1話:魔梟の尋問
異世界×マフィア×転生
からしか得られない栄養素があると聞いて
深夜の埠頭。月明かりに照らされた海面が、静かに揺れている。
鎖で吊るされた男——サンビーノ。足には重い錘。海面まであと数メートル。周囲には黒いスーツ姿の男たちが十数名、無言で立っている。彼らの胸元には小さな鷹の紋章。ファルコーネファミリーの構成員だ。
一人の青年が、煙草を咥えながら近づいてくる。整った顔立ちだが、灰色の瞳には感情が見えない。黒のスーツに身を包み、右手には革手袋。
「いいかサンビーノ。お前のいとこだか、はとこだか知らねーが、適当な仕事をしたやつは皆沈めたがな、お前はどうなんだ?えぇ?」
煙草の煙を吐き出しながら問う。声は静かだが、その静けさが却って恐ろしい。
「消えた弾丸の山はどこだ?ん?」
サンビーノが恐怖で震えている。額から脂汗が滴り落ちる。
「マルコさんよぉっ!ほんとに知らねんだっ!今朝起きて、倉庫に向かったら…」
マルコが溜息をつく。煙草の灰を海に落とした。
「おーいルチア。こいつ、お前が適当な仕事してると思ってるらしいぞ?」
倉庫の影から一人の少女が現れる。ルチア・カルボーネ、十八歳。栗色の髪を後ろで束ね、黒いパンツスーツに身を包んでいる。整った顔立ちに、計算高そうな笑みを浮かべている。
「失礼しちゃうね~。お前が倉庫からせっせと弾を運んでた所は調べが付いてんだよ~。」
彼女が鎖を支えるウインチのレバーに手をかける。
「おっと手が滑った~」
ガシャン。
フックが一本外れる。サンビーノの体が傾き、さらに海面に近づく。
「ひっ!や、やめ…!」
柱に寄りかかっていた男が、煙草をくわえたまま口を開く。痩せ型で、飄々とした雰囲気を纏っている。くたびれた黒のスーツに、わざと緩めたネクタイ。
「こいつは俺と同じ匂いがするんだよなぁ。コソ泥というか、チンピラというか」
サンビーノが必死の形相で叫ぶ。
「と、とんでもない!あんたは…俺なんかよりも…なんかこう…いい感じだ!」
フランコが肩をすくめる。
「おぉっと手が滑った~」
ガシャン。
もう一本のフックが外れる。今度は錘の重みで完全に海面ギリギリまで落ちる。波が彼の足先を舐める。
「わ、わかった!わかったから!話す!話すから!」
マルコがゆっくりと歩み寄る。革靴の音だけが、静寂の中で響く。
「最初からそうしろよ。で?弾丸はどこだ?」
「う、売った!闇市場に流した!金は…懐に…」
マルコの目が細くなる。
「はぁ~。馬鹿だ馬鹿だとは思ってたがつまり、ファミリーの物を横領したと?」
「ち、違う!ほんの出来心で…」
「なんでバレねーと思ったんだよ…お前の脳みそはスポンジか何かか?…ルチア、額は?」
ルチアが懐から小さな手帳を取り出す。
「弾丸五千発。市場価格で銀貨二百五十枚…金貨四分の一ってとこね。この馬鹿がこの間、娼館で豪遊してた件てここからきてんじゃないの?」
マルコがサンビーノに向き直る。
「そうか。ザンビーノ残念だよ。お前とする馬鹿話は嫌いじゃなかったがな…ここがお前の墓場みてーだ」
煙草を海に投げ捨てる。赤い火が放物線を描いて落ちていく。
「沈めろ」
「待っ——」
ザブン。
鎖が解放され、サンビーノが海に沈む。気泡が浮かび上がり、やがて静かになる。
スーツ姿の男たちは表情一つ変えない。これが日常だと言わんばかりに。
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フランコが肩をすくめ、天に十字を切りながら祈りを捧げた。
その態度はどこか飄々としており、次の瞬間にはなんでもなかったような顔をして喫緊の問題を口にした。
「問題は弾丸だ。五千発の補填をどうする」
ルチアが手帳をパラパラとめくる。
「今月の利益から出すと、他の事業に影響が出るわね。密造ラインをフル稼働させても、三週間はかかる」
マルコが埠頭の先を見つめる。海の向こうには、灯りの消えた工場地帯のシルエット。
「いいシノギはないか、ルチア」
「急にそんなこと言われても…」
困惑気な表情を浮かべ、ルチアは必死に手帳をめくるもいいアイデアは出そうにない。
そもそも、マルコも案を期待してのことではないようで、視線は先ほどザンビーノを沈めた箇所から動かない。
「ザンビーノの使った娼館から取り立てるってのは?」
「フランコよー。お前もこの世界長いならわかるだろ?部下が横領した金でお前のところで遊びまくった。だから金返せ…なんてタイトルの喜劇だ?一瞬でここいらの笑いものだぞ?」
三人が目を合わせ笑い合う。
ひとしきり笑った後に三人とも深いため息を吐く。
しばしの静寂が周囲を包む中マルコが小さく笑う。皮肉めいた笑みだ。
「禁酒法でも制定されないかな~」
フランコが首を傾げる。
「は?酒を禁止にして、どうやって儲けるんだ?」
ルチアも困惑した表情。
「マルコ、また変なこと言い出した。酒が禁止されたら、酒場も困るし…」
マルコは答えない。ただ、海を見つめている。
説明してもいいが長くなるからなぁと一人ごちるマルコ。
確かに、今の二人に禁酒法時代のアメリカは~などと話しても理解を得られないだろうことは明白だ。
そんな中、ルチアが思い出したように言う。
「あ、そういえば。最近、あんたのシマの端っこでヤクを売る獣人の孤児がいるって話」
マルコの目が鋭くなる。
周囲の男たちの息をのむ声が聞こえてくる。
「…ヤク?」
「ええ。小さな子供を使って、貧民街で捌いてるらしいわ。まだ小規模だけど」
マルコが煙草に火をつける。一瞬、炎が彼の顔を照らし出す。その表情は——怒りとも、何とも言えない複雑なものだった。
「儲け話は、いったん置いておこう」
フランコが意外そうな顔をする。
「珍しいな。マルコがシノギより優先することがあるなんて」
マルコは煙草を咥えたまま、埠頭を歩き出す。
「ガキを使ってヤクの商売か…」
その声には、わずかな感情が混じっていた。
「舐めてやがる」
ルチアとフランコが顔を見合わせる。マルコが「感情」を見せるのは稀だ。それも、怒りを。
スーツ姿の男たちに、マルコが指示を出す。
「全員引き上げる。サンビーノの処理は海に任せろ。明日、別の仕事がある」
構成員たちが無言で頷き、車に向かって歩き出す。
マルコ、ルチア、フランコの三人が最後に残る。
月が雲に隠れ、埠頭が闇に包まれた。
何話か書いてみて
好評だったり気が乗れば完結までもっていきたい(願望




