98.その実力を確認して
拾得物はもよりのコロニーへ・・・というわけにもいかないブツなのでアリスの提案通りシップメーカーへと持ち込むことにした。
本来ならば拾得した旨を事前連絡をするべきなんだろうけど、それをすると前もった対応をされてしまう可能性があるのでその辺もスルー、なんともかわいそうな話だが俺達は見つけたものを運んだだけなので文句を言われる筋合いはない。
「やっぱりこいつがあると邪魔だな」
「とはいえレアメタルの卵ですから」
「そんなのがポコポコ生まれてくれるのならありがたい話だけどな・・・っと、これで積み込み完了だ。しかしもう少しカーゴが広ければ」
「それをするために工業コロニーへ向かうんですからもう少し辛抱してください」
それはまぁそうなんだけどさ。
次に立ち寄ったコロニーでは比較的仕入れできるものが多くカーゴがパンパンになってしまった。
一度例のコンテナを降ろしパズルゲームのように組み替えながら最大量まで仕入れを行い、燃料を補給している間に情報収集を行う。
行くのはもちろん傭兵ギルドだ。
「この先の航路は気を付けたほうがいいぞ、特に荷物が多いやつは要注意だ」
「というと?」
「ここ数日商人の襲撃が多発してるんだが、どれも荷物が満載の奴ばかり狙ってやがる。大抵は鈍足だし生きるために荷物を捨てるから何もしなくても実入りが増えるってわけだ」
「なるほど、追いかけるだけで勝手に金が転がってくると。賞金は?」
「そこまで高くないが数は多い、くれぐれも気を付けてくれ」
そういう情報は先に聞きたかったが後の祭り、むしろ襲撃してくれるのなら望むところだというのがうちの女たちだ。
それに賞金が向こうから勝手にやってくるのであればむしろ好都合、ギルドでの話を伝えると俄然やる気を出してしまった。
「では彼らに狙われましたらダミーとしてコンテナを排出、それから一気に加速して距離を取り解放した無人機を使ってイブ様と共に挟撃を開始、あとはローラ様の腕次第ということで」
「望むところよ、私に任せておいて」
「残念なのはカーゴが満載だから奴らが持っているものは持ち帰れないってことだな。俺らみたいなのを狙ってるってことはしこたま隠し持ってるわけだろ?」
「その点はご心配なく、完全な状態で一隻は残しますのでそれに積み替えればいいだけです。隠し場所も鹵獲すれば判明するでしょう」
「根こそぎ持ち帰るわけか」
「当然です、奴らが持っている意味がありません」
ただ倒すだけでなく彼らの隠しているお宝も併せて頂戴する、死人に口なし死んだ宙賊に宝無しってね。
そんなわけで傭兵ギルドの忠告通り荷物を満載にしたソルアレスは、わざとゆっくり飛行しながら問題の宙域へと到着した。
別段怪しいところはないみたいだけど、本当にこんなところに出るんだろうか。
「反応は?」
「今のところは何も、おそらくエンジンを停止して発見されないようにしているでしょう」
「ま、遅かれ早かれ出てくるだろうからあとは適当にやってしまおう」
「マスターも随分となれましたね」
「そりゃあんなのを経験したらなぁ」
宇宙軍と共に宙賊基地を強襲、何機もの宙賊を打ち落としていくたびに恐怖というかそういう感覚が薄れていくのがわかる。
そもそも奴らに人権はないし、宙賊になった時点で落とされるのは確定。
やっていることもやっている事だけに慈悲をかける理由もない。
特にここに出る奴らは何度も襲撃をしているような連中だ、遠慮は無用ってもんだろう。
「とりあえずまっすぐ進むからね」
「あぁ、微速でよろしく」
「私は先に銃座で待機しておきます、狙撃タイミングはお任せしますので教えてください」
「了解、イブちゃんの正面につけるからどんどんやっちゃって!」
そんな乗りで出現宙域を微速で進むこと1時間ほど、いい加減飽きてきたタイミングで警報音が鳴り響いた。
即座にアリスがコンソールを叩いて情報を集める。
「船体スキャンを感知、見られていますね」
「何機だ?」
「現在三機だけですがもう少し増えるかと」
「よし、しばらくはビビったふりして今のうちに使えそうな船を探しておいてくれ」
「かしこまりました」
まずは敵の全数を確認、そこから使えそうな船に目星をつけてあとは全部打ち落とせば船と一緒に賞金ゲットだ。
おびえているように速度を落とし待つこと数分、強制通信が送られてくる。
「よぉ、随分腹いっぱい見たいじゃないか。重たいなら持ってやろうか?」
「殺さないでくれ!」
「へへ、置いていくもん置いていったら殺しゃしないさ」
「荷物を置けばいいんだな?そしたら落とさないんだな?」
「だからそういってるだろ。五分待ってやる、それまでに終わらせろよ」
ブツリと音を立てて通信が切られる。
勝手につないで勝手に切って、こっちの都合は全く考えない。
そんな奴は嫌われるぞ。
「いい演技でした」
「だろ?ってことでコンテナを射出して奴の実力を見せてもらおうか」
「腕が鳴ります」
「逃げるのは五分後でいいかしら?」
「あぁ、コンテナ一個だけってなったら奴ら怒って追いかけてくるだろうからあとは任せた」
「オッケー!ってことだから、イブちゃん五分後にお祭り開始ね!」
「五分後、了解しました」
全部おいていけって言われたのに一つしか落とさないとなるとほかの連中が大慌てで追いかけてくるはず、もちろんコンテナにも誰かが近づいてくるだろうから接触と同時に無人機を起動させて一気に殲滅と行こうじゃないか。
ゴトン!と音を立てて例のコンテナを放出、メインモニターの時計がきっかり五分を表示た瞬間に船はドン!と勢い良く動き出した。
「くそ!逃げたぞ!」
「コンテナ一個だけとかしけたことしやがって、撃ち落とせ!」
アリスが傍受した無線がコックピットに響き渡る。
予想通り、隠れていた連中も含めて合計七機がソルアレスめがけて加速を開始、メインモニターに写し出されたソルアレスを示す青い点の後ろから赤い点がものすごい速度で集まってくる。
「おーいい感じにお怒りだな」
「コンテナにも一機近づいてきます」
「あとは追いかけっこをして時間を稼ぎつつイブちゃんにお任せね」
「アリス、めぼしい船は見つかったか?」
「そうですね・・・今表示しています緑の点がカーゴ容量も大きい船です」
「ってことだからあれは撃ち落とさないように」
「わかりました!」
銃座に設置された小型モニターにも緑色の光点が表示されているはず、わざと速度を落としながら無人機の入ったコンテナを中心に円を描くように飛行しつつ逃げ回っているように演出する。
途中何度も撃ち込まれたレーザーが横を通り過ぎるも華麗な操縦で問題なく回避、向こうもなかなか撃ち落とせず、逃げ回る獲物に怒り心頭という感じだ。
「コンテナに宙賊船が接触、パージ開始します」
「さぁ、お待ちかねのデビュー戦だ。派手にぶちかましてやれ」
「了解しました」
メインモニターの右上に無人機のカメラが撮影した映像が映し出された。
前後左右に勢いよくコンテナの壁が射出され、伸ばした回収アームにそれが接触、勢いよく折れるところまでばっちりと映っている。
「おー、いい感じに慌ててるな」
「エンジン始動、正面宙賊船ロックオン」
「至近距離だが大丈夫か?」
「そのために設計された船です、問題あるはずがありません」
突然コンテナの壁が吹き飛び、そこから出てきた無人機にいきなりロックオンされるという恐怖はかなりのものだろう。
アームを伸ばしたまま即座に反転したのは素晴らしい判断だが、敵に背中をさらすのは愚の骨頂。
「ミサイルシステムオンライン、発射」
アリスの抑揚のない言葉と同時に無人機のミサイルが火を噴き、無防備に背中をさらす宙賊船へと一直線へ向かっていく。
「よせ!やめろ!しにた・・・」
命中と同時に鮮やかなオレンジ色の花が宇宙に咲く。
最後に何か言っていたような気もするが、気のせいだろう。
「撃墜を確認、ソルアレス援護と同時に鹵獲目標にハッキングを開始します」
「よし、こっちもそろそろ反撃開始だ」
「了解!派手にいくわよ!」
残りは七機、こいつらは後何分生き残れるだろうか。




