えっ? 終わったんじゃなかったの?
こんなサブタイトルですが、別に終わったわけじゃありません。この後もまだ続きます。ただ、次話の投稿予定日は未定です。出来るだけ早く投稿ようがんばりますので、それまでお待ち下さい。
春。それは一年の中で最も気候の良い穏やかな季節。雪や氷が溶け、植物が芽を出す時期である。寒さが次第に緩み、草木が萌え芽ぐみ、花々が蕾をつけ、満開となる。そして生き物達も冬眠から目覚め、新たなる活動を始める。それはまるで、新世界への生まれ変わりの如し、なんて謂うのは謂い過ぎだろうか?
追先日、中学を卒業したばかりのオレの心境は正にそんな感じだった。
そして今日、もうひとつの卒業を迎える。
否、卒業というよりも開放、または、失ったものを取り戻すと謂うべきかもしれない。
そう、漸く二年間の長きに亘る『早乙女純』としての役目を終えることが出来るのだ。
もう、女の扮りなんてしなくて良いんだ。
今のオレ達、リトルキッスは、業界トップクラスの人気アイドルにまで成り上がっている。
ここまでの地位となれば、これからの活動も安泰だ。最早、早乙女純無しでも、美咲ちゃんなら十分に遣って行けるだろう。
もちろん、だからといって、これで何もしないというわけじゃない。これからも美咲ちゃんを支えていくつもりだ。
これからは主にソングライターとして、陰から支えるということになるだろう。
その辺に就いては、今日これからの話し合いでということになる。
そんなわけで、オレは爽快無比たる気分で、これから新たな契約を結ぶべく、星プロ事務所へと向かうのだった。
「ちょっと、どういうことですかっ!」
オレの思惑は外れた。
何故だ!
確か、契約では中学を卒業するまでって話だったはずだ。
なによりオレはきちんと約束どおりに勤めて、否、それ以上に務めてきたはずだ。
リトルキッスの今の人気なら実績としては十分のはず。確り過ぎる程に義理なら果たしているはずだ。
なのに何故。
「仕方がないだろう。
4月から始まるアニメの新番組が在るし、CMだって始まる。それらのテーマ曲を歌うユニットが解散、その片割れが引退となるとイメージが良くない。
そんなわけで時期が悪いんだ。もう暫く我慢してくれないかな」
聖さんの言い分だけど、確かにそれはあるかもしれない。これからっていう番組やCMに対して水を差すことになる。
でも、然し…。
「でも、進学を機会に引退ってのは、結構よくある話でしょうっ。
学業に専念するためっていうのは、立派な名分になるはずだっ。
この前の曲にしたって、卒業をアピールするのに十分なはずっ」
そう、非公式の曲ではあるけど、卒業式の日に行なった謝恩会用に新曲を作って発表していたのだ。
そしてそのことは、その日の内にネット上で拡がり、その曲に就いても当然ファンの間で話題となっていたのだった。
というわけで、卒業アピールは十分に出来ていた。
こんなオレだけど、一応は未成年の学生だ。
如何に義務教育じゃないとはいえ、それは大義名分としては成り立っているはず。
「そう、その新曲だ。
ファンや業界があれだけ期待させておいて、そう易々と解散なんて出来るわけないだろう。
それに、そんな期待を咲ひとりに背負わせるつもりか?
ああ見えても、彼女も年齢相応の女の子だぞ」
なっ……、確かにそれは気にならないっていったら嘘になる。
くそっ! 織部さんめ…。
オレの気になるところを容赦なく責めてくる。
「そんなわけないだろっ!
今までどおり、ちゃんと支えていくに決まってるじゃないかっ!」
それに、美咲ちゃんはそんなに弱くはないはずだ。
「だが、それは早乙女純じゃないだろう。
頼れるパートナーを失うというのは、思った以上に堪えるものだぞ」
ぐぅぅ…、これには流石に反論出来ない。
……でも、然しだ。
それでも無視出来ない問題が有る。
「で、でも、現実的な話、いつまでも誤魔化せるもんじゃないだろ。
そのうち声変りだってするんだし、それに就いてはどうするんだよっ?」
「確かにそれが問題だ。正直に言って困っている。
それでもやはり、君には続投を頼みたい。
上からもそのように命われているし、なによりも織部くんの言うように、花房咲には、まだ早乙女純が必要だ。
そんなわけで、取り敢えず一年間。
そして、様子を視ながら一年毎に更新という形にしたいんだが、どうだろうか?」
む、一年か……。
確かにそれくらいなら、なんとか誤魔化しが効くかもしれない。
とはいえ、気をつけないと済し崩しなんてことにもなりかねないな。
なんか、今がそんな感じの気がするし…。
もちろん、聖さんにはそんな気は無いだろう。早乙女純の正体を知ってるわけだし。
ただ、そのことを知らない上の奴ってのが、どの程度納得してくれるかだ。
でも、やっぱりなぁ…。
リスクが高いばっかりで、いつまで保つかも判らない。
よく考えたら、今までよくバレずに遣ってこれたもんだ。
多分年齢的にギリギリセーフだったんだろうけど、今後はそれも通用するかが、怪しくなってくるんだよなぁ…。
今じゃオレも15歳だ、声変わりもすれば、体付きも男らしくなってくる。
……なってくれるよな…、きっと…。
兄貴みたいに化物染みてなくていい、というかそんなの真っ平御免だけど、責めて人並みにはなって欲しい。頼むよ神様っ。
おっと、今はそれどころじゃなかった。
今後の契約の話だった。
う〜ん、……やっぱり受け入れるしかないか…。
美咲ちゃんのことが心配なら、どうしてもそういうことになる。
「はぁ…、仕方がないしそれで諾いです」
他に良い方法を思い付かない以上、どうしようもないか…。
「すまないね。
でも、そう悲観しないでくれ。
君達リトルキッスの後輩達を現在育成中だ。
巧くいけば年内にも彼女達のデビューも可能だろう。
そうなれば君達の負担も幾らか軽減出来るかもしれないしね」
否、それって、反って面倒事が増えるパターンなのでは…?
「それともうひとつ、君には私の下でプロデューサー見習いとして働いてもらえないかと思っているのだがどうだろうか?
もちろん、まずはリトルキッス担当としてだけどね。
ほら、去年、君がリトルキッスの活動方針に就いてアドバイスをしてくれただろう。上の方でもそのことで、君のことを高く評価しているんだ。
君としても、仕事に就いていろいろと思うところが有るだろうし、正式に意見を言える立場というのは都合が好いんじゃないかな?」
なるほど、確かにそれは好都合だけど、でもオレにそんな大逸れたこと出来るだろうか。
「ああ、そんなに難しく考えなくても大丈夫だよ。
プロデューサーの仕事といっても、アイドルの方向性や売り出し方を考えていくのが主な仕事だ。
つまり、君が去年してきたことが大凡の仕事さ。
もちろん、曲の制作やなんかをする人も在れば、あれこれと細かいところまで指示するタイプの人も在る。それに就いては人それぞれだ。
まずは基本方針というか、戦略といったものを考えることが仕事だね。
まあ、物事は考え方次第。自分の好きなようにアイドルを育成出来る仕事と思えば宜いだろうね」
なんだよそれ。
随分と簡単そうにう説うけど、実際は責任重大だろ。
それを如何にも趣味で出来るみたいなこと言って、それに付き合わされるアイドルもいい迷惑だろうに…。
この人、そんな考えでこの仕事遣ってきていたのかよ…。人間、見掛けに依らないというけど、この場合『由らない』の方が相応しいそうだ…。まさかそんな変人だとは思いもしなかった。
「ちょっと純くん、何か変なこと考えてないだろうね。今言ったのは、飽くまで例えだからね。例え」
う〜ん、怪しい。
いくら普段が常識人だといっても、一度芽生えた不審感はそう簡単には払拭出来ない。責めて不信感でないことが辛うじてといったところだろう。
オレ、こんな人に師事して本当に大丈夫なのか?
とはいえ、他に頼れる人は在ないので仕方ないところではあるんだけど。
まあともかく、そんなわけでオレはまた、暫くの間『早乙女純』を続けることになったのだった。
※作中に出てくる『見掛けに依らない』ですが、他に『拠らない』とも書きますが『由らない』というのは無いようです。
なお『由る』の意味ですが、『物事の内容、またはそれに関係すること』となっており、『由来』や『由縁』といった言葉や『この事から』という意味の『これに由り』等といった使われ方をします。
他にも『それらしく見せ掛けること』『体裁をつくること』といった意味があったので、『普段の振る舞いに由らない』で『見掛けに由らない』でも可いんじゃないかと思った次第です。
因みに『依る』の意味は『物事に頼る、利用する』で『依頼』や『依託』といった言葉や『人手に依る』等といった使われ方をします。
語源は『憑依』。
……死霊術の類ですか…。
否、責めて神霊術ってことに…。
どちらにしてもオカルト絡みなようです。
漢字の旁の部分である『衣』ですが、古来、その『衣』には人の霊が取り憑くと考えられたようで『人』に『衣』を着させることで霊を憑かせる、つまり『依』らせるということのようです。
まさか、霊が『寄る』で『依る』だとは…。
う〜ん、知らなきゃよかった…。[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




