第32話 公務終了です
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四十通の招待状の用意は、作業を始めてから二日目の午後には残すところ封蝋を捺すのみとなった。
作業に取り掛かる前に、レティシアは見守ってくれていたヘレネに一つの頼み事をした。
「招待状に不備がないかを一通ずつ確認し、家名の隣に設けられている欄にヘレネのお名前を記入してくださいますか?」
レティシアは四枚の紙をヘレネに差し出した。そこには招待する四十の家名がズラリと並び、ヘレネの名前を記入してもらうための欄が設けられている。
先日ウィリアムの顔を曇らせてしまったレティシアの作業は、このリスト作りだった。
招待状の用意に問題がなかったことを証明するための書面である。
「何かあっては困りますから。念には念を入れておきたいのです」
招待状に問題が生じた時、責任はあなたに押し付けますねと告げたようなもの。渋られることも想定していたのだが、ヘレネは嫌な顔一つせず指示に従ってくれた。
(モニカ様が公務の妨害まではなさらないとお考えなのかしら?)
ヘレネは潔癖そうな人だから、その可能性までは視野に入れていないのかもしれなかった。
ヘレネの意図を探るために後でこの書面はわかりやすいところに置いておくという手も考えたが、流石に人としてどうかと思い、素直に客室の金庫に保管しておくことにした。
一通一通丁寧に確認してくれたヘレネは最後に、問題ございませんと微笑んだ。
お礼を告げてチェックに漏れがないかを確認したレティシアは、ヘレネに向けてたおやかに微笑みかけた。
「念のため、モニーク公爵家への招待状をもう一度確認していただけますか?」
ヘレネが戸惑ったように瞬きする。今し方確認したばかりなのだから、当然の反応だ。
「モニーク公はとても気難しい方だと、用意していただいた資料に記されておりました。失礼があっては大変ですから、再度お願いしたいのです」
「……わかり、ました」
ぎこちなく頷いて、ヘレネはレティシアの頼みを聞いてくれた。確認し終えた彼女が顔を上げる。
「文言も綴りも、何も問題ありません」
「では、次にローガン伯爵家への招待状もお願いします。彼の方も、機嫌を損ねると厄介なのだとか」
続けてレティシアがお願いすると、ヘレネは怪訝な顔をしながらも、忠実に作業をこなしてくれた。
「こちらも、問題ございません。完璧です」
太鼓判を押してくれたヘレネに、また別の招待状を確認してほしいとお願いする。きちんと理由も伝えて。そうして計五通の招待状を確認し直してもらったところで、レティシアはご苦労様でしたと微笑んだ。
その後レティシアは、封蝋を捺す作業に取り掛かった。地道な作業は、陽が沈み切る前になんとか終えることができた。
完成した招待状を箱に収め、一通の漏れなく収めたこともヘレネに一筆したためてもらい、レティシアの公務は終わりを迎えたのだった。




