純とフェアリーテイルと訓練生
GW二日目。
それは退所しようとロビーを出掛かった時のことだった。
純さんにふたりの女の子が声を掛けていた。
見た感じ彼と同じ歳くらい、もちろんそれなりの美少女だ。まあ、私程じゃないけどね。
推測するにアイドル訓練生って感じ。
そんな彼女達の、その台詞に思わず吹き出しそうになってしまった。
だって、その台詞ってこれよ。
「あれ? チビ助じゃない。アンタ、まだいたんだ」
「あ、本当だ。最近見ないから、疾っくに辞めちゃったもんだと思ってたのにね〜」
恐らく彼が何者か知らないんだと思う。
だって、彼のことを彼女達と同じ訓練生だと思っているみたいな、そんな気安い台詞なんだもの。
それにしても『チビ助』って…。
確かに彼の身長は低い。
私やミナと比べても5cmくらい、クラスの男子達と比べたら10cm近くは低いだろう。
増してや、彼と同じ歳の御堂玲さんと比べたら30cm近く違うんじゃないだろうか。
恐らく150cmくらいだろう。
うん、明らかに低い。
ても、だからといって『チビ助』って、なんて怖いもの知らずな…。
彼の性格の悪さを知らないんだろうか…。
「全く、相変わらず口の悪い女どもだなぁ。
去年も同じこと言ってただろ。
本当に進歩の無い奴らだ。
そんなんだから、歳下で勃と出の新人なんかに、デビューを掻っ攫われるんだよ」
うわぁ…。思った端から早速これだわ。
「ちょっと、どういうことよ?
そんな話、聞いてないわよ」
あの子達のひとりが彼に問い掛ける。
どうやら私達のことは、まだ知られてないらしい。
「ねえ、私達のことって秘密なのかな?」
「う〜ん、よく判んないけど、恐らくそうなんじゃない?」
「でも、うちの親衛隊とか、加藤香織なんかには知られてるんだから、それって意味無いんじゃない?」
そうなのよねぇ、ミナじゃないけど、だったらなんでなんだろう?
う〜ん、よく解んないわ。
「今度、リトルの妹分がデビューすることになってんだよ。
ほら、そこでこっちを見てる奴らがそいつらだ」
そう言うと彼は、こっちの方へと顔を向けた。
「えぇ〜⁈ いつから気づいていたんですか?」
ミナじゃないけど、そんなの全く気づかなかった。
ふたりが私達を驚きと困惑の目で見ている。
うわぁ、なんだか凄く気まずい。
とはいえ、なにも言わないってわけにはいかないわよね。
取り敢えずはやはり挨拶かしら…。
「あ…、どうも…、フェアリーテイルの赤坂レナといいます」
「同じく、青山ミナです」
私の名乗りにミナが続く。
ああ、この造訛れない雰囲気がつらい。なんとかならないかしら。
「で、話に聞いてないとか言ってたけど、別に可怪しくはないだろ。
なんたって、お前らなんかには全く関係の無い話なんだし」
ちょっと、なんでそう相手を挑発するようなこと言うのよっ⁉ 余計に気まずくなるじゃないっ!
「はぁ〜…、やっぱり。
なんでこの人、女の子に悪態を吐くのがデフォルトなのかしら…」
ミナはというと、呆れて溜息を吐いている。
やっぱりって…、ああ、そう言えばこの人そういう人だったわ。
「それを言うならアンタだって同じでしょ?
なのになんでアンタが、その子達とそんなに仲良さそうにしてんのよ?」
ははは…、仲良さそうって…。
ついこの前まで私達が啀み合ってたなんて、この子達は知らないんだろうな。
彼って、性格に難が有るから、仲良くするのって結構大変なのに…。
本当、咲ちゃんって、どうやって彼と仲良くやっていってるんだろう。
増してや純ちゃんなんて、彼と付き合っているっていうし……。
「別にぃ。単にこいつらが中学の後輩ってだけだよ。
まあ、ちょっとばかり生意気で、手の焼けるのが難だけどな」
否、だから難が有るのは純さんの方でしょう。
まあ、あとが面倒だから絶対口には出さないけど。
「それはアンタのことでしょうが」
あ、やっぱりツッコまれた。
「それよりもアンタ達、相手はよく見て付き合わないとあとでどうなっても知らないわよ」
「そうそう、訓練生のくせに陸に練習にも来ないで、そのくせアンタ達相手に偉そうにしている本当にどうしようもない奴なんだから。
まあ、こんなちんちくりんじゃとてもじゃないけど、上を目指すなんて無理だもんね」
そんな台詞を残し、ふたりはその場を離れていったんだけど…。
「あ〜あ、やらかしちゃった。
でも、まさかあそこまで言っちゃうとはねえ…」
「まあ、知らぬが花ってことじゃない?」
本当、あれは知らないからこその態度よね。
まあ、知ったところで後の祭りなんだけどね。
「全く、お前らときたら口が減らない。
それとミナ、そこは“花”じゃなくて“仏”だ。
因みに“花”は“言った花”。
そんなんじゃ、高校受験が思い遣られるぞ」
うん、やっぱりこの人一言多い。
本当、性格悪いわぁ……。
※作中に『造訛れない』という言葉が出て来ますが、正しくは『居た堪れない』と書くようです。
これは、『その場に“居る”のが“堪らない”ほど気まずい』とか、『言葉を飾ることもできないほど痛(悼)ましい状態』という意味です。
『訛』には『訛る』『訛る』『訛る』という読み方が有り、話や言葉の内容や意味が変わるという意味、つまり『言い回し』や『誤魔化し』という意味が有ります。
『言』に『化』と組合せのとおりの意味ですね。
『造』は、まぁ『造る』です。
ただ、『造る』という読み方が有ったり、『神が降りる』みたいな語源だったりするのは、作者としては意図してなかったのですが…。[Google 参考]
始めは『痛訛れない』と当てようかと思っていたのですが、『痛訛』ってよく考えたら『痛い言葉に変換』ってことじゃないかと気づき、『言い回しを造る』って意味で『造訛』を当て『造訛れない』としました。
※作中に『デフォルト(default)』という言葉が出てきます。
結構耳にするこの言葉は『日常生活における標準、定番』という意味で、コンピュータの分野で使われている意味に由来するのだとか。
他には、金融では『債務不履行』、スポーツでは『棄権』をいう意味になるそうです。
英語では、『怠ける』『怠る』といった意味です。[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




