体育祭 -借り物競争 (中編)-
借り物競争。この競技の難易度は思った以上に高かった。なんと謂うか、余りにも悪巫山戯の過ぎるお題が混ざっているのだ。
とは説っても、それは全部がそうだと謂うわけじゃなく、精々がが何割かってところだが、その何割かを引き当てるともうどうしようも無くなるのだ。先程の時間終了となった男子のように。
うん、アレは無理だ。実行すれば社会的にお亡くなりだ。
仮にそれを引いたのが女子だとしても果然りクリアは無理だろう。まさか自分の穿いてるやつをってわけにはいかないだろうからな。
それをやったら女子としての人生が終わる。痴女扱い間違い無しだ。当然他の子に借りるなんてのは、拒否されるのは目に見るまでもなく明確だろう。
つまり男女に関係なく引いた時点で詰んでいるのである。だからアレはそう謂う前提のお題ってことなんだろう。
なんと評うか、運要素が高過ぎだろ、この種目。
とはいえど、一応は一見無理難題的なものでもクリアは可能なものも有る。
例えば天堂のお題はアイドルのサイン。
普通ならば「こんなのどうしろってんだ?」って謂うしか無い無茶振りだが、自身がそのアイドルである天堂にとっては余りにも容易いものであり、審査員の目の前で早々っと手早く書き上げて終了だ。その子の名前入りと謂う手厚いおまけ付きである。そんな理由で天堂は余裕の1位だった。
一方で斑目の引いたお題は『鬘』だった。まあ校内に存在しない桂ってわけじゃないのでクリアは可能。難易度としては中間的ってところだろう。
このお題のポイントはふたつ。ひとつはこれが選りに選って漢字で書かれていたことだ。当然振り仮名は無しである。この時点で美咲ちゃんなんかだと途方に暮れているところだろう。
否、そんなことも無いか。自分で読めなきゃ読める奴に問えば済む話だしな。実際斑目はそうしているし、……今、オレに対して。
「ああ、『鬘』は『かつら』だな。ハゲてる奴とかの被ってるアレな」
もちろん時代劇とかで役者なんかも被ってたりするのだが、敢えてヅラであることを強調してやる。実例として、とある教師を指差して。もちろん当人に気づかれるような下手はしない。
「ええっ⁈ アレを借りてこいってんの⁈
いや、ちょっと無理でしょそれ」
思った通り斑目は狼狽し捲っている。
「否、別にアレとは限らないけどな。単に近場で目に着いたのが偶々そうだったってだけだ」
一応、嘘は吐いていない。ただ、それ以外のことに言及していないだけだ。よく読物なんかで使われる性悪な手法である。
「他にどこか思いつかない?」
ただ、こうして尋ねられると「訊かれなかったから」って言い逃れは通用しなくなるわけで、果然り現実は読物のようにはいかないってわけだ。
「さあ? 普通ヅラってんのは予備なんて持ち歩かないんじゃねえの?」
取り敢えずは話をヅラす……否、逸脱す。
否、ヅラの話に戻すんだから、『ヅラす』でも可いのか?
まあ、ともかく白逸れることには違い無い。
「はぁ……、依然りそうよねえ……」
深く溜息を吐く斑目。
見てるとなんだか良心が咎めてくるな。
しかしだ。こいつはオレを侮蔑してくれたからな。だからここは敢えて心を鬼にして 韜晦したままにさせてもらうことにする。
恨むんならオレを怨むんじゃなくって、あの時の自分自身を憾むんだな。精々後悔するが縦い。
結局斑目は散々に迷った末に、例の教師のところへと突撃を敢行。後で演劇部とかに行けば宜かったと教えてやるとしよう。
※1『心を鬼にして』とは『気の毒に思いながら厳しい態度をとる』という意味ですが、それは『相手や他の誰かのため』という絶対的前提での話です。いわゆる『偽悪』な行為なわけです。
対して作中の純の場合は『自分のため』なわけで、これでは『真性の悪』であり「心を鬼にして」なんて言う前から既に鬼畜と言ってよいでしょう。
つまり作中の使い方は誤用です。ご注意ください。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




