97.落とし物を起動してみて
「つまりこいつは某シップメーカーが極秘裏に開発していた無人兵器ってことか」
「設計図から推測するとそうなります。コンテナの偽装に関してはそれを証明するメッセージなどは発見できませんでしたが、各種パーツの取引履歴から察するに無人兵器を製造しそれを極秘裏に輸送しようとしたのでしょう」
「でも、何も知らない宙賊がそれを積んだ船を襲撃。逃げ出すために積み荷を放出して今に至るっていうのはちょっと変じゃない?」
仮眠を終えたローラさんがコックピットに登場、パイロットシートに座ったところでとりあえず事情を
説明したのだが話を聞いたローラさん的にはあまり納得がいかない様子だった。
「というと?」
「いくら極秘なものでもコンテナに追跡用のチップぐらいつけるもんじゃない?じゃないと本当に届いたかわからないでしょ?」
「確かにローラさんの言うとおりだ。極秘だからこそ相手に確実に届ける必要がある、それに失敗したとしても別の方法で回収して届ければいいだけの事、それをみすみす放棄するってのはちょっとなぁ」
「お二人の言うことはもっともです、ですが本当に探索用のチップなどはつけられていませんでした。まるで初めから探す気なんてないみたいに」
「・・・わざと捨てたのか?」
「可能性の話です。星間ネットワーク内のメッセージを解読してもそれらしい記載はありませんでしたが、初めから無かった事にしたかったと考えれば捨てた理由にも納得です」
作ったものの使用を憚られたため何かしらの理由をつけて廃棄、考えられなくもない話だけどあくまでも仮定の話だ。
本当のところはシップメーカーにしかわからないけれども・・・はてさてどうしたもんか。
「廃棄されたものを拾ったとして、俺達は何も悪くないよな?」
「先程も申しましたように所有権は私たちにあります。これを使うなり捨てるなりは私達次第、個人的には使用してみたいところですが・・・」
「使うってこれをか?」
「イブ様の戦いっぷりを見ていますと私も戦いたくなるのです。とはいえ敵陣に突っ込むことはできませんし、銃座が二つあるわけでもありません。となると別の手段が必要だと考えていた次第です」
「つまり工業コロニーに行って船を大きくする際にこういったのをつけようと思っていたわけか」
「ここまで大きいものではなくもっと小型のドローンを想定していましたが、これもアリですね」
戦いたくなる気持ちはわからなくもない、だがそれを俺に黙っているのはどうかと思うぞ。
もし今回の件が無かったら何も知らないまま船を改造し、ドローン的なものを勝手に追加されていたわけだろ?
別に全否定するわけじゃないんだからそういうのはちゃんと言ってほしいよなぁ。
「それで、どうするの?」
「んー、せっかく見つけたわけだし・・・とりあえず起動させてから考えるか」
「マスターのそういう思い切りのいいところがさすが」
「お褒めにあずかり光栄だよ。それで、起動できそうなのか?」
「接続テスト次第ですがおそらく大丈夫かと」
もしヤバげなものだったらこの場で破壊して放棄すればいいだけの話、もし使用できそうなら・・・その時はその時で考えよう。
ぶっちゃけこのままカーゴに入れておくにはデカすぎるので今後運用するのであれば追随させる感じになるだろうけど、あくまでも動くのならという話だ。
カーゴに移動しアリスが試行錯誤するところを三人で眺める。
特にスイッチ的なものがあるわけではなさそうな感じ、じゃあどこで起動するんだよと思いながら様子を見ていると突然兵器からエンジン音が聞こえてきた。
「お、動いた?」
「やっと接続キーを発見しました。中々巧妙に隠されていましたが、私にかかればこんなものです」
「さすがアリスさん」
「やっぱり兵器か何かなんですか?」
「そうですね・・・内部機構を考えると間違いなく兵器です。遠隔操作で相手が近づいてきたところで起動、至近距離から複数のミサイルをぶち込んでシールドを融解させコックピットに弾丸を打ち込むというのがコンセプトのようです」
中々恐ろしい使い方をするじゃないか。
小型ドローンではそこまでの火力はないし、かといって無人機を遠隔操縦するのは中々に難しい。
でもアリスの手にかかれば遠隔でも繊細な動きをさせることはできるだろうから第二の攻撃手段としては重宝しそうな感じ、早速宇宙空間に投入してアリスに操縦させてみる。
上下、左右、前後、急旋回に急停止。
人が乗っていたら絶対にできな動きでも無人機ならそれも可能、しかも操縦桿を動かすのではなくネットワークにつないでの遠隔操作なので離れた場所に潜ませてっていうのができるのは非常に強い。
まるで玩具を買ってもらった子供のように大はしゃぎするアリスを横目にこいつの今後について考えをまとめる。
「どうだ?」
「想像以上というべきでしょうか。普通の兵器かと思いきやこの機体経由して遠隔で相手の船をハッキングすることもできそうな性能です」
「凶悪すぎるだろ」
「通常の無人機は通信接続の都合上あまり離れたところを飛行できませんが、これは常にネットワークと連携をとっていますのでほとんどラグが無いんです。おそらくそれ専用に開発したといっても過言ではありません。ですが無人機の開発にはかなり制約があり、特に大量殺戮のできるスペックの物は認可が下りませんのである意味廃棄されるのは当然でしょう」
「ネットワーク経由を前提として、今繋いでいるのは大丈夫なのか?履歴とか送られたりしないのか?」
「その点はご心配なく、スタンドアローン状態にしてから接続していますので」
つまりオーバースペックの兵器になってしまったから公表すらできず廃棄されてしまったと。
確かに超遠隔で相手の船に近づいて直接息の根を止めるというのは中々に怖い話だ。
それが傭兵ならまだしも民間人の乗る大型船などで同じようなことが起きるとかなりの被害になることは間違いない。
仮にこれを限定した相手に販売したとしても最終的に宙賊にも出回り、同じような方法で攻撃される未来を考えたらこれを売りに出すことは難しいよなぁ。
「で、アリスはこれを使っていくのか?」
「個人的には使用したいところですが・・・、後々めんどくさいことになりそうなので合法的なものを模索しようかと」
「それがいい」
あちらこちらを文字通り飛び回る無人機、ぶっちゃけこれがあれば俺達もより安心安全に戦うことができるだろうけど、ガサ入れてきなものがあった場合に言い訳がしづらい。
それなら合法の範囲内で新しい機体を買うか、自己進化で作るかのどちらかになる。
なんにせよ新しい無人機的なものは必要ということなので次のコロニーで探すのもいいかもしれない.1
「そんじゃこれはここに廃棄だな」
「いえ、コンテナに戻します」
「どういうことだ?使わないんだろ?」
「これは落とし物ですから、何も知らなかった私達が持ち主に返還すればそれなりの報酬は貰えるはずです。加えて中身を知っているわけですから・・・」
「イブさん、やばいやつがいるぞ」
「アリスさん、脅すのはよくありませんよ」
「これは脅しではなく交渉です。ちょうど立ち寄ろうと思っていたシップメーカーですのでいいお土産ができました」
向こうからすればなかったことにしたくて廃棄したはず、それが戻ってくるとどういう反応を示すのだろうか。
もちろんこれは仮定でしかないわけだけど、果たしてどういうことになるのやら。




