体育祭始まる -黄金の遺産-
些かネタバレな感じで申し訳ないのですが、今回、伊藤瑠花(名前だけは結構出る)と長谷川千鶴(最近出番が少ない)を比較しております。
で、その違いはというと瑠花は正々堂々、真っ向からの正攻法を良しとするリーダータイプ、対して千鶴は手段を選ばず、奇策もまた良しといった、頭の柔軟な輔佐役タイプって感じです。役人に喩えるならば、武官と文官、将軍と軍師みたいな感じでしょうか……って軍師は言い過ぎか。
まあ、要するに性格の違いからくるだけで、どちらも全力であることには変わりません。表で大胆に活躍するか裏で慎重に暗躍するかの違いです。って、こんな言い方じゃ、純じゃないですが千鶴の性格が悪いみたいですが、単に千鶴は慎み深い(?)お嬢様ってだけなのです。
体育祭当日は朝早くから好天に恵まれ、その空が高く、清々しいほどの青空の広がるさまは、当に秋晴れと謂うに相応しい程だった。
因みにこの秋晴れと謂う言葉だが、白露(9月7日頃)~霜降(10月22日頃)に用いられる季語で、時候の挨拶として用いる場合には11月に用いることがないよう注意が必要なのだが、実際によく知られているのは11月3日の晴れ特異日だったりする。なお、旧体育の日である10月10日も晴れの特異日と謂われていが、実際は確率が高いというだけで本当の特異日は10月14日。当然スポーツの日である10月の第2月曜日の今日も特異日と謂うわけではない。
まあ、そんな話とは恐らくは関係無いだろうけど、ともかく今日の体育祭は無事天候に恵まれることとなったわけだ。
開会式にて校長に依る開会の辞や生徒会長の挨拶、生徒代表の宣誓が行なわれる。
校長は毎年のこととあり平然としているが、生徒会選挙が終わったばかりでこの体育祭が初行事であろう生徒会長は些か緊張気味である。一方で生徒代表に選ばれた奴は、……果然り表情が硬いな……なんてことは無く、なんとも誇らし気だ。まあこう謂うのって大抵体育会系の部活の有力者みたいなのが選ばれるんだろうから、当然宣誓なんかも手馴れてるってことだろう。
と、当事者達のことは余所事とばかりに、多くの生徒達が考えるのは大抵この後の競技のことだったりする。だから生徒会長の挨拶なんて気にしてなんかいないわけで、あんなにガチガチになる必要なんて無いんだけどなあ…。
「まあ仕方が無いんじゃねえの。なんてったって、前任の会長があの伊藤瑠花だからな。どうしても比べられることに対して卑屈に怯えたりするのも無理も無い話だよな」
河合の説明に依ると前任の生徒会長の伊藤瑠花は人気アイドルってだけでなく、相当の遣り手でもあったらしい。恐らくはアイドル扱いで評価されることを嫌い、実力を認めさせるべく相当にがんばったと謂うことだろう。実際、相当な実績が有るらしい。
……それにしても、こいつなんでオレと同じ一年のくせにそんなに卒業生のことに詳しいんだよ? まあ、別に縦いけどな。
伊藤瑠花……前生徒会長にして国民的アイドル。全くなんて怪物だよ。
否、こんな喩えは女性に対して失礼か。
でもアイドルとしては女性部門の人気3位と成功しているし、学校生活でも生徒会活動で大活躍って、他にどう謂や宜いんだか。香織ちゃんが尊敬するのもよく解るってもんだ。同じ芸能界の先輩でも千鶴さんとは大違いだ。
そりゃあ千鶴さんだって人気じゃ4位だし十分化け物って謂えるかもしれないけど、こっちは文字通り偽けた為者の偶像だ。その中身は自意識ばかりか依存心も高いと謂った残念振りだ。
一方で伊藤瑠花は、その高い自負心と闘争心で現在の地位を築いた本物の理想像と謂うべき偉大さである。
……なんで千鶴さんが瑠花さんと好敵手として並び立てんだろな。考える程に不思議に思えてならないんだよな、本当。
開会式が終わると愈競技の開始……というわけではなく、まずは各チームへの応援がある。
これは各チームから人員を出しての応援交換ってわけではなく、実は応援団に依るもの。
日頃から彼らに接する機会なんて無いため知らなかったけど、この部には厳つい男子応援団員以外にも、チアガールなんてものも含まれている。当然ながらちゃんとした女子部員だ。そして何故か女装男子が交ざっている。……いや、本当なんでだよ?
実況者に依ると実は去年もそうだったらしい。
なんでもこれは、卒業生である前生徒会の悪ノリ企画だったもので、それがウケたということで今年も謂うことになったんだとか。
……あっぶねぇ〜。なんて企画起ててんだよっ。本当、よく捲き込まれなくて済んだものだ。由希の奴が運営を手伝ってたこともあり、危うくそうなる可能性ってのは決して低くなかっただろうからな。
なんてたって去年の修学旅行では女装をさせられたわけだし、それだけにオレに声が掛かることも十分に考えられたわけだしな。
恐らくは由希も知らなかったんだろう。だからこそ無事で済んだと思われる。
否、それとも知ってたけれど野球部の方を優先したとか? だとしたら野球部でのあの地獄の扱きも、必ずしも悪いばかりではなかったと謂える。
だってこんな大勢の人前でアレはなぁ…。
いや、そんなの早乙女純をやってんだから今さらなんだけど、それは正体がバレてないからで、判った上でのそれとなるとどう考えても黒歴史案件だろう。
今回の女装役の奴、ご愁傷さまってところだな。
……観ていて、なんだか心が痛い。恐らくは同類相憐れむってやつだろう。まあ自分じゃないからこそ謂えるのだが…。
応援団の演し物が終わり、今度こそ競技が開始される。
まずは全学年選抜の100m走。定番の種目のひとつである。
我がクラスからは由希と河合、他男女1名ずつが出場する。
由希はともかく河合が出場する理由としては、この競技の距離が短いことと、その割りには目立つことだと説う。つまり苦労少なく女子に己をアピールできるってことらしい。
どうやら足にはそれなりに自信があるようだ。但し短時間みたいだが。
結果は8人中の3位。悪くはないが自信の割りには微妙な成績である。河合に依ると上位の2人は陸上部とサッカー部の奴で走ってなんぼの奴らだから仕方が無いとのこと。
納得のいく理由ではあるけど、それでも言い訳は格好悪いぞ。
帰って来て早々、河合は由希早速それを指摘されていた。由希の目が有る中であんなことを言うからだ。
因みに由希は1位である。2位は陸上部の子だったらしい。まあこれじゃ反論したくてもできないよな…。
なに気に由希は昔からこの方面には強い。
ただ、本人の弁に依ると河合と同じで、短時間で駆け引きを必要としない状況限定だとか。
なるほど確かにそれ専門の奴らにはその点では敵わないってのも納得か。つまり高い身体能力にものを能わせた力任せが効く短時間だからこそと謂う理由だ。
そりゃそうだ。遉の由希でもそこまでの化け物ってわけではない……よな、多分。
余談だが、各種目の競技には、各チームだけでなく、教師達からも何人かが出場している。生徒との親睦が目的だろうな。あとは日頃の運動不足の解消かな。でも結構齢の取った者も在るんだろうに、後で筋肉痛とかで歎いても自業自得、年寄りの冷や水ってやつにならなきゃ良いけど…。
なお、その順位は……実はちゃんと集計されていたりする。果然りせっかく参加するからにはちゃんとした扱いをと謂うことらしい。まあ、やるからには真面目でないとお互い愉しくないからな。
ともあれだ、思っていたよりも楽しい体育祭になりそうだ。なんと謂うか余りにも想定以外なところで意外性が発揮されている。
これが前生徒会長・伊藤瑠花の遺したものか…。今さらだけど、なんともとんでもない学校へ入学したものだと思う。
それに学校生活でこれだけの驚異的物事をやって遂ける怪物をオレ達は芸能界でも相手にしていかなければならないってんだから、改めて脅威を感じさせられる。
ふ、ならばせっかくだ、今はその胸を借りる思いで確りと学ばせてもらうことにしよう。そして必ずやその壁を乗り越えてやる。
「男の人が女の人の胸を借りるって、なんだかエッチな感じだよね」
……またしても、今回もか…。
毎度のことながらなんで美咲ちゃんは、肝心なところで変な台詞を口にするのだろう。もしかして狙っているのか?
お陰でまた、今回も締まらない終わり方になるようだ。
こんな感じだけど次回に続く。
※作中に出てくる『為者』という言葉ですが、作中に『偽ける』という当て字があるように『偽者』を意識した選択です。
なお、『つくる』という漢字の使われ方は次のようになるようです。
【作る】無形なもの、有形で小型なものが対象。但し公的な文書では『造る』『創る』を『作る』とするのが望ましいらしいです。なので迷った場合はこれを使うのが無難です。
【造る】サイズや規模の大きいものが対象。でも実際は『手の掛かるもの』に使うみたいです。一部の料理や貨幣等が小型なものの例です。
【創る】全く新しいもの産み出すこと。特に『無から有を産む』、流行りの言葉でいう『ゼロから始める』ってイメージが強いです。破壊がセットなことが少なくないのは『刀(刂)』が付くせいでしょうか?『創』には『創』という読み方も有ります。
【製る】いろいろ工夫して、きちんとこしらえる。物品を作る。仕立てる。衣服を作る。
【甄る】陶器を作製する。『甄』は『甄ける』という読み方も有り、『見分ける』という意味が有ります。やはり陶器にはニセモノが出回り易いせいでしょうか?
【做る】倣う。摸倣する。
【為る】偽る。変える。
[Google 参考]
今回の作中の用法では『為』以外だと『倣』が近いかもしれません。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




