陰謀家? 策略家?
ストックが尽きたので再び休みます。
すみませんが次のストックができるまでお待ちください。
事件から一ヶ月と少し。
残念ながら香織ちゃんのことはすっかりと世間に知れ渡ることとなっていた。
いや、よく考えたら当たり前なのだ。マスコミの情報収集能力以前に、裁判を起こそうという時点でそれだけを隠せなくなるわけなんだから。増してやオレ達は世間から支持を集めたいわけだから隠したままっていうんじゃどうにもならない。
幸いなことにマスコミは被害者である香織ちゃんに同情的で、その協力のお陰で世論のコントロールに成功。香織ちゃんに対する悪意溢れる声は報道はもちろんネット上の投稿でさえ珍しいというレベルにまで抑え込むことができたのだった。
代わりに拡がっているのが加害者四葉幸房への批判だ。
若手実力派プロデューサーとして台頭してきた新興芸能事務所所長JUNを相手に、誰憚らず熱愛宣言をしていたトップアイドルの加藤香織。その一途な恋は高校時代の学友達の間では有名であり、今年の春の事務所の移籍がそのJUNを追ってのものであったことは今では誰もが知る事実。そんな彼女に突然降り掛かった災難。そりゃあマスコミにとってこの上ないエンターテイメントというわけだ。
ただマスコミだって馬鹿じゃない。事件の概要を解った上で不埒なアイドルの淫行だなんて香織ちゃんを貶めるテレビ局や出版社などどこにもなかった。むしろ女性を弄ぶように香織ちゃんに手を出した四葉幸房に批判が集まるのは当然といえた。特に女性のレポーターや評論家の言葉は辛辣で、香織ちゃんが受けていた女性層からの支持がどれだけ高かったかが窺えた。
ネットも連日大炎上。やはりこちらも女性投稿者の意見が過激で伏せ字等で誤魔化せばいいってもんじゃないだろうとツッコミを入れたくなるものばかり。
「ははは、やっぱ香織ちゃんは凄えな。世の中の女性の多くが香織ちゃん支持だ」
事務所の食堂で昼食を摂りながら何気なくテレビを眺めていたら、ワイドショーで特集をやっていた。
画面には今も熱く語るワイドショーの女性レポーター。見ているオレも全身の血が沸いてきそうだ。
「ふふっ。そんなこと言って、本当は各テレビ局に送ったプロモーションビデオが番組で取り挙げられ相乗効果を上げたことに計算どおりと気を好くしてるくせに」
一緒に昼食を摂っていた佐竹から例によってツッコミが入った。
でもそのとおりなんで気にしない。というか、むしろ佐竹の言葉は今のオレにとっては褒め言葉に等しく聞こえ、上機嫌により拍車が掛かってくる。
怒りと復讐をテーマに作り上げた今回のSCHWARZのプロモーションビデオ。期間的には突貫ではあったけど、それでもオレ達の思いの丈の全てを注ぎ込んだだけあって我ながら上出来といえる仕上がりだったんだ、ちゃんと効果が挙がるのも当然の話だ。
黒い情熱? 黒を名に冠するSCHWARZにはお似合いじゃないか。
「だよね。純ちゃんじゃないけど、純くんって本当こういう陰謀めいたこととかが好きだよね。中学の生徒会選挙の時とか、高校の学園祭の時とか」
「ちょっと美咲ちゃん、人聞きの悪いこと言わないでくれよ。それじゃまるで、いかにもオレがいつも悪巧みをしてるみたいじゃないか」
やはり一緒に昼食中の美咲ちゃんも当然のように佐竹のツッコミに乗ってくる。
でも美咲ちゃん、陰謀家呼ばわりはないだろう。せめて策略家と言ってほしい。
「あら、強ち間違いじゃないんじゃない?
だって陰謀とは相手を騙して陥れることで、策略とは相手を篭落して意のままにすることでしょ。だったら絶対前者じゃない」
美咲ちゃんに不満を述べたところ佐竹からこんな言葉が返ってきた。
美咲ちゃんはうんうんと頷き肯定をしているけど、オレは納得がいかない。
「どこがだよっ。いつオレが他人を騙して陥れたっていうんだよ。
確かに目的は四葉幸房を這い蹲わせる ことだけど、それは騙して陥れるんじゃなくて正々堂々真正面から叩き潰すことに意義があるんだ。そんな汚ねえことなんてしないっての」
佐竹のやつ、なにをとち狂ったことを言ってるんだか。いつもの佐竹らしくないってんだ。
「あら、でも例の相良って子はその手の恫喝で落としたんでしょ?」
オレの反論に対しさらに返してくる佐竹。
う~ん、いったいどうしたんだ?
「確かにちょっとばかり脅しはしたけど、騙して陥れたわけじゃないっての。
それにもし仮にそうだったとしても、それこそその子を味方に就けるのが目的だったんだ。ならば立派な戦術で、策略ってことでいいだろ」
やはり可怪しい。キレが悪い。普段ならこんな風に簡単に返せるようなことを言わないのに。
「まあ、確かにそれはそうだけど……」
うん。やっぱり間違いなく可怪しい。こいつがこうも素直に引き下がるなんて絶対に可怪し過ぎる。
「やっぱり陰険な謀だし陰謀だよ」
代わりに美咲ちゃんの方にキレがある。
本当、どうしたんだよ、佐竹。
※1 よく『這い蹲る』などといわれますが、調べたところ正しいのは『這い蹲う』なのだとか。
因みに茶道には茶室に入る前に屋外で口と手を清めるための道具に『蹲』というのがあるそうです。
[Google 参考]
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




