未来への不安と希望
12月31日。大晦日。
今年もオレは、真彦、由希と共に、除夜の鐘つきをするべく近所の神社へと行くことになっていた。
いや、今年は最初から、美咲ちゃんと天堂も一緒だ。
去年と違って、今年はちゃんとお互いの都合を確かめた上で、というか、美咲ちゃんの方から誘われてだったんだけど…。
一応、早乙女純の方でも誘われてたんだけど、当然そっちは参加出来るわけがない。丁重に断わらせてもらった。
あと、親衛隊連中も在ない。みんなして予定が入っているらしい。
正直、あいつらと一緒だと、目立ちかねないので幸いだ。年の瀬くらいは、のんびりとしたい。
そんなわけで、途中でふたりと待ち合わせすることになっていたのだった。
「純くん! 由希ちゃんも真彦くんもお待たせっ」
親しげな声に振り返ってみると、そこにいたのは、美咲ちゃんと天堂だった。
「いや、俺達も今来たばかりだから」
真彦がそう応えるが、当然それはテンプレだ。
実際には……、いや、別にそんなこといいか。
由希のアイアンクローを喰らいたくはないからな、うん。余計なことは言わないに限る。
「そんなことより、颯々と行こうぜ。
いつまでも、こんな所に居たって寒いだけだ」
そう言いながら、オレは手にしていた缶コーヒーを一気に呷った。
気づけば雪が降り出している。
寒いわけだ。
吹く風が冷たい。
「全く、本当にアンタってば煩悩だらけなんだから。
しょうがないから、颯々と行って、純の煩悩を拂ってもらうことにしましょ」
全く、こいつは口が悪い。
寒いって言っただけで、これかよ本当。
そもそも、煩悩ったって、必ずしも悪いわけじゃないだろうに。
そもそもこれは、人間に限らず、生物ならではの本能だ。
……煩悩と本能って似てるな。
…って、そうじゃない。
要は、生き物の行動原理なんだから、それを完全に否定するのは誤りって話だ。
度を過ぎるのが問題なだけだ。
増してや、聖書の言う十戒みたいなのを、過剰に解釈なんかしてたら、生きることそのものを否定することになるっての。
それで人間は罪深いって、だったらどうしろってんだかな。
しかも、そんな人間を末世に於いて浄化して回ることを救済ってんだから意味不明。
輪廻からの解放が救済ってことかもしれないけど、生きてる人間には現世が全て。
全く以って、いい迷惑だ。
そんなの受け入れるくらいなら、
仏に逢うては仏を殺せだ。
自分のことくらい自分で考えるっての。
まあ、だからこそ、煩悩に苦しむことになるんだけど。
でも、それが人生ってもんじゃないのか?
「なんか、純くんが、よく解かんないこと言ってる……」
「いつものことでしょ。
そんなの気にしてないで、颯々と行きましょ。
ほら、純も、妄っとしてると放いてくわよ」
呆っとか、否、なんか『妄』って字を当てられたような気がするけど…。
なんにしても、オレの煩悩は、否、『妄悩』は、除夜の鐘により、拂われることとなった。
▼
明けて翌日、1月1日。即ち元旦。
オレ達は昨日のメンバー5人で、昨日の神社へと来ていた。
目的は、言わずと知れた初詣。
美咲ちゃんの振袖姿が、今年も、とても可愛らしい。
真彦がすごく感激していた。
あと、由希も振袖だったけど、正直こっちはどうでもいい。
……て、去年も一昨年もやったし、もういいよな。
敢えて言うなら、今年も真彦が同じ目に合ってたとだけ言っておこう。
…オレ? 流石にオレだって学習する。
口に出さないだけの分別くらい身に修けているってわけだ。
序だ、オレも一応褒めておくことにするか…。
「美咲ちゃんもだけど、由希もよく似合ってると思うぞ」
ああ、歯が浮いてきそうだ…。
「え? そ、そう?
なんか、日頃からそんなこと言わない奴から、そんなこと言われると、なんか照れるわね…」
へぇ…、こうして見ると、由希も多少は増しには見える。
偶にだ、もう少し褒めておくか。
「ああ、本当、馬子にも衣装とはよく言ったものだ。
……ギャーーーー!」
……なんで?
由希のアイアンクローに、オレの顳顬が軋んで悲鳴を上げている。
「それ、褒め言葉じゃないから…」
はは…、そういやそうだった。
まさか、美咲ちゃんに指摘されるとは…。
…成長したな、美咲ちゃん。
てか、そんなことより誰か止めてくれっ。
頭が砕けるっ。ギブ、ギブだっ! GIVE UP!!
神社へと辿り着いた。
そして、参拝客も捌けていきオレ達も神前へと辿り着いた。
……と去年までなら言ってたところだが、今年はそうもいかなかった。
「うっわ〜、凄い人集り」
由希の言うように、神社の境内は凄い人混みだったのだ。
この時は知らなかったけど、後から聞いた話だと、この神社、昨年末から急に有名になったらしい。
その理由というのが、リトルキッス縁の神社ということで、縁起が良いということだとか。
なお、その発信源は美咲ちゃんだ。
う〜ん、確かに。
オレ達の成功って、ここでの参拝のお陰かもしれない。
もしかすると、この神社って、結構ご利益あるのかもな。
「人がゴミのようだ。はっはっはっはっ」
うん、美咲ちゃんの例えは、正に当を得ているな。
それにしても、“混み”と“ゴミ”を掛けるとは、随分と洒落たことをする。
でも、ちょっと不謹慎じゃないか?
「いや、その例えはちょっと、どうかと思うんだけど、美咲ちゃん」
「なに言ってんだよ、ネタだろ、ネタ。
ラ○ュタのムス○を知らないわけじゃ無ぇだろ?」
「略奪者の息子? なんだそりゃ?」
真彦のツッコミだけど、よく理解出来なかったな。
これで合ってたか?
「なに、態とらしいボケかましてんだよ。
てか、なに? 本当に知らないわけ?」
否、違ったらしい。
なんか有名なアニメ映画らしいけど、見てないんだよな、それ。
まあ、いっか。
害が無いならそれで良いよな。
少しずつ参拝客も捌けていき、漸くオレ達も神前へと辿り着いた。
鈴を鳴らして賽銭を入れ、二礼二拍手、両手を合わせてお祈りをする。そして最後に一礼をして立ち去る。
「ねぇ、みんなはなんてお願いしたの?」
こう尋ねてきたのは、やっぱり今年も美咲ちゃん。
「アタシは去年と同じ。家内安全と家族の健康、あとは道場のことかな」
由希の願い事は今年も同じ。ありきたりというか、まあ予想通りのテンプレだ。こいつはこれで堅実派なのだ。
というか、受験のことはいいのか、こいつ?
「それはアタシが、実力で勝ち取るべきものでしょ。
それに、努力はちゃんとしてきたんだし、結果がどうなったとしても自業自得。神頼みなんて必要ないわ」
ははっ…、なんともおと……。
うん、素直に男前で良いか。
最近、男前女子って言葉もあるみたいだし。多分、こいつみたいな奴のことを言うんだろうな。
次に応えたのは真彦だった。
「俺は普通に受験のことだな。俺の成績じゃ、由希みたいに強気なことは言えないし、正に神頼みだ。
ああ、俺も美咲ちゃんみたいに推薦だったら…」
随分、勝手なこと言ってやがる。
その推薦を受けるのが、どれだけ大変だったか知ってるくせに。
「まあ、僕も似たようなものかな。
僕も一般受験だし」
そう言や、天堂も一般受験だ。
でも、こいつ、成績は案外悪くないんだよなぁ。
多分、大抵のところなら無理なく合格するんじゃないか?
うん、改めて思う。こいつはチートだ。
「で、美咲ちゃんは?」
「私は、やっぱり受験のこと。
がんばったつもりだけど、すっごく不安なんだよね。
あとは、去年と同じかな。これからもずっと、この人気が続きますようにって」
まあ、予想どおりだな。
今までが今までだっからなぁ…。
「大丈夫よきっと。
あれだけがんばってきたんだもの。
神様だって、そんな意地悪しないわよ」
「ああ、『未来は決して、希望を裏切らない』って名台詞もあるしな」
「うん、ふたりの言うとおり、美咲ちゃんなら間違い無いよ」
由希も真彦も天堂も、みんな美咲ちゃんのことを信じてる。そしてそれはオレも同じだ。
「ま、大丈夫だろ。
受験は推薦だし、余程のことがなきゃ落ちないだろうしな。
それに人気の方はいまさらだろ。
なんたって、わずか2年で人気ランキング6位だぞ。
心配するだけ無駄ってもんだ」
本当、たった2年だもんなぁ…。
でも、これでオレも漸く、お役御免ってなるわけだ。
あとは、陰から美咲ちゃんを支えていければ、言うこと無しだ。
とは言っても、こんなお願いをしてたなんて、他人には、言えやしないけどな。
「で、そう言う純は、なんてお願いしたわけ?」
ははっ…、由希め、思ったさきから早速これだ。
「そんなの決まってるだろ。受験だよ、受験」
本当のところは違うんだけどな。
でも、こんな毎日が続いたならいいんだけどなぁ…。
まあ、移ろう日々も、また良しってことか…。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




