提供できることになるなら、特段悪い結果にならないと考える。
上手く行けば剛と山口の2人で拓海達のライブを見に行くいい口実になり剛の次のデートをアシストできる、そんな打算も拓海には生まれた。
「じゃあ、後で見に行きましょう」
「そうだね」
「月末の拓海さんの歌も楽しみです」
「俺は歌わないんだけどね。歌ったら観客全員耳押さえてうずくまるよ」
「それもそうですね」
「そこは否定してよ」
拓海が篠塚にツッコミを入れ、2人の間に笑顔が生まれる。
しばらくそうして笑っていると剛が山口を連れて拓海の方へとやってきた。
「剛、どうしたんだよ?」
「映画までまだ時間あるじゃん。だから先にお昼でも食べようって話になったから、拓海達を迎えに来たんだよ」
「わかった。それでどこ行くの?」
「まだ決めてないけど」
「なんだそりゃ?」
「いいからいいから。あっちに健達も待たせてるから早く行こう」
「ちょっと待てよ」
先に行く2人のことを見ながら篠塚と一緒に歩く。
歩こうとする拓海の腕を篠塚に掴まれた。
「篠塚さん?」
「愛梨でいいです。私も拓海さんのことを名前で呼んでますし、むしろ愛梨って呼んでください」
「わかった。じゃあ愛梨ちゃんって呼ぶことにするけどいい?」
「はい」
2人でそのような話をしながら剛達の後ろをついていく。
仲むつまじく歩く2人のことを恨めしげに見る視線があることを、この時拓海達は知らなかった。




