早乙女純とヤンキー後継者問題 (中編)
思ってたより長くなりました。いつもの約1.5倍の長さですね。その分、次の後編は短めになるかも?
教室内が騒ついている。
なんだ? いったい。
周りを見渡せば、なにやら後ろめたそうに視線を逸らされる。
オレが何をしたって言うんだ。
鬼塚さんの所から戻って来たオレに、真彦から凶報が齎された。
「純っ、今、帰って来たのかっ。
大変だっ。美咲ちゃんが拐われた!」
「はあっ⁈ なんだそれはっ⁈
どういうことだ、真彦」
「聞いた話じゃ、柄の悪そうな奴らに二、三人に無理矢理連れていかれたらしく、どうやら早乙女純を誘き出すつもりらしい」
「つまり、強行手段に出たってわけか。
くそっ。甘く見ていた」
「ああ、まさかこんなことになるとは思わなかった」
「由希はいったい何してたんだよ」
「丁度、便所にいったところを狙われたらしい。
今、美咲ちゃんを捜して回ってる」
「そっちこそ、今頃帰って来て、何処で油売ってたのよっ! 美咲ちゃんの一大事だっていうのに」
丁度いいところに由希が戻って来た。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。
それよりもこれからどうするかだ」
真彦の言う通りだ。
「確かにね。
で、どうする? アタシはもう一度、美咲ちゃんを捜して回るつもりだけど」
「そうだな…。
そうだ、純。お前、早乙女純と親しかったよな?
連絡着いたりしないか?」
「ああ、念のため早乙女純を呼び出しといた方が良いってことか」
「まあ、保険だな。流石に彼女を矢面に立たせるわけにはいかないしな」
「そうよね。出来るだけアタシ達だけでなんとかしないとね」
まあ、流石に拙いよな。この間、騒ぎを起こしたばかりだし。
「じゃ、オレは早乙女純を捜すってことだな」
というか、入れ変わるわけだが。
「ええ、アタシ達はもう一度、美咲ちゃんを捜し出して、可能ならば助けるってことね」
「いや、相手の動きも気になるし、由希は相手の様子を探ってくれ。俺が美咲ちゃんを捜す」
確かに、そうだ。意外とと冷静だな、真彦。
「よし、これで決まりだ」
とりあえずの、方針は決まった。
あとは動くだけだ。
▼
早乙女純に入れ変わると言っても、よく考えたら女の服が必要だ。
そうなると購買で購入ってことになるわけだが……。
嫌だな。でも、美咲ちゃんの身には代えられないか。
というわけで、女性用のシャツとスカートと…………、スパッツか……。
ええいっ。美咲ちゃんのためだっ。
周りの女子生徒達の視線が痛い。挫けそうだ。
不審な目ながらも、それらを手渡してくれる購買のおばちゃん。
オレはそれらを受け取ると、脱兎の如く駆け出したのだった。
これでオレも変態の仲間入りか……。
あぁ…、また新たな黒歴史が…………。
こんなこと言ってる場合じゃない。
さっさと着換えてしまわないと。
沈んだ気持ちを死ぬ気で切り替え、人目につきそうにない場所を探す。
やはり、定番は便所か……?
いや、それはない。絶対にない。
見つかりでもすれば、人生が終わる。
さっきの買い物だけでもヤバいのに、今度は完全に変質者だ。
余りにリスクが高過ぎる。
何処か別の場所を探そう。
▼
体育館前の準備倉庫付近までやって来た。
この辺りなら、きっと人目につかないはず。
しかし、そこには既に先客がいた。
奴らか?
倉庫付近に、2…3…4…5人か。
ついでに、隠れて倉庫内を覗ってみると…、
「何やってるんだよ、二人とも」
中には、動きの取れないように、縄みたいな物で縛られた三人の人物がいた。
美咲ちゃん。それに、鬼塚さんと倉敷さん。
他に、柄の悪そうな奴が三人ばかり。
鬼塚さんと倉敷さん、二人の顔は青痣だらけな上、鼻血が出ている。
一方、先の三人は怪我の一つすら見受けられない。
きっと、美咲ちゃんを人質にして、無抵抗な二人をボコボコにしたのだろう。
ん?
外から人が入って来る気配がする。
うげっ、ざっと数えて10人近くいる。
それにしても、よくもこれだけ集めたものだ。
「どうだ? 早乙女純はみつかったか?」
「いいや、全然駄目だ。
でも、今、校内で、オレ達が捜してるって拡めてるから、そのうち出て来ると思うぜ」
拡めてるって、つまり、それだけの人数がいるってことか。これは結構ヤバいかも。
▼
ようやく、変装するのに良さそうな場所を見つけた。
そこは水泳部の更衣室だった。
鍵が掛かってるかと思ったけど、意外にも掛かっていなかったので利用させてもらうこととする。
幸い、今は部活中。特に誰かのやって来る気配もない。
見つからないうちに、さっさと済ませてしまおう。
なんだか今日は、人目につくとヤバい勘違いをされそうなことばかりしてる気がするな……。
ともかく、これで変装も無事終わった。
さて、これからだが、やはりこのままじゃどうしようもなさそうだ。
こうなったらもう、手段は選んでられそうにない。
とはいえ、学校に泣きつけば、美咲ちゃん達がどうなるか判らない。
『窮鼠猫を噛む』じゃないけど、追い詰めれば、何をするか判らないのだ。
そして、何かあった後では遅い。
美咲ちゃんはアイドルだ。
そしてなによりも、女の子なのだ。
そんなの絶対、許されない。
▼
オレは今、倉庫の様子を窺っていた由希と真彦と合流して、美咲ちゃん達、人質の奪還作戦の打ち合わせをしていた。
「まずはオレが囮となって、奴らの気を引き付けといて、その間に美咲ちゃん達の救出。それから奴らをぶちのめすってのが理想だな」
「流石にそこまでは無理だって。
精々、助け出すまでが限度だろ。
それに純ちゃんも女の子なんだから、怪我しないようにしないと」
「それになによりも、問題はあの人数よね」
そうなのだ。流石にオレ達だけで、あの人数を相手にするのは厳しい。
そうかといって、このままあいつらを見逃すなんて、とてもじゃないが出来はしない。
だから、オレは覚悟を決めていた。
「だったら、こっちも数を集めりゃいいわけだろ。
今なら、まだ教室とかにも何人か残ってるはずだ」
というわけで、オレは校舎の方へと向かった。
▼
「頼むっ。この通りだ。力を貸してくれ!」
オレは各クラスを、頭を下げて回っていた。
曲がり紛いなき土下座だ。
だが、何処も反応は芳しくない。
「なんでだよ。
同じ学校の仲間だろっ。
それでもお前ら、男かよっ!
それでもお前ら、花房咲のファンかよっ!!」
オレの必死の説得にも、気不味そうに目を逸らすだけだ。
「もう、いいっ! お前らには失望した。
もうお前らには頼まない。
その代わり、二度とオレらのファンは名乗らせねぇ!!」
せっかく、見直し掛けてたのに。
所詮、ファンなんてこんなものだったのか…。
「話は聞かせてもらったよ。
水臭いじゃないか。
なんで、相談してくれなかったんだ」
「私達も協力するわ。
これでも、私達『御堂玲』のファンだもの。
その盟友リトルキッスのために、一肌脱ぐのも吝かでないわ」
そこに現れたのは、天堂だった。
そして後ろには、その取り巻きの女の子達。
その出現が流れを代えた。
「くそっ、女の子達に負けてられるかよ。
僕も参加させてくれ」
「ああ、俺もだ。
部活のことが気になったけど、そんなのもうどうでもいい。
ふたりのためだ。退部届を突きつけてやる!」
「俺達もやってやるぜ!」
陰気で小柄な男子に続いて、がっしりした体格の男子。さらに、それに次々と参加する者達が続く。
「ははっ。いいのかよ。
小藪、お前みたいな陰気なチビ。恐らく怪我じゃ済まないぜ。
それに大西。お前だってもうじきレギュラー取れそうなんだろ、それをこんなところで棒に振っていいのかよ」
「おおっ。俺達のこと知ってるのか」
「当然だ。同じ学校の仲間だろ」
「ふ、ははははは。
それなら全く後悔は無い。なあっ小藪」
「ああ。僕達のことを知ってくれている。これだけでもう十分だ。絶対に後悔しない!」
ははっ、なんだよ。
ちゃんといるじゃねぇか。
オレ達を支えてくれる奴ら、ちゃんといるじゃないか。
「よし、それじゃ一緒に、これから一緒に奴らを殴りに行くか!」
待ってろよ、美咲ちゃん。
今から、頼もしい援軍とともに助けに行くからな。




