Rule of the Game -仁義無き戦い-
生徒会選挙立候補者は、主に三種類のタイプに分類される。
ひとつは、実績のある有力クラブからの立候補者。
自分達の部活動に有利な条件を求める者達だ。
野球部やバスケ部といった、人気の高い体育会系クラブが多い。
次に、学業成績に秀でた優等生。ただ、彼らの場合、大抵は自ら立候補するのではなく、担任教師やクラスメイトからの推薦で、本人の意思に沿わないことも少なくない。もちろん、本人の意志で、積極的に立候補する野心家もいないわけではないのだが。
みっつめは、ただ、生徒会選挙というイベントを行なうだけのために、生贄にされた凡人。当然だが、本人にやる気は全くない。
そして今年は、最初のタイプが幅を利かせていた。
その代表格が吹奏楽部である。
彼らは他の有力クラブとも手を組んでおり、最大の勢力になっているという。
そんな奴らに挑むべく、演劇部が起ち上がった。
ただ、彼らの勢力は小さく、現在、他の弱小クラブに協力を求めて回っている状態だが、それだけで奴らに対抗出来るかは怪しい。
何故なら、奴らを率先しているのが顧問教師であり、学校側も吹奏楽部に期待するところが大きいらしく、こちらに味方してくれそうにないという。
そこに、美咲ちゃん達へ、応援演説の打診という駄目押しがきた。
ただ、これについては失敗だった。
交渉内容は互いに有益なもので、それを否定する理由などないものだったのだが、その最中に美咲ちゃんの地雷を踏み抜いてしまったのだ。
これにより、交渉は決裂。
オレ達は吹奏楽部と敵対することになったのだった。
「ああ〜、どうしよう〜。
勢いで、あんなこと言っちゃったけど、これからどうしたら良いんだろ〜……」
はは…、まさかこれが、先日格好よく啖呵を切った人物と、同一人物とは思えない為体だ。
たが、あの時の美咲ちゃんは間違いなく本気だった。そして、その事に今でも後悔はないと言うだろう。
こう見えても、芯は結構強いのだ。
それは、ずっと側で看てきたオレが誰より知っているつもりだ。
オレは、そんな美咲ちゃんが嫌いではない。
そして、それはオレだけじゃなかった。
「聞いたぜ。全く…。
まさかあそこまで真っ正面から喧嘩を売るとは思わなかったぜ。否、正確には喧嘩を買う、か。
女の子がそこまでやるってんなら、男の俺が尻込みしてるわけにもいかないしな。
そんなわけで、微力ながら俺も協力するぜ」
「真彦くん!」
そう、そいつは真彦だった。
真彦が帰ってきたのだ。
不安に沈んでいた美咲ちゃんだが、今では喜色満面だ。
だが、それは期待が過剰だぞ。
まあ、精神的支柱が増えたんだから、良いって言や良いんだけど。
さて、オレ達の士気も揚がったことだし、ここらで何か考えないとな。
とはいっても、オレ達に出来ることは限られているんだが…。
▼
「ええっ⁈ どうしたのよっ⁈
あれだけ、正面衝突を否定してたのに⁈」
優美が驚くのも無理がない。
山内を始めとする演劇部の面々も同様に動揺している。
「ほ、本当に良いんですか?
私の応援演説をしてくれるなんて」
そう、オレ達が執った行動は、山内の応援演説だったのだ。
吹奏楽部の執ろうとした戦術を、そのまま返してやろうというわけである。
「構わないわよ。
って言うか、知ってるでしょ、何が起ったのか。
つまり、いまさらってわけよ」
由希の言うように、先日の一件は結構知れ渡っている。
だから、遠慮するは必要などないのだ。
他の立候補者にしても、奴らと手を組んだ以上、同類だ。
「でも、他の候補者に遠慮してたんじゃ…」
確かに、金田の言うとおり。
但し、それは追先日まで。過去の話だ。
「今はもう、そんな状況じゃないんでな。
だから、他の奴らには、どっちに付くか選んでもらう。
それが嫌なら、そいつらも敵だ。
第三勢力を気取るんなら、それぐらいの覚悟があって然るべきだろ」
「うわぁ…、全く容赦ねぇな…」
「当然だろ。戦いの場に傍観者なんて有り得ない。
況して、第三者による漁夫の利なんて、認める馬鹿が在るわけもない。
在るのは敵か味方かだけだ」
オレの発言に周りの全員が忌いている。
追加の言葉にそれは一層際立った。
でも、何か間違ったこと言ったか?
確かに、良識人しては過っているかもしれないけど、今はそんな場合じゃないはずだ。
中国の言葉にも『大義は小義に優先する』とあるし、イタリアのニッコロ・マキャヴェリも『君主論』で『敬愛されるよりも恐れられよ』と説いている。まあ、こっちは『安全を図るなら』と頭に付くのだけど。でも、軽く評られて裏切られる心配はない。…重度過ぎると反抗に遭うことになるけどな。吹奏楽部の奴らのように…。
よし、まずは第一歩だ。
▼
くくくくく……。これで奴らに駄目押しだ……。
「…どうしたの、純くん?
なんか、気持ちが悪いよ…」
はは…、どうやら、口に出ていたようだ。
だが、新たな一手が出来たのだ。
哂いも零れるというものだ。
否、感情が溢れたのだから、溢れるの方が良いのか?
こんな、どうでもいいことを考えるくらいに、今のオレは上機嫌だ。
だから、美咲ちゃんの言葉も敢えて気にしないことにしよう。…なにが気持ち悪いだ、失礼な……。
「実は新曲が出来たんでな。それでついな」
うん、気持ちを切り替えよう。
今はこっちの話だ。
「で、これがそうなんだけど、どう思う?」
出来たての曲を携帯のアプリから起動する。
さて、反応はどうだ?
美咲ちゃんは、黙って曲を聴き続けている。
そして、にこりと笑顔を浮かべた。
「もう、純くんったら」
但し、その笑顔は、いつもの無邪気なものではなく、いささか邪悪さを感じる、所謂黒い笑みだった。
似合わないぞ、美咲ちゃん。
…いや、それでも可愛いらしいんだけど…。
▼
選挙活動は、一層加熱したものになっていた。
吹奏楽部を始めとした有力クラブは、その部員の多さから、派手な演出の演説を行なっていた。
特に吹奏楽部なんか、後ろに部の楽団を率き連れており、その演奏で人目を集めている。
一方、弱小クラブ連合代表の、山内も負けてはいない……と言いたいところだったのだが…。
「くそっ! ここまでやるか。汚い奴らめ」
山内達の演説は、露骨な妨害を受けていた。
それはもう、他に言いようのないもので、暴徒による襲撃を仕掛けてきたのだ。
全く、まるっきりヤクザじゃないか。
こちら側も、ただヤラれているわけじゃない。
小藪や大西といった親衛隊連中が、暴徒による妨害を必死に抑えている。
ただ、それも奴らの計算の内だったようで、学校内に於ける集団暴行とかなんとかで、喧嘩両成敗で取り締まられることになったのだった。
それなら、襲撃側にもデメリットがありそうなものだが、奴らは無関係を決め込んでおり、実際、それを証明するものも無い。
それに対してこちら側は、その騒動の現場とあって、現行犯扱いという不条理っ振り。
流石に教師が背後に控えているだけのことはある。
なんとも卑劣だ。
幸いにして、停学などといった処分にはならなかったが、立候補は取り消し処分になってしまった。
これにて万事解決ってか?
冗談じゃない。
こんなの黙ってられるかってんだ!
だが、どうしたらいいのかよ。
せっかく、こっちも反撃だって時に…。
本当に詰んじまったのかよっ、くそっ!
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




