チョコレート、プラスね。っと
→サブタイトル、変更しました。[23年1月31日]
厄介な話が持ち上がった。
来月2月14日に発売するファーストアルバムの限定版に、オレ達の手作りチョコレートを付けるという話だ。
言うまでもなく、男性ファンを狙った企画である。
普通の女性アイドルなら、ファンも喜ぶんだろうけど、オレ達はまだ中学生だ。意味あるのか?
いや、十分ありだな。
好色な男性どもを露骨に狙うより、むしろ、こっちの方が微笑ましくて良いと、老若男女を問わず、人気が取れるかもしれない。
ただ、最近思うんだけど、中学生でもそういうのがあるっぽい。
オレって、全くそういうのに興味が湧かないのだが、それってオレが異常なのか?
オレがガキだってことなのか?
認めたくないものだな。若さ故の子供臭さというのは。
って、別にいいだろ。健全で良いじゃないか。
そんなことより、今回の企画だ。
「全部、工場生産の物じゃ駄目なの?
実際、限定版のその殆どをそうするという話だし。
そんな面倒なことしなくてもいいと思うんだけど」
「駄目だよ、純ちゃん。
例え、当日、一部の店舗限定だとしても、だからこそ、そこに意味があるんじゃない。
ましてや、私達の直接、手渡しだよ。
ちゃんとしないと」
やっぱり、よく解らない。
気持ちの問題ってことか?
まあ、そういうことなんだろうな。
なんとも、非効率的だ。面倒臭い。
それに、仕方がないか。
もともとはオレの自業自得だ。
あんな曲を作ったオレが悪い。
実は、このアルバムが、バレンタインに合わせて発売すると聞いて、つい、そういう曲を作ってしまったのだ。
前々からなんとなく判っていたけど、オレって、周りの物事の影響を受け易いようだ。
バレンタインといえば、女の子による手作りチョコレートなんて、連想してしまい、それならそんな曲をなんて思ってしまったのだ。
…で、作ってしまった。
タイトルは『お願い、マジカルチョコレート』
内容はなんのことはない、単に、チョコレート制作の手順を、そのまま歌詞にしただけの曲だ。
まあ、世の中には、コロッケだの、鶏団子鍋だのといったものの曲もあるんだし、いいよな、別に…。
と、まあその程度の曲だ。
実にあっさりと出来てしまった。
そんなわけで、例によって聖さんの元へ。
で、キャンディのときの菓子メーカー『昭和製菓』とのタイアップが急遽決まったというわけだ。
アルバム制作に関わるスタッフ達、宣伝や製造工場等の人達は、恐らく休日返上の上、過酷な時間外勤務の日々を過ごすこととなったことだろう。過労死してなきゃいいけど……。
それを考えたら、我儘も言えないか…。
いよいよチョコレートの制作の開始だ。
制作期間は約4週間。
とはいえ、オレ達が実際に携わるのは、そのうち8日間、土日のみだ。しかも、その中で他の仕事を熟しながら。本当に大丈夫なのか?
幸い、思っていたより、制作自体は楽だったりする。
以前は、市販のチョコレートを溶かすだけでも大変だったらしい。
ただ、耐熱ボールに火を掛けるだけってわけではなく、その際にいろいろコツがあるがらしく、細めな作業が求められるようだ。
それが、今では、電子レンジで1分30秒。
もちろん、その前に包丁などで、粗く砕いておく必要があるのだが。
チョコレートが溶けたところで スプーンで滑らかになるまで混ぜる。なお、それはチョコレートが温かいうちに済ませなければならない。
それが済んだら、まだ温かいそれを、スプーンで型に流し込む。
そして冷蔵庫へ投入すること30分〜1時間。
後はデコレートするだけで完成だ。
所要時間は約15分。但し、冷蔵庫で冷やし固める時間は除く。
と、まあ、こんな感じだ。
オレにも、なんとかなりそうな作業である。
ただ、問題は……。
美咲ちゃんとともに、チョコレート制作に入る。
先に述べたように作業自体は難しいものではない。
ただ、とんでもなく数が多いのだ。
それを4週間。約8日。
ただひたすらに作っていく。正に作業というわけだ。
そう、ひたすらに。
最初は和気藹々と、楽しそうにしていた美咲ちゃんも、次第に静かになっていき、今ではただ黙々と、作業に勤しんでいるといった有様だ。
気分はまるで機械の一部、ロボットにでもなったと錯覚しそうな感じがする。
きっとそのうち、無我の境地に到り、悟りでも啓けるんじゃないだろうか。
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2月14日。バレンタイン。
そして、リトルキッスのファーストアルバム発売当日。
「うわぁ〜、凄い人集り」
美咲ちゃんの言う通り、販売会場の前には、文字通りと言うか、言葉通りに、人が列を成していた。
それはもう、『川』の字なんて生易しいものではなく、よくこんな狭い(実際はそんなに狭くない)店内に、これだけの人間が入って来れたと感心する程。外にも行列が出来ているらしい。
「これ、チョコレート、数足りんの?」
あれだけ苦労して用意したってのに、この人数だと本当に足りるのか不安になる。それ程の人集りだったのだ。
そこからのことは覚えていない。
とにかく、お礼を言って握手して、商品とチョコを手渡す。
それを延々と繰り返す。
購入してくれるファンには悪いが、最早作業と呼ぶのが相応しい有様だ。
オレの記憶に残ったのはただそれだけだった。
「はぁ〜ぁ、凄かったねえ〜」
「全くだ。まさかここまでとはな」
あれだけあったチョコレートだったが、結局途中でなくなった。
あれだけ苦労して用意したのに、なんとも容易になくなったのだ。
オレ達のファンがどれだけのものかを、実感というよりも、体で体感した気分の一日だった。
作中では、簡単と言ったチョコレート作成ですが、実際のところはどうなんでしょう? 作者は作り方を知らないので、適当なことを書いており、実際には、このようにいくかどうかは不明です。実際に作った経験のある方、「チョコ作りをナメんな」なんて怒らないようお願いします。これはあくまで、純の感覚ってことで…。




