たこ焼き
孤児院出身の三人が揃って同じ様な感想を言うのだから、先ほどの若い男性は孤児院関係者か、もしくは教会の関係者なのだろうと思い尋ねてみる事にする。
「三人がそう思うなら、孤児院出身者か教会の関係者じゃないんですか?」
「いや、孤児院の出身者じゃないな。俺の先輩なら殆ど知っているし、教会の人でもない」
「うん、アタイも孤児院の先輩なら忘れる事はないよ」
「私も同じでしゅ。教会の関係者でもありましぇん」
どうやら、違うらしい。
まあ俺は、新参者だし教会も孤児院も、今日初めて訪れたのだから知るはずも無い。
そんな、孤児院出身三人組の話しを聞きながら、狼人族の郷土料理である、お好み焼きを食う。
俺は、完食したので、アンさんとベルさんが食べきるのを待っている。
やっと、アンさんがベルさんの分までも食べきり、樽の椅子から立ち上がって言う。
「ジョー兄さん、ごちそうさま。アタイは、これから冒険者ギルドへ行って新しい依頼を探してくるよ。レザー・ランカーに昇格したから、依頼も稼ぎの良いのが受けられる様になったんだよ」
「そう。それじゃ又ね。ギルマスにも宜しく」
「うん、それじゃまたね。マル兄貴も、ご馳走さん、また来るよ」
「ああ、アンも気をつけて依頼をこなせよ」
「アンちゃん、またでしゅ」
「うん、ベルちゃん、まただよ」
アンさんは、俺たちに挨拶をして、冒険者ギルドに向かって元気よく走り去って行く。
ベルさんもアンさんに残った、お好み焼きを食べて貰っていたので、俺たちも引き上げる事にする。
「それじゃ、マルさん、美味しい料理を有り難うございました。また来ますね」
「おう、ジョーさん、また是非来てくれ。ベルもまたな」
「はい、マル先輩。また来ましゅ」
俺とベルさんは、広場を後にし商業ギルドへと向かう。
午後からは、缶詰の打ち合わせが予定されていた。
俺は、マルさんのお好み焼きを食べて、あの材料を使えばアレも出来るのでは無いかと思い、ドワーフのテンダーおっさんへ相談してみようと密かに画策している。
商業ギルドへ到着すると、受付嬢の一人が直ぐに俺を発見し建物二階へと案内する。
ベルさんは、俺に続くことなく何処かに姿を消してしまったが、恐らくお茶の準備にでも向かったのだろう。
二階の会議室へ案内されると、既に商業ギルド会長のアントニオさんと、エルフの副会長エルドラさんが待っていた。
「遅くなりました。アントニオさん、エルドラさん」
「いやいや、お帰りなさい、ジングージ様。未だテンダー殿達は来ておりませんので、お気になさらず。お昼はどちらで召し上がりましたか?」
「はい、中央広場の屋台で、狼人族の郷土料理を頂いてきました。とても美味しく、そして懐かしい料理でした」
「おお、あの小麦粉を水で溶いて鉄板で焼いた料理ですな。確かに美味いですな。そうですか、そうですか、あの料理も勇者コジロー様が狼人族へ伝えたと聞いておりますゆえ、アズマ国にも伝わっている料理なのでしょうな」
「はい、間違い有りません。味や香り、そして食感は忘れておりませんので……。でも、スベニのソースが凄く合っていて、より美味しかったのです」
「なるほど、あの料理にもスベニのソースが合いますか。それは参考になります」
そんな雑談をしていると、どやどやと足音を響かせてノックもせずに、生産ギルド長のテンダーおっさんが、「待たせたな」と言いながら入室してくる。
少し遅れて、大きな木箱を抱えたテンダーさんの一番弟子で、若いドワーフのトマスさんが「失礼します」と言いながら入室してきた。
入室してくるなりテンダーのおっさんが「おい、弟子。出してやれ」と言うと、トマスさんが「はい、親方」と言って、完成した缶詰を抱えて来た木箱から取り出し始める。
そして、完成した缶詰をテーブルの上に並べ終わると、テンダーおっさんが説明し始めた。
「取り敢えず20個作った。中は皆同じでスベニ・ソースで煮込んだ肉と野菜じゃ。弟子よ、詳しく説明せい」
「はい、親方。ジョーさんから教えて頂いたカンヅメの構造を可能な限り再現しました。缶の接合部は二重巻締を行うための治具を作りました。後は気密性を維持するために、ゴムを硬化させる方法もジョーさんから教えてもらい、これを施しています」
「ふん、小僧……ジョーの知識は大したもんじゃい。まさかゴムの樹液に硫黄を少し混ぜると固まるとはな……」
「親方の言うとおりです。それで、圧力釜という鍋の蓋を空気が漏れない様にした釜を作り、通常の圧力の三倍まで蒸気が漏れない様にして、蒸気で蒸して熱しました。カンヅメの気密性が問題無いかは、水に沈めて泡が出ないかどうかで確かめてあります」
「なるほど、見た目はジングージ様のカンヅメと、塗装がして無いだけで変わりませんな」
「はい、鉄板を錫でメッキした状態のままです。ブリキ板ですか……このブリキの錆も調べるために、今回は塗装はしておりません」
「後は、これでどの位の期間、保存ができるかどうかを調べて行くだけですね。1ヶ月置き位で一個づつ開いて確かめるしかないでしょう。恐らく最低でも3ヶ月から半年は大丈夫だと思いますが、空気を抜いて無いので1年間位が限界かなと思います」
「いやいや、ジングージ様、半年持てば、それだけでも画期的です。長期間の旅や保存食の革命です」
「はい、正直なところ自分もトマスさんの技術力には敬服しています。まさか、此処まで再現してしまうとは驚きです」
「……ジョーさん、褒めてくれて有り難う。親方の指導があっての事で、俺だけでは無理でした」
「ふん、伊達に儂の一番弟子を名乗っていないと言う事じゃ」
「親方……有り難うございます。初めて褒めて貰いました……」
テンダーさんは、そう言い終わると涙を流して喜んでいる。
横で聞いていると決してテンダーのおっさんは、トマスさんを褒めている様な言葉では無いのだが、それでも褒め言葉になるのか。
ドワーフの師弟関係は、もの凄く厳しいのだろうな。
そう言えば、以前にトマスさんが愚痴っていたのを思い出した。
「ジョーさんが、俺は羨ましいですよ……会ってその日に、親方が名前を呼んでくれるなんて初めてですよ。俺なんか20年以上も弟子なのに、未だに弟子としか呼んでもらえないっす……」
なんだか、トマスさんがとっても可哀想だった。
でも、未だにテンダーのおっさん、俺を「小僧」と呼んでから、すこし間を開けてから「ジョー」と呼んでいるよ。
どうやら、テンダーおっさん人の名前を覚えるのが苦手なのか、覚えるのが面倒くさいと思っている節がある。
缶詰の完成度は、高く後は保存期間の確認だけとなったので、今後は1ヶ月に一個の割で開封して中身を確かめる事となり、この日の会議は終了した。
俺は、テンダーのおっさんが帰ろうとするので、ちょっと待ってもらい相談をしてみる。
「厚めの鉄板に、こう半円状の凹みを複数作ってもらい、鉄板の全面に施してもらえませんか。鉄の鋳造でも構いません。凹みの直径は4サンチ位で、凹みの深さは2サンチ位なんですが」
「ふん、そんな物、儂が出る幕も無いわい。おい、弟子よ。小僧に直ぐ作ってやれ」
「はい、親方。ジョーさん、この凹みをつけた鉄板、何に使うのですか?」
「自分の国の料理を作るのに使う鉄板です。料理名は、たこ焼きと言います」
喪中につき、年末年始のご挨拶を失礼いたします。




