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【書籍2巻発売中】わたくしの婚約者様はみんなの王子様なので、独り占め厳禁とのことです  作者: 雪菜
第二章

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第20話 準備は進む、着々と

「ご報告します、ウィル様。公爵令嬢とは仲直りしたんで、ご安心ください!」


 生徒会室に入ってきたハルトが開口一番にそう言った。満足そうな顔には褒めて褒めて、と書いてある。


 仲直り、ねぇ。アレクシスは苦笑を隠せない。


 ハルトとレティシアで円満に和解する絵面がどうにも想像できない。ハルトが一方的に話して、それをレティシアが億劫がって流す光景ならありありと浮かぶけれど。


 執務用の椅子にゆったりと腰掛け、読書をしていたウィリアムが顔を上げて微笑んだ。


「それならよかった。歩み寄ってくれてありがとう、ハルト」

「家督は継げないけど俺だってブライアの人間ですからね。ウィル様の婚約者と仲良くする義務がありますから」


 胸を張って主張するハルトに、定位置のソファに座っていたアレクシスは苦笑を深める。それなら最初から、国王の信頼も厚い公爵家の一人娘に喧嘩を売るなよと思ったからだ。まぁ、これがハルトだ。


「それでは、ウィル様。アレク先輩、また明日」


 身を翻して出て行こうとするハルトに、目を瞠る。


「今来たばっかじゃん。もう帰るのか?」


 この時期の生徒会は大した仕事もなく、暇で仕方ない。放課後を生徒会室で過ごすかどうかは各々の自由だし、実際、ハルトが来るまで部屋に居たのはアレクシスとウィリアムだけ。他の三人はともかく、ハルトがウィリアムに戯れないのは意外だった。


 ハルトが憂鬱そうに吐息をこぼす。


「今日出た語学の課題がめっちゃくちゃ厄介で。課題の文章をケネス語に翻訳しないといけないんですけど、ケネス語って文法独特ですげぇムズいじゃないですか。クラスの友達が図書館で協力し合ってるみたいなんで、俺も混ぜてもらおうかなって」


 王国の友好国一番手となるケネス王国の母国語につまずく生徒は多い。物心ついた頃から仕込まれてきたアレクシスですら流暢とは言い難く、単語を並べてなんとか話せるレベル。学園に入学してから習う生徒は、ちんぷんかんぷんだろう。


「そんなの、ウィルの手を借りればいいじゃんか。特に興味もなければ王太子の教養として必要でもない哲学書読んでるくらいには、暇を持て余してるぜ?」

「この前シルヴィアが熱心に読み込んでいたから、気になっちゃって。暇なのは事実だから、僕でよければ教えるよ?」

「あ〜……」


 すぐに乗ってくるかと思ったのに、ハルトは微妙な面持ちになる。しばらく葛藤していた彼は、ふるふると首を横に振った。


「いや、遠慮しときます。俺、せっかくウィル様と過ごすなら楽しい時間にしたいから。勉強くらいは、自分でなんとかします」

「……そう。どうしてもわからなかったら、僕の部屋においで」


 はーい、と元気よく返事をして出て行こうとしたハルトが、再び振り返る。


「……と、忘れてた。あぶな。アレク先輩、アルトリウス公爵令嬢から伝言。『力をお借りしたいので、都合のつく日時を教えてください』だそうです。それじゃあ、ちゃんと伝えましたからね?」

 

 そう告げて、ハルトが退室していく。二人きりになると、アレクシスは思いっきり顔をしかめた。


「レティシアが俺の力を借りたいとか、嫌な予感しかしねぇ〜〜」


 絶対、面倒ごとに巻き込まれる。


「婚約者なのに頼ってすらもらえない僕の前で、贅沢なことを言うね」

「拗ねてんの?」


 執務机を振り返ると、恨みがましい眼差しが。


「面白くはないかな」


 流石に冗談だとは思うが、微妙に本音も混じっているような気はする。アレクシスは肩をすくめた。


「助言しといてやったのになー。ウィルを頼れって」


 ウィリアムに無条件に甘やかしてもらえるというとんでもない特権を有しているのだから、素直に甘えておけばいいのに。


 単に甘え下手なのか、矜持が邪魔をするのか。それ以外の要因か。推し量れるほどレティシアを理解していないので、なんとも言えない。


「心持ちの問題であって、レティにとっては僕を頼るほどの大事ではないから」

「ふぅん」


 ウィリアムが答えをくれる。大事じゃないのにアレクシスの力が必要なのか。謎だ。


「ってか俺、あいつが何に巻き込まれてるのかすら知らねぇんだけど?」

「んー。そうだな。レティの話を聞いたら、アレクは呆れるんじゃないかな? そういう類の話」


 こんなに暇なのに、ウィリアムは説明する気がないらしい。


「ウィルのレティシアへの理解度でも試しとく?」


 思いつきの提案に、ウィリアムが怪訝な顔をする。


「あいつが俺をどう頼りにしてるのか。予想してみてくれよ。当たるかどうか、賭けようぜ」

「答えを知ってるから、賭けは成立しないよ」

「つまんねぇの」


 そこまで把握しているなら今ウィリアムが打ち明けてくれれば、話が早いと思うのだが。


 よくわかんねぇなと嘆息しつつ、暇つぶしで開いていた冊子に視線を落とす。


 今日の朝、実家から届いたものだ。日曜日に参加する夜会の招待客について、嗜好やら派閥やらがびっしり書き込まれている。これをすべて頭に入れてから出席しないといけないのだから、名門貴族の嫡男というのは大変だ。


「空いてる日なんてこの日以外いくらでもあるんだが、いつにすっかな〜」

「早いほうがレティにとっては有り難いと思うよ。明後日なら生徒会が休みでこの部屋が使えるし、レティの都合が合うならちょうどいいんじゃない?」

「んじゃ、そうするかー」


 寮に帰ったらレティシアにカードを送るのを、忘れないように気をつけよう。



◆◆◆◇◆◇◆◆◆ 



 アダム・ラドフォードは、寮の自室で悲鳴を上げた。


「ダメだ、ぜんっぜんわからない……っ!」


 ペンを置いて、ケネス語の辞書と文法の説明が記載された教本を睨みつける。


 今日出された語学の課題は、とても意地悪だ。翻訳を求められたのは、ルクシーレでは有名な童話のわずか一ページ。その一ページをケネス語で書き直せばいいだけのことが、とんでもなく難しかった。


 課題が出た時、ルーシーが手伝いを申し出てくれたのだが、アダムは大丈夫だよ、と断ってしまった。格好つけないで、成績優秀な恋人に教えを乞えばよかったと後悔する。


 頭を抱えていると、コンコン、と控えめなノックが聞こえてきた。ちらりと時計を確認すると、二十二時を回っている。就寝時間まであと一時間を切っているというのに、誰だろう。


 扉を開けたアダムは、驚いて危うく大声を出しそうになった。柔らかな燭台の明かりに包まれた廊下に立っていたのは、ウィリアムだ。


「こんばんは。こんな遅くに押し掛けてごめんね」

「あ、いえ……え? どうして殿下が俺――あ、いや、僕の部屋に……?」


 びっくりし過ぎて呂律が回らない。部屋を間違えたのではないか、なんて考えが浮かぶ。


「ラドフォード君に少し、確認したいことがあって。今、大丈夫かな?」

「も、もちろんです!」


 ありがとう、と柔らかく微笑んだウィリアムを自室に招く。椅子を勧めるべきか迷っていると、勉強机に視線を止めたウィリアムがあ、と呟いた。


「ごめん、勉強の邪魔をしたかな?」 


 申し訳なさそうな顔に、手のひらをブンブン左右に振る。


「いいんです。ちょうど、投げ出したところだったので。もう、訳がわからなくて……」


 ウィリアムがクスクスと笑った。


「同じ課題なのかな? ハルトも嘆いていたよ、ケネス語はややこしいって。僕でよければ教えようか?」

「え!? いえ、でもそれは……」


 渡りに船ではあるけれど、縋るのは図々しいのでは。恐縮するアダムに、ウィリアムが穏やかに微笑む。


「こういう時に頼ってもらうための、先輩だから。遠慮なく頼ってもらえると嬉しいかな」


 王太子の優しさは分け隔てないと聞いていたが、評判は本当だったみたいだ。感激していると、ウィリアムが肩をすくめた。


「それに、ラドフォード君には最近ハルトがお世話になっているみたいだし。ラドフォード君に懐いているのと同じくらい、僕の婚約者とも上手くやってくれればいいのにな」


 悩ましげな吐息。


 ウィリアムがあまりにも憂鬱そうな顔をしていたから、ついお節介を口にしてしまった。


「それはたぶん、難しいんじゃないか、と」

「……どうして?」


 不思議そうなウィリアムに、どう説明したものかと悩む。


 ハルトからの頼まれ事を引き受けたアダムは、レティシアについてルーシーに尋ねた。


 恋人は、公爵令嬢の性格は褒められたものではなく、高慢かつ嫌味な人で、苦手だと打ち明けてくれた。


 ウィリアムが寮を騒然とさせた日、公爵令嬢が池に髪飾りを落としたと騒いでいたから、ウィリアムの優しさにつけ込んで拾わせたのではないか――ルーシーのそんな推測を、アダムはそのままハルトに伝えた。邪推に思えたハルトの憶測が当たっていたことに、興奮を隠せなかったからだ。


 だが、それをそのままウィリアムに伝えるわけにはいかない。婚約者を悪く言われたら、優しい王太子は悲しむだろう。


「えぇと、公爵令嬢のお人柄が、ハルトとは馬が合わないんじゃないかな……と」

「どうしてそう思うんだい? クラスが同じだから、公爵令嬢とよく話をする?」

「僕の……あー、ええと」


 参ってしまって、アダムは後ろ髪を掻く。ルーシーに、告げ口みたいになるから黙っておいてと言われたのだった。


 かといって上手い言い訳も思い浮かばず、口をつぐむことしかできない。軽はずみに口にしていい話題じゃなかったと、後悔する。黙り込んだアダムに、ウィリアムがやんわりと言った。


「ごめんね、困らせるつもりはなかったんだ。言いたくないなら構わないよ。でも、これだけは確認させてもらっていいかな? 僕がひどい有様で寮に帰ってきた日があっただろう? その理由を、僕はあまり広めて欲しくないんだ。だから、誰がハルトに伝えたのかだけは知っておきたくて」

「僕がハルトに教えました。公爵令嬢が髪飾りを落としてしまって、殿下はやむなく池に入ったのですよね?」


 ルーシーからの又聞きだけれど、ハルトに伝えたのはアダムなのだから、嘘じゃない。


「そっか。ハルトにも伝えたんだけど、王太子が池に入ったなんて恥ずかしいから、その話は他言無用でお願いしてもいいかな?」


 ウィリアムの頼みに、アダムはもちろんですと頷いた。

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