タースの大公
「アン、重機関銃M2で刃向かってくる傭兵軍を排除してくれ」
「うん、判ったよ」
「ベルは、砲手席で74式車載機関銃で対応してくれるか?」
「はい、ジョー様。機関銃を撃ちましゅ」
「慣れないだろうけど、頼むよ」
「アンちゃん程は上手に撃てましぇんけど、がんばりましゅ」
「大丈夫だよ、ベルちゃんなら出来るよ」
「ありがとう、アンちゃん」
アンが砲塔のハッチを開けて重機関銃M2を構え、左側面より此方へ叫び声を上げながら突進してくる傭兵達へ向け、トリガーを引く。
同時に正面から向かって来る傭兵には、ベルが74式車載機関銃を発射し、次々と傭兵達を倒して行った。
俺達の後ろから付いてくるバンカー公爵軍の兵士達は、機関銃によって次々と倒されて行く傭兵軍に、驚きの声と歓声を上げながら口々に「凄いぞ」、「流石、勇者殿の爆裂魔法だ」と驚愕している。
「バンカー公爵軍の皆さん、自分たちの箱車より前には出ないで下さい。攻撃の巻き添えになりますから危険です」
「ジングージ殿、かたじけない」
バンカー公爵軍の指揮官が、俺に向かって礼を叫ぶ。
アンとベルによる二つの機関銃によって、逃げなかった傭兵軍も、悉く殲滅して行く。
残った傭兵軍は、戦う気力や逃げる気力も無くした、魂の抜けた様な状態で俺達の進撃からも、全く動こうとしていなかった。
中には、叫び声を上げて命乞いをする傭兵も居たが、今更遅い。
大公家の居城前まで進軍すると、大公家の城壁の上に居た兵士達が歓声を上げて、俺達の進軍を出迎えてくれる。
すると、俺達の後ろから追従してきたバンカー公爵軍の弓兵が、弓矢を城壁に向けて射る。
射られた弓の先には、何やら神社で良く見かける御神籤が結んで有る様な感じで、羊皮紙と思われるものが結わえて有った。
どうやら、通信文を弓矢で届けた様だ。
俺は、バンカー公爵軍の指揮官に尋ねてみる。
「あの矢はなんですか?」
「大公閣下への矢文です。この好機を逃せば反撃は敵いませぬ故、開門して一気に傭兵軍を鎮圧、壊滅をと具申いたしました」
「なるほど、良い判断ですね。既に、此処に居る傭兵軍の残党は戦闘意欲も有りませんし、逃げた傭兵軍は侯爵城へ向かっています。これから、自分達は侯爵城を砲撃しますので、一気に鎮圧してしまいましょう」
「ジングージ殿の爆裂魔法であれば、城を落とすのも容易なのでしょうか?」
「夜明け前にも、夜間でしたが二発ほど侯爵城へ攻撃をしています。今からお見せ致しましょう」
「なんと、昨夜の爆発はジングージ殿の爆裂魔法による攻撃でしたか!」
「はい、そうです。よし、アン、ベル、侯爵城へ向けて砲撃する。二人とも配置を変えて主砲発射準備!」
「判ったよ、ジョー兄い。任せておいてよ!」
「ジョー様、了解でしゅ」
「ナーク、此処で一端停止」
「……了解、停止する」
「よし、ベル、主砲へ徹甲弾を装填」
「はい、ジョー様。徹甲弾を装填しましゅ」
「ジョー兄い、何で榴弾じゃないのよ?」
「闇ギルドと傭兵ギルドの幹部共へ恐怖感を味合わせてやるためさ。以後、徹甲弾を二発発射の後、一発の榴弾を発射。目標は侯爵城の側塔だ」
「判ったよ、ジョー兄い……意地悪だよね」
「ジョー様。徹甲弾、装填完了でしゅ」
「よし、アン、撃て!」
「うん、発射!」
俺は、砲塔の車長用ハッチから双眼鏡で、侯爵城を観測している。
アンが発射した主砲のライフル砲から砲撃音が聞こえ、そして直ぐに侯爵城へと着弾した。
榴弾と違い、着弾しても爆発音は聞こえて来ないが、確実に侯爵城の側塔へと着弾し、着弾点の側塔へ大穴が空いて噴煙も見える。
流石にアンの砲術は、確実だ。
直ぐに、ベルが次弾を装填し、アンが再び砲撃を行う。
もちろん、目標へ確実に命中して、二つ目の穴が側塔に空いた。
そして、アンが三発目の砲撃を行うと、今度は侯爵城の側塔へ着弾すると同時に、大きな爆発音が轟く。
俺達の後ろに控えていたバンカー公爵軍から歓声が上がり、「凄い、あんなに遠くへ爆裂魔法を……」と指揮官が驚きの声を発している。
よし、次は張り出し陣を破壊して行くか。
俺は、アンへ目標を張り出し陣に変更を伝えた。
もちろん、二発の徹甲弾を撃った後に、榴弾の発射だ。
何時、爆発する攻撃が来るか判らない恐怖感に、闇ギルドと傭兵ギルドの幹部達め、十分に震えるが良い。
アンが照準を張り出し陣へ変更して、徹甲弾で砲撃を続行する。
一発、二発、張り出し陣の石壁へ着弾し、石壁が崩れて行くが、崩壊はしていない。
そして、三発目の榴弾が着弾し、爆発音と共に爆煙が舞い上がり、張り出し陣が崩れて行く。
再び、バンカー公爵軍から歓声と、俺達への賛美の声が聞こえて来た。
そして、その歓声に包まれる中、大公の居城の城門が音を立てて下ろされ始めた。
どうやら大公まで、バンカー軍の指揮官の矢文が届いたらしい。
跳ね橋が、俺達の居る対岸へと接地すると、その跳ね橋を渡って多くの兵士達が、俺達を目掛けて歓声を上げて走り寄って来た。
その大公軍を率いている先頭には、白馬に跨った見るからに強そうな騎士の格好をした巨漢がおり、俺達の方へと近づいてくる。
「何方か存ぜぬが救援大儀であった、先ずは礼を申す。余は城塞都市タースの大公家主、フェアウェイだ。して、貴殿は?」
「フェアウェイ大公閣下、自己紹介が遅れて申し訳ございません。自分は、自由交易都市スベニの冒険者、ジョー・ジングージと申します。縁あって、バンカー公爵閣下より、タースへ救援を依頼されて、はせ参じました」
「なんと、バンカー義父上からとな。そうか、貴殿がスベニのジョー・ジングージか。貴殿の武勇伝は、余の耳にも届いておるぞ。もっとも、この目で貴殿の爆裂魔法を目の当たりにするまでは、眉唾の語り事だと思っておったがのう。そうか、貴殿が爆裂のジョー殿か。いや、改めて礼を言うぞ、ジングージ殿」
「恐縮です、フェアウェイ大公閣下。詳細なお話は後ほど改めて致します故、今は闇ギルドと傭兵ギルドを先ずは鎮圧いたしましょう。これから、自分たちは侯爵城を更に攻撃しますので、大公閣下の軍とバンカー公爵軍の方々は、市中へ逃走した傭兵達を追撃していただけますか?」
「承知した。余の軍勢の半数を、バンカー公爵軍と共に市中へ向かわせよう。余は、お主と共に侯爵城へ立て籠もる反逆者共を成敗したいが、構わんか?」
「はい、是非、宜しくお願い致します」
「よし、判った。ラインハルト、此へ!」
「はっ、大公閣下。ラインハルトは此処に居ります」
「そちは、バンカー公爵軍と余の軍勢半数を率いて、市中へ逃走した傭兵共を壊滅せよ。一人も逃がすな!」
「はっ、直ちに!バンカー公爵軍の指揮官は、何方かな?」
「はっ、ラインハルト近衛隊長殿、バンカー公爵軍はサンダース隊長が不在のため、私ヘンリー・ジェイスンが率いております」
「おお、ヘンリー副隊長か。久しいな。では、共に参ろうぞ」
「はっ、お供します」
バンカー公爵軍を率いていた指揮官は、ヘンリーさんと言うのか。
そして、フェアウェイ大公の近衛隊長がラインハルトさんね。
どうも、この異世界の貴族の名前は、ヨーロッパ風ではあるけれど元の世界の国々がごちゃ混ぜになっている様だ。
そんな事を思っていると、ラインハルト近衛隊長に率いられて、バンカー公爵軍と自らの軍の半数が、市中へと進軍して行った。
さあ、俺達もさっさと侯爵城を落として、傭兵ギルドと闇ギルドの幹部達を叩き潰してやらねばならない。
俺は、操縦席のナークへ進軍の指示を行うと共に、アンとベルへ引き続き侯爵城への砲撃を行進間射撃で行う様に命じた。
「ナーク、MCVを侯爵城へ向けて発進させてくれ!」
「……了解。発進する」
「アン、ベル、行進間射撃になるが、引き続き侯爵城へ連続して砲撃を開始!」
「判ったよ、ジョー兄い。今度は城壁、それとも居館?」
「居館は撃つな。後はアンに任せる。ベルは、先ほどと同じく徹甲弾2の後、榴弾1の装填を繰り返せ!」
「了解でしゅ、ジョー様」




