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【書籍2巻発売中】わたくしの婚約者様はみんなの王子様なので、独り占め厳禁とのことです  作者: 雪菜
第三章

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最終話 これから先も、

 晩餐会の用意が整ったら改めて呼びに行かせるわというアデラインの言葉を受けて、レティシアは自室で待機するか、ウィリアムの私室を訪ねるか悩んだ末に、後者を選ぶことにした。

 

 アデラインと二人で話すレティシアを心配しているだろうし、純粋にウィリアムの顔が見たかったというのもある。


 彼の私室を訪ねると、ウィリアムはすぐさま出迎えてくれた。

 

「お疲れ様、レティ」


 ウィリアムの柔和な笑みを前に、一気に肩の力が抜けた。無性に甘えたくなって、レティシアは幼い頃のように彼に飛びついた。

 

「ウィル様も、お疲れ様でしたっ」


 危なげなく抱き止めてくれたウィリアムは、優しい手つきでレティシアの頭を撫でた。


「母上と何を話していたんだい?」


 抱擁を解いて、ウィリアムが尋ねてくる。


 レティシアはちょっと考えてから。


「明日がわたくしの誕生日だと、教えてくださいました」


 そう答えるに留めた。


 ウィリアムがクスリと笑む。


「忙しくて、忘れていた?」

「ウィル様は覚えていてくださったのですか?」


 レティシアの茶化しに返ってきたのは、優しい微笑み。


「世界で一番大切な女の子が生まれた日を、忘れるはずないよ」

「まぁ」


 嬉しさと恥ずかしさで、レティシアはほわりとはにかんだ。


「目まぐるしい一日で疲れているところ申し訳ないんだけど。僕からも少し、いいかな?」

「はい、なんでしょう?」


 神妙な面持ちで切り出されたので、レティシアは居住まいを正した。


「母上に言われたんだ。僕は立派な王太子ではあるけれど、レティにとっていい婚約者であるかは話が変わるかもしれないって」


 思わぬ話に、レティシアはぱちくりと目を瞬かせる。

 

「母上が言わんとしていたのはたぶん、悪意に晒されやすい立場にあるレティの周辺にきちんと気を配りなさいって意味だと思うんだけど。それ以外にも、改善すべき点はあるなって」

「そのままのウィル様で、わたくしにとって完璧な婚約者ですよ?」


 レティシアは、勢い込んで反論する。ウィリアムに改善すべき点などあるはずもない。彼はレティシアの自慢の婚約者様なのだから。


 ウィリアムはちょっと困ったように笑んでから、かぶりを振った。

 

「ありがとう。でも、至らない部分があるのは確かだよ。僕とレティは同じ学園に通っているけれど。レティと学内で過ごした時間より、今回の冬季休暇中に王宮で一緒にいた時間の方が明らかに長い」

「言われてみれば……そうかもしれません」


 学内ではウィリアムは多くの生徒に囲まれていて、レティシアは滅多に近寄ることができない。また、敷地内でウィリアムと二人きりで過ごすのは禁止です、という鉄の掟もある。

 学外でのお出かけを除いたら、確かに今回の滞在期間で共に過ごした時間の方が長いだろう。

 

「婚約者の君に遠慮させるのはおかしな話なのに。レティの優しさに甘え続けて、僕は生徒たちにわかってもらう努力を怠ってきた。でもやっぱり、正すべきだと思うんだ」


 それはつまり、これからは学内でも共に過ごす時間を増やしましょう、というお話。


 ウィリアムからの申し出に、レティシアはにっこりと微笑んだ。

 

「却下です」


 ウィリアムが、意表を突かれたかのように目を丸くする。レティシアが思いの外強く反対したからかもしれない。


「え、と……?」

「わたくしは規則をお守りします、と皆さまにお約束しましたから。……というのは、半分以上冗談です」

 

 レティシアとの時間も大切にしたいと言ってくれる彼の気持ちは嬉しいけれど。学内での過ごし方に関しては、レティシアにも思うところがあるのだ。

 

「ウィル様は来年が最終学年であらせられます」


 ウィリアムは来年で学園を卒業することになる。

 

「わたくしはこの先、いくらでもウィル様と過ごす時間を持つことができます。ですが、大半の生徒が、ウィル様と気軽にお話しすることは叶わなくなってしまいます。ですので、在学中はウィル様はわたくしではなく、ご学友とのお時間を優先してくださいな」


 邪な気持ちを持った生徒も中にはいるかもしれないけれど。生徒のほとんどが、婚約者であるレティシアからウィリアムとの時間を奪いたいわけではなく。純粋に、ウィリアムを慕っているから。彼と過ごす時間を求めているのだ。


 レティシアはそっとウィリアムの手を取った。この気持ちが伝わりますように、とぎゅっと手を握って伝える。

 

「ウィル様? 婚約者が多くの生徒から慕われているというのは、とっても鼻が高いことなのですよ? どうか負い目など感じることなく、誇ってくださいませ」


 レティシアはお友達が非常に少ないので、多くの生徒から慕われるウィリアムの偉大さがよくわかる。

 そんな風に慕われる彼の努力と苦労は計り知れないと思う。負い目を感じることなんて、何もないのだ。


「レティに、我慢を強いてない……?」


 珍しく、ウィリアムは不安げだ。誠実な彼のことだから、ずっと心の中で燻っていたのだろう。


「わたくしは現状で大満足ですけれど。どうしても不安だと仰るのでしたら、学外のウィル様はわたくしだけのものですから。敷地外では、存分に甘やかしてもらおうと思います」

「それは……今までと変わらない、ような……?」


 困惑している彼に、レティシアは大きく首を横に振ってみせる。

 

「そんなことありませんわ。いいですか、ウィル様。わたくし、明日から十五歳になるのです……っ!」

「……ええ、と?」


 いまいちピンと来ていないようなので、レティシアは悪戯っぽく微笑んだ。

 

「夜会にも出席できる年齢になった立派な淑女レディをこれまでと同じような甘やかし方では、失礼というものではありませんか?」


 つまりは、そういう意味である。


 少しの沈黙を置いてから、ウィリアムは物凄く困り顔になった。

 

「そうは言っても、僕が手を出したらレティは逃げちゃうでしょ……?」


 紳士の鑑である彼にしては珍しく、直接的な表現だった。レティシアはたちまち真っ赤になる。


「それは……おそらくは、十五歳のわたくしはこれまでよりもう少し、頑張れるかと……」

「じゃあ、試してみてもいいかな?」

「え?」


 頬に伸ばされた優しい手のひらの熱に、レティシアは慌てた。


「ウィル様、ウィル様……っ、日付がまだ変わっておりません! わたくし、十四歳ですっ」

「嫌?」

「〜〜っ」


 ずるいと思った。そんな風に尋ねられたら。


 頰に熱が集まるのを感じながら、レティシアは逃げずにじっとしていた。


 ウィリアムが、そっと顔を近づける。鼓動が跳ね上がるのを感じながら、まぶたを閉じた。


 唇に触れる、温かく、柔らかい感触。


 身を放して、ウィリアムが照れくさそうにはにかんだ。


「滞在期間が終わったら次に会えるのは学内だと思うけど。どこかで僕と目が合っても、視線を逸らさないでくれる……?」

「……っ、自信は、あまりない、です……」


 今夜のことを思い出して、挙動不審になる自信しかなかった。


「レティは日によって押せ押せだったり逃げ腰だったりするけど。しばらくは後者だろうな」


 微笑ましげにそう言って、ウィリアムが双眸を細める。愛おしげに見つめられるものだから、レティシアのドキドキは一向に収まってくれない。


「わたくしが、ウィル様の照れ顔を堪能するはずでしたのに……」


 急な展開に、レティシアはいっぱいいっぱいだ。ウィリアムがこんなに押せ押せになるとは、想像していなかった。


「今まで苦労して抑えていたのに、可愛い婚約者からあんな風に誘われたら、ね。流石の僕でもちょっと我慢は無理かな」

「……我慢していらしたのですか?」


 レティシアがおずおずと窺うと、ウィリアムは言葉に迷うといった様子で、ちょっと口ごもり。


「……それなりには」


 珍しいウィリアムの本音が聞けて、レティシアはなんだか嬉しくなる。


「今夜はウィル様の本心をたくさん知ることができた気がします。ウィル様は他者の前で弱音を吐きませんが、わたくし、それを少し寂しく思っていたのです」


 弱音も愚痴も、ウィリアムはレティシアの前ですら滅多にこぼさない。王族としての振る舞いを欠かさない彼の姿勢を尊敬しているけれど、ちょっぴり寂しくもあった。


「王族としてそう教育されてきたというのはあるけど。レティの前でも控えているのは、格好悪いところを見せたくないっていう情けない理由かな……」


 意外な本音が吐露されて、レティシアは、目を丸くする。


「初めて聞きましたわ」

「初めて口にした、ね」


 恥ずかしそうに目を伏せて、ウィリアムが囁く。


「でも、それでレティに寂しい想いをさせるのは本末転倒だね。改めないと」

「では、これからはちょっぴり格好悪いウィル様のお姿も見せていただけるのですね?」


 途端に、ウィリアムが不服そうになる。


「……意地悪な言い方だ」

「しゅんとするウィル様がお可愛らしくて、つい」


 レティシアはクスクスと笑みを咲かせる。ウィリアムも釣られたのか、くすりと笑んだから。


「レティ」

「はい」


 改まって呼びかけられたので、ぴんと背筋を伸ばす。


「僕らはこの先どんどん責任ある立場になって、お互いに忙しくなっていくだろうけど」


 レティシアもウィリアムも今は学生。だが、その身分を失ったら、目が回るような忙しさが待ち受けているだろう。


 ウィリアムが柔和な面持ちに、優しい微笑を湛えて言う。


「どんなに忙しくても、こんな風に二人で話す時間を作ろうね」

「……はい。大事なお話も、他愛のないお話も、たくさんしましょう……っ!」


 そうやって、これから先も二人で支え合っていけたらいいな、と願いを込めて。


 レティシアは全力で頷くのだった。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。本作はひとまずここで完結とさせていただきます。


後半は読むと疲れる小難しいお話になってしまいましたので、学園を舞台としたほのぼのな番外編をまったり更新したいなぁと思っております。


色々と粗く、終盤は特に作者の筆力不足が如実に表れていた本作ですが、ここまで書き切ることができたのは皆さまのおかげです。

本当に本当に、長いあいだ応援してくださってありがとうございます。


最後にお知らせです。

本日より異世界恋愛で新作の連載を始めました。

下にリンクがありますので、こちらも応援いただけたら嬉しいです。


それでは、最後までお付き合いくださって本当にありがとうございました!

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