夏の甲子園七日目 第四試合 (前編) -馬鹿は哮えれど、依然ムコ殿は昼行灯-
今回は山陽明石高校と流川高校の二回戦目の試合です。
今回も地方独特の変な名前のキャラが出てきます。
って、そんなことよりも、今回の主要キャラについて少しばかり補足を。
蓼丸∶流川のエース。左投げ左打ち。元は右投げ右打ち。そのため投球は未だ荒れ気味。打撃もイマイチ。体格優れたお調子者の馬鹿。
藤村∶山陽明石のエース。右投げ右打ち。今回、蓼丸の挑発(?)に乗ってしまう。
一応、前書きなので取り敢えずはこんなところで。
第三試合、市立下松(山口)と甲州学院(山梨)の試合が終わり、第四試合は山陽明石高校(兵庫)対流川高校(広島)。
流川高校はオレにとって初めての勝利インタビューの学校ってのもあるが、それとは別の理由でも印象深い学校でもある。
この学校はあの堂官が在る学校なのだ。
この堂官だが、障害を乗り越えた抑え投手として一躍有名になり、オレ以外からも注目を集めている。
……まあ、堂官としてはこういった注目のされ方ってのは不本意なんだろうけど…。
もちろん他にも注目選手は在る。
例を挙げれば主戦投手の蓼丸。
こいつは153km/hの直球を投げる超速球投手だ。まあ、些か四球や死球が多いってのが璧に瑕なんだけど…。
打撃の面では……、こっちは並か…。
強いて挙げるなら四番の山本。先の下津井(岡山)戦では決勝点を挙げている。
あとは、そのチャンスをつくった殿畠ってところだろうか。実際、流川ではチャンスメーカー扱いされてるみたいだしな。
対する山陽明石高校は強豪犇めく兵庫県代表。
この学校、打線の爆発力が強く、先の島根杵築学園高校戦では九回に一挙7点を挙げている。
如何に障害を乗り越えたとはいえども、それでもハンデはハンデだ。堂官が依然り心配だ。クセの有る打ち難い球っていうけど、慣れれば打てるって話だし…。
……この試合、流川はちょっと分が悪そうだな。
流川が弱いってわけじゃないけど、打撃の面っていうか、得点力でどうも山陽明石に見劣りするって感じだし。
否、そうとは限らないか。
確かに山陽明石の守備は堅いけど、下津井の長鋪みたいな超速球投手が在るってわけじゃないしな。だから下津井よりは増しなはず。
それに蓼丸はもちろん、堂官だって安易と打たれるとは限らない。
兵庫県が強豪犇めく激戦区ってんなら、広島県だって中国地方の野球王国だ。
やれる、十分やれるはずだ。
試合開始の音響が鳴り響いた。
先攻は流川高校。
先頭打者は主戦投手の蓼丸……って、おいっ、何やってんだ!
蓼丸は左手に持ったバットを高く天に翳したかと思うと、そのまま真正面の主戦投手・藤村へ向けて、否、その頭上を指してぴたりと止めた。
その先に在るのはバックスクリーン。
つまり、予告本塁打である。
「あ、あの馬鹿……やりやがった……」
応援団長・小金井が額を抑え天を仰いだ。
同じように吹奏楽部の面々も途中で曲の演奏も止まった。
応援席の一堂も呆れて声を失っている。
観客席から非難の野次が飛ぶ。
当然だ。こういった挑発行為は学生野球憲章で禁忌とされている。まあ、明確な罰則を受けるってことは無いみたいだけど、それでも注意は受けるし審判の心証が悪くなるのは間違い無い。蓼丸の場合、投手で四球や死球が多いだけにこういうのは恐らく不利になる。こいつはそこのところ解ってるんだろうか。
「い、いや、でも、春日山の前田の例が有るだろ。
だから恐らく……」
蓼丸をフォローしようとしてるのは、この前いろいろとオレに解説してくれた男子。
「あれとは状況が違うだろ。
あれは自分ところの主戦投手・直江が死球を食らったってのが有るから周りも敢えて見ぬ振りしてたんだ。
それに対してこいつは意味もなくその真似をしてるだけだ」
だがそれも傍に居た別の男子に依って否定された。
確かこいつは、今の奴に代わって堂官について説明してくれた奴だ。
…って、こいつら黠りオレの傍に居座って解説役を気取ってやがる。
まあ、オレにとっても都合が良いから可いけどな。
で、予告本塁打を受けた藤村はというと、蓼丸の頭部へ向けて直球を放った。
普通なら投手への危険球、特に死球ってのは普通の選手以上の禁忌だ。当然故意ならなおさらである。
でも、こいつの場合はあの挑発行為が有るからなぁ…、恐らく自業自得って見ぬ振りする奴も少なくないだろうな。
藤村の球が蓼丸近くで右側へと曲がった。
蓼丸は左打ちなので離れるように逸れるコースだ。流石に撃撞けるつもりは無かったらしい。
「喝〜っ!」
蓼丸の豪声が轟いた。
そして豪快なスイングが放たれた。
……って、あのくそボールを振るのかよ⁈
まあ、いつもの如く空振りだろうけど。
ガッキィーン!
依然りこれも、いつもの如く本人の声。
解っているととても間抜けだ。
………………。
否、なんか周囲の反応が違う。
よく見れば球はグランド上空。
つまり本当に打ったってわけだ。
そしてその打球は予告通りに、否、それ以上、バックスクリーンのさらにその上を通り越して場外へ。
まるで某漫画の一番打者だ。
否、打席の左右は違うけど、でも悪球打ちで本塁打ってのはどちらも同じ。
してやったりと得意満面で塁を巡る蓼丸。
でも、こいつがあの漫画と同じならまだ安心はできない。
だってあの漫画じゃ塁の踏み忘れでアウトになっているからなぁ……。
流石にそれはならなかった。
そういうのは果然り漫画だけ。現実にそんな間抜けが在るわけないか。
なにはともあれ1点先取。
そして二番の殿畠だ。
吹奏楽が応援曲の演奏を始めた。
曲は流川高校の校歌。なんとも面白味の無い選曲だ。
但しピンチの時等には曲が代わる。
当然今はまだその必要は無い。
で、その殿畠だが、なんとも器用なバントを放った。走り出すと同時にバントを放つバントエンドランだ。
その打球は三塁線ギリギリに沿って転がり、三塁と本塁のちょうど真ん中辺りの線上でピタリと止まった。
こういうのって、ファールになるかどうか様子を見極めるってのを聞いたりするけど、そんなことをせず早々と拾って一塁へ送球ってわけにはいかないのだろうか? 野球素人のオレにはそこのところがよく解らない。
ともかく殿畠のセーフティバントが決まって無死一塁。快調な出だしだ。
続く三番打者の世羅だけど、彼の役目は依然り送りバント。
地味だけど堅実。これも三番の大事な役目なんだろう。
そして四番打者・山本。
彼が放ったのは中堅手前への二塁打。
これで一死二・三塁。
二塁打ならば、二塁に居た殿畠が本塁に帰ってて良さそうに思うところだけれど、そう簡単にはいかなかった。
殿畠が三塁を駆け出す前に本塁へと球が帰ってきては、三塁止まりなのは仕方がないだろう。
その代わり山本は一塁を蹴って安全に二塁へと進めたわけだが。
だって二塁のために本塁をガラ空きってわけにはいかないしな。否、間に中継を挟めば可いのかもしれないけど、でもリスクは有る。
続く五番打者は、某時代劇のテーマと共に現れた水主村中。
彼は先の下津井戦では、全く打撃で良いところの無かった選手である。
お陰で応援団からは昼行灯扱い。この曲の時代劇の主人公と同じだ。
否、もしかすると同じように、人知れず陰で活躍してたりするのだろうか。
……って、空振り三球三振かよ。
これが五番とはとんだ期待外れだ。本当に昼行灯だな、こいつ。
気を取り直して六番・橘高。
一応彼も三遊間を抜く安打で出塁。
但し、二塁、三塁は動けず、二死満塁。
そして七番打者石風呂。
……残念ながらこいつは一塁ゴロで敢なくアウト。
まあそうそう都合好く得点ってわけにはいかないか。
それでも初回でまず1点。幸先吉しだ。
※作中に『居座る』という言葉が出てきますが、他に『居坐る』『居据わる』とも書くようです。
で、その違いはというと『坐る』は『動作』に、『座る』は『場所』に、『据わる』は『安定すること』に拘るようです。[Google 参考]
作中では、『役割』と、ついでに『場所』を得るということなので『居座る』としました。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




