とと七歳・ボクと「んまま」と校庭で。の夏 01
とと画・妹降臨
◇◇
兄・とらの小学校にて運動会。ヨシコはととも連れて応援に。
昼休みは、幼稚園時代のクラスメートと体育館で追いかけっこ。
お互いちょびちょびと手を出したり何だりで少しあぶなっかしい。
子どもたちは「ととちゃんに、ひざにチューされた~」
「私も~」「ぼくも~」(男にもか……)てな感じで非常にウケは悪い。ヨシコはあちこちの子どもに「すまんね~」と謝っては頭をなでなでしてやっていた。
親愛の情でのキスも、人によっては迷惑。というのがやはりととには分からんのです。
大人になるまでには少しずつお付き合いでの状況判断を身に付けてほしいものだ、と感じながらヨシコは、またため息。
付き合いって、難しい……それは誰でもみな同じなんだけどね。
◇◇
ととが、大声で呼んでいる。
「んまま!」
何の事じゃいな、とヨシコが知らんふりしていた(なぜってトイレ中)、また
「んままっ!」
どたどたと走り回る音。
そして特捜ばりにトイレの戸がばん、と開けられ、得意げなととが立っていた。
「『んまま』? って……アタシのことかいな」
ヨシコのことばにうんうん、とうなづくとと。
いつの間にかどこかで「ママ」などとしゃれた言葉を覚えてきたらしい。
しかもイントネーションが変。
「それって『ありのまま』の『まま』と発音が同じぢゃん」
しかしそれからしばらく『んまま』頻度が増えたととであった。
「ねえ、これ誰?」とヨシコが自分を指差して聞いてみると
「んまま」と言ってくれるし。確かに母親のことを「んまま」と認識している。
……イントネーションが変なままではあったが。しかし、ヨシコは呼ばれるたびに何となくこそばゆいものを覚えて顔が緩んでしまうのであった。
夜の八時過ぎ。
急にととが外に出て、
「んまま、(くる)ま!」
と言った。
車でどこかに連れて行ってとヨシコに訴えている。
隣の家に来客があり、車で帰るところをたまたま玄関先で見かけ、うらやましくなったらしい。
ヨシコは無視していたのだが、車の後部座席に乗り込み、一人でじっと待っている。
「仕方ないなあ……」
ヨシコもようやく重い腰を上げた。少しドライブしてこようか、ということに。
真っ暗な田舎道、ととはずっとうれしげに高い声で歌を歌いながら(曲名は不明)、外の景色を眺めている。
田舎町の片隅、暗がりの中にひときわ明るく輝いている店に到着。
ととは「あった!」と大興奮。
緑の看板がくっきりと鮮やかに夜の闇を切り取り、あたりにふんわりと蛍光じみた緑色を投げかけている。オズのエメラルドの都もかくやとばかり。
特に買いたいものもなかったのだが、急に、ばあちゃんからずっと以前に頼まれていたのを思い出し、薬をひとつだけ選んで、後は何も買わずにレジに並ぶ。
その時、すぐ前についていたおばあさんが急に振り向き
「あんたら、一つだけだったらお先にどうぞ」
と声をかけてくれた。
ありがとうございます、と先にレジを済ませ、もう一度お礼を言って二人は外に出た。
帰りもまだ、ととは歌っている。
ちょっとした旅のようだな、と、ヨシコはふと思う。
いい旅をいっぱいしてきたなあ、と思うし、これからもいっぱいできるといいなあ、とも。
「とと」となりで歌うととに声をかけた。
「大きくなってからも、こうしてたまには一緒に旅しようね」
ととはまだ、歌っていた。




