第55話 『共演 光と影(前半)』
「改めて思うんだけれど、沙耶って本当にすごいわね」
Mステ当日、私は学校から佐伯さんのお迎えで、直接スタジオ入りをしたのだが、聖羅たちは一旦会社に集まってからスタジオへとやってきた。
そこで出た第一声がコレだ。
「どういう事?」
「個室だって言ってるの」
そういえば前にみちる達にもそんな事を言われたっけ?
ちなみに私がMステに出演するのはこれで3度目、1度目は今日と同じように個室を頂いたが、前回の3時間スペシャルのときは流石にそうは行かず、事前に会社に寄って準備を整えた後にスタジオ入りをした。
「まえにShu♡Shuからも言われたんだけど、そんなにすごいの?」
「すごいに決まってるじゃない、今日の出演リスト見てるでしょ?」
「あぁ、まぁー、見てる…かな?」
夏歌のシーズン始めと言う事もあり、人気の男性5人組のバンドをはじめ、有名なアーティストの名前がズラリと並んでいた。
佐伯さんの話じゃ、Mステの個室は2部屋しかないらしく、その内スタジオ近くの部屋を割り振られた私は、今日の出演者の中で一番いい待遇を受けているという事になる。
「でもほら、今日は聖羅たちもいるじゃない」
「私たちはオマケでしょ? 扉の前には私たちの名前なんて書かれてないわよ」
そりゃそうだ。
オマケというほど悲観するものではないとは思うが、番組側から出演のオファーが来たのはSASHYAだけ。聖羅達Girlishは、ある意味こちらの都合でお願いしたようなもので、一応番組側からも出演料がでるそうだが、正直スズメの涙ほどの金額らしい。
「はい完成、どう? 気になることはある?」
「いえ、いつもながら完璧です。ありがとうございます月城さん」
毎回メイクを担当してくださる月城さんにお礼を言いながら、今日の出演用に用意された衣装に袖を通す。
今回用意してくださった衣装は、これからの季節に合うような白とブルーを基調とした爽やかなもの。生地に関してはやはりごつごつしたものだが、両肩は見えるようにノースリーブ状で、二の腕から袖だけが別に付けるようデザインされている。
「なんだかちょっとアイドルっぽい衣装ですよね? スカートも心持ち短いし」
「若いんだから、それぐらいがいいのよ」
基本がコスプレなのだから、これくらいは仕方がないのかもしれないが、これではまるでアイドルのようにも見えてしまう。
幸いパニエのボリュームが抑えられているので、スカートが垂直まで広がるような事にはならないが、それでも私の動きに合わせて揺れる面積が多いのは、なんだか恥ずかしい。
もしかして佐伯さんは、私をアイドルに仕立てたいんじゃないわよね?
「さーやん可愛い!」
「ほんと、間近でみても全然わからないわね」
「私も声を聞かないと沙耶だとわからないわよ」
仕上げと言わんばかりに、目元にいつものマスクを着けて、一人鏡の前で最終確認。
聖羅たちもこんなに近くで見るのが新鮮らしく、各々思った感想を口にしている。
「沙耶ちゃん、これが今日の座る位置ね。リハーサルの前に確認しておいて」
そう言って渡された紙を、聖羅達と一緒に眺める。
「一樹達とは離れているわね」
「隣になることも…ないみたいね」
番組の進行上、ひな壇では座る位置が入れ替わる。前回はほぼ司会者の隣に陣取っていたが、今回は途中で2度ほど入れ替わるような指示が書かれているものの、そのすべてが司会者から近い位置を示されている。
一方Snow rainは、司会者から一番遠い位置、しかも私とは常に他のアーティストを挟むかたちとなるみたいで、隣り合わせになることは一度もない。
「もしかして佐伯さん、何か番組側に伝えました?」
こうも私の都合に合わせたような配置に、佐伯さんを疑ってみたものの、帰ってきた答えはNoとのこと。
「当然の結果でしょ? 今日出演するのは、全員2週間以内に新曲を出した有名アーティスト。本来ならSnow rainの出れる枠なんてなかったのよ」
この図面を見る限り、佐伯さんが言っている通りなのだろう。
ちょうど今の時期は、こぞって夏の歌をリリースする繁忙期。出演者の一覧を見る限りでも、有名な人たちばかりで、私が個室を頂いてもいいのかと疑いたくもある。
司会者もやはり注目アーティストに話を振るだろうし、人気に陰りを見せているSnow rainにとっては、辛い現実を見ることになるんじゃないだろうか。
この後司会者の方には聖羅達全員であいさつへとうかがい、出演するアーティストへは、私と佐伯さんの二人で回ることにした。
リハーサルに関しては、一度だけ聖羅達と一樹がすれ違うこともあったが、時間の都合上会話らしい会話も出来なかったみたいで、今のところ問題らしい問題は起きていない。
そしてすべての準備が整い、いよいよ本番を迎えることとなる。
「お久しぶりです。SASHYAはこれで3度目だっけ?」
「はい、前回は春の3時間スペシャルに呼んでいただきまして」
「そうそう、KANAMIとデュエットしてくれたんだったね」
「KANAMIさんには妹の様に可愛がって頂いているので」
番組が始まるなり、さっそくと言わんばかりに司会者の方からトークを振られる。
今のところ一樹をはじめ、Snow rainのメンバーが私だと気づいた様子は見られない。
「今度全国ツアーをするんだって?」
「はい、今日はその宣伝も兼ねて伺わせていただきました」
「でもチケットの方はもう完売してるって聞いてるけど?」
「そうなんです。完売した後もたくさんお問い合わせを頂いたみたいで、急遽ネット配信が決まりまして、今日はそちらの案内を出来たらと」
「SASHYAさんのチケットは、販売開始から5分で売り切れたようで、SNSなどでは幻のチケットなどと呼ばれているようですね」
「へー、相変わらず凄いね」
今日の出演目的であるネット配信の宣伝。
前回のドーム公演では、東京一か所という場所の限定と、1日8万人というボリュームがあったが、今回周る会場は精々1万人から1万6千人程度。各会場では2日間づつコンサートをするのだが、そのすべてのチケットが発売と同時に完売してしまった。
結局チケットを買えなかった人たちからの強い要望もあり、会社は急遽ネット配信を決定。最終日である東京公演を、有料の特設ページへアクセスすることで、リアルタイムでコンサートを鑑賞できるのだという。
なんだかお金お金と言ってるようで、正直あまり良い気分はしないのだけれど、これもビジネスの一環なので、所属アーティスとしてはこれを受け入れなければいけない。
「つづいてCRISISの皆さんです」
「こんばんは、お久しぶりです」
「CRISISも今度ライブをするんだって?」
「そうなんです。SASHYAさんと違ってまだチケットが余っているみたいなので」
「はははは、CRISISならすぐに売れるでしょ」
「そうだと良いんですけどね」
男性5人組バンドCRISIS。チケットが余っているような事を言ってるが、知名度も人気も高い有名なバンドだ。
蓮也達にとっても憧れているバンドらしく、司会者の方が仰っている通り、すぐに完売することだろう。
「実は今日、SASHYAさんにお願いしたい事があるんですよね?」
「そうなんです」
「私にですか?」
突然女性アナウンサーから話を振られ、急遽会話に加わる。
「実はSASHYAさんの大ファンで。よかったら後でサインをもらえると…」
「CRISISはSASHYAのファンなの?」
「メンバー全員大ファンです」
「レコーディングの合間にも聞いてますよ」
有名なCRISISにファンだと言われるのは何ともむずがゆい。
話していても皆さん良い感じの方なので、喜んでお引き受けさせてもらう。
「皆さんにそう言って貰えるなんて光栄です。それじゃ後ほど楽屋の方で」
「ありがとうございます!」
「それではCRISISの皆さんにはスタンバイをお願い致します」
CRISISがスタンバイへと向かう途中、何故かメンバー全員から手を振られたので、私もお返しとばかりに手を振り返した。
「SASHYAもサインとかするんだね」
「しますよ。ほとんどが友達ばかりですけど」
「じゃ友達には正体がバレてるんだ」
「何人かにはバレてますね。最近じゃ気づいていても、気づかないフリをしてくれる人も多いです」
「ははは」
「それではCRISISで、夏の飲料水のCMでも使われている『真夏の果実』」
女性アナウンサーさんの紹介で、画面はCRISISの演奏へと切り替わる。
やがて演奏が終わると番組はそのままCMへと突入した。
「CRISISの皆さんありがとうございました。それでは続いてランキングの方に参りたいと思います」
画面はそのままランキングの表が映し出され、10位から順番にアーティスト名と曲名が表示されていく。
「……第4位、Sister's、先週よりツーランクダウンとなります。そして続いて第3位、CRISIS『真夏の果実』」
「CRISISの皆さん、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「今回CRISISさんはCM出演もされているんですよね?」
「そうなんです、もう緊張してしまって」
「CRISISでも緊張するんだ」
「そりゃしますよ。歌ってるときの方が楽ですね」
「そういうもんかねぇ」
男性司会者のトークに合わせて番組が盛り上げていく。
ここまで10位から3位まで発表されたが、今のところSnow rainの名前は出ていない。
まだ先週1位を取ったShu♡Shuの名前も出ていないし、私の新曲もまだ出ていない事から、恐らく今回も10位以下と言う事なのだろう。
「それでは2位と1位、続けていきたいと思います」
女性アナウンサーの案内で、画面には1位と2位のパネルが表示される。
「第2位、Shu♡Shu『虹色ぱすてる』。先週よりワンランクダウンとなります」
またみちるに何か言われるわね。
2週連続1位だったShu♡Shuの『虹色ぱすてる』。『きらら』に続いて私がShu♡Shuに楽曲提供した曲で、前回同様アイドルさながらの明るいメロディーに仕上げてある。
「続いて今週の第1位はSASHYA、『Happy Summer Time』。SASHYAさんはこれでデビュー以来7曲全てで、週間ランキング1位の記録を更新されました」
「1位、2位、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「先々週Shu♡Shuが来てくれたけど、皆で遊びにいく約束をしてるんだって?」
「そうなんです。ずっと前から約束をしてるんですけど、お互い忙しくて」
「今度の夏休みは全国ツアーだもんね」
「学生なんで、休みの時は思いっきり仕事を入れられるんです」
「ははは、それは仕方ない。SASHYAは人気だから」
「それではSASHYAさん、スタンバイの方をお願いします」
女性アナウンサーに案内され、私はそのまま隣に用意されたステージへと向かう。
途中チラッと一樹の様子を窺うも、一切トークを振られない事が不満なのか、それとも隣のステージでスタンバイしている聖羅達が気に入らないのか、その表情はお世辞にも褒められるものではなかった。
「今夜SASHYAさんに歌って頂くのは、この夏コンサートでバックバンドを務める、Girlishとの特別仕様。曲は先週発売された新曲で『Happy Summer Time』です。それではどうぞ」
ワァーーー!!
私がステージに登場することで、抽選にあたった観客から盛大にエールを送られる。
その後もアーティスト達の演奏が進み、番組はそのままエンディングに向けて駆け抜けていった。
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すみません、この1話で一樹達の話をまとめるつもりだったんですが、
気が付けば読み直し前で8000文字を越えてしまって…
変な終わり方をしているのはそのせいです。
続きはもう少々お待ちください。ぺこり
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