95.名産品を発見して
宇宙軍との追いかけっこは、無事に宇宙軍の管理宙域外に逃げ出した俺達の勝利で終わった。
ナディア中佐からは恨み節のメッセージをもらったけれど、それはそれこれはこれ。
いずれ縁があればまた一緒に宙賊を追いかける日も来るかもしれないが、とりあえずその日までお会いすることはないだろう。
そんなわけで予定より早く次のコロニーへと到着してしまったが、幸い荷受けのほうもできれば早く手に入れたかったようでさっくりと荷渡しが完了。
本来ならばすぐに荷物を積み込んで出発したいところなのだが、予定よりも燃料を喰ってしまったので致し方なく一泊することにした。
「時間灯が無いコロニーなんて珍しいな」
「むしろ時間灯があるほうが珍しいかと」
「そうなのか?」
「一応標準時間は存在しますが、恒星のある地域ですとそれとは違ってきますし運用するのにもそれなりのエネルギーを使います。ここのように周りに何もないハブコロニーだと人の行き来する時間も様々ですからほぼ一日中稼働していると考えていいでしょう」
時間灯、標準時間に合わせて昇る太陽代わりに強力な灯りでそれを基準に日々生活していた。
これが昇れば朝、沈めば夜という感じで体感的に時間を把握できる分睡眠時間なんかもしっかりととれるし、住んでいる住民も同じリズムで活動ができる。
だが到着したコロニーにはそれがなく、上を見らべれば漆黒の宇宙が広がっていた。
灯りとしては灯篭のようなものが通路に並んでいる程度で、ぶっちゃけ今が朝なのか夜なのかさっぱわからない。
体内時計的には今は夜、そろそろ腹が減ってくる時間だ。
「なるほど、つまり三交代制で働いているのか」
「そんな感じです。店によっては標準時間に準じているところもあるでしょうけど、基本的には営業し続ける事でしっかしお金を落とさせているというわけですね」
「なるほどなぁ。まぁ、飯を食う場所があればそれで十分。おすすめの場所は?」
「星間ネットワークで一番口コミの多い店を見つけてあります、なんでも名産品が食べられるとか」
「名産品?」
惑星とかならわからなくはないが、コロニーに名産品?
工業用コロニーに向かっているとはいえ近くにあるわけではないし、ここから先はどこも中継地点としても惑星が続くだけ、それ向けの商業はあっても産業まではない感じだ。
そんな場所にいったい何があるというのだろうか。
とりあえず行けばわかるということで皆でぞろぞろとコロニーの中を移動、到着したのは飲食店の並ぶ通りの一番奥だった。
「ここなのか?」
「はい」
「なんていうか、外からでは何のお店かわかりませんね」
入り口は固く閉ざされており、扉の上にかけられた看板には緑色の四角い絵が描かれている。
緑色という時点で飲食品という感じがない上に、四角い形からは全く想像がつかない。
確かに合成機から出てくる食べ物は調理されたものと形は違うけれども、それでも資格にはならないからなぁ。
とりあえず扉の横のボタンを押すと、扉が開き中から声が聞こえてくる。
中にはそこそこのお客がおり、皆おいしそうに何かをほおばっていた。
「いらっしゃいませ」
「四人なんだがいけるか?」
「大丈夫です、奥へどうぞ」
案内されたのは壁際の四人掛けのテーブル、壁にはめ込まれたパネルにはメニューらしきものがいくつも表示されている。
名前はどれも星の名前、をもじったもののようでそれからは中身が全く想像できない。
「なににしますか?」
「ここのおすすめは?」
「ヴェラリオンとサクライス、それとニエルーンとコルヴァンの四つですね」
「さっぱりわかりません」
「わざとそうしている感はありますけど、味は間違いありません」
「じゃあその四つで、味はまぁ食べたらわかるだろ」
周りを見るとみな四角い何かを食べている。
なんだろう、少しプルプルとしているのでゼリー的な感じなんだろうか。
その割には質量がしっかりしてあるっぽいし、しっかり噛んでいる印象もある。
これがコロニーの名産?
「お待たせしました!各四種類です!」
「「「「「おぉぉぉ~」」」」
全員が到着した名産品に驚きの声を漏らす。
見た目は完全なる正方形、色は青・赤・緑・黄の四色で皿の上でフルフルと震えている。
スプーンでつつくといい感じの反発があり、皿を持つとなかなかの質量だ。
「これが名産?」
「このコロニーには保存食を作るメーカーがいくつかあって、そこの品を直接食べてもらえるようにしているんです」
「保存食ってあの!?」
「これを乾燥させるといつものバーみたいに細長くなります。水をかけると元に戻りますが、それでもこんな感じにはならないのでこれを食べれるのはここだけです」
「つまり生保存食?」
「生・・・なのか?」
保存食をそのまま食べられるから生という考えは間違いじゃないだろうけど、それでもちょっと違う気がするんだよなぁ。
なんにせよここの名産が何かはよく分かった、長距離航海が多い航路なので必然的に保存食が求められて結果的にそういうメーカーが集まったんだとか。
メーカーは作る過程で出来てしまう廃棄を市場に放出、それをうまく商売に結び付けた結果がこれらしい。
確かに名産と言えば名産になるのかもしれない、他のコロニーでも似たような感じで名産があるらしいので行く先々で色々と楽しめそうだ。
「ん、美味しい!」
「こっちの赤いのは見た目の割に甘酸っぱくて癖になりそうです」
「黄色は予想通り酸味が強いがさっぱりした感じが癖になるな。緑は見た目の割に苦みというか、結構癖になる味だ」
「なるほど、ただ売るだけでなく一部を加工してそれを新しい別物として売りに出すのですね。何を加工するのかという部分が色々と大変ですが、元値が安くてもやり方次第で高く売れるいいモデルケースのようです」
ただあるものを右から左にするのではなくそれを加工することで新たな商材として販売、確かに面白そうな感じはあるけれどこれをメインにして売りさばくだけの実力と経験がない。
いずれはどこかで加工したものを出荷、なんてことを出来たら面白いかもしれないけれど取り合ず今は右から左に転がして稼ぐのが一番だろうなぁ。
「美味い、美味いんだが・・・」
「どうしました?」
「いや、見た目って大事だなって思っただけだ」
「マスター、それは贅沢というものですよ」
「もちろんわかってはいるけれど、やっぱりなぁ」
目の前に並ぶ四角い食べ物、これを食べていれば長期間の航行でも体を壊すことなく適切な栄養を摂取することができる。
はるか昔には一部栄養素が不足することで病気になったこともあったそうだが、今はその心配もない。
食べる時間も短くて済むし効率的と言えば効率的なんだが、惑星で食べた本物の食材が脳裏にちらつくせいでどうしても目劣りしてしまうんだよなぁ。
もちろん合成機を通さない食べも物もあるけれども日持ちしないので航行中に食べることは難しい、コロニーで生活するのならともかく移動メインの俺達がそれを望んでしまうのはそれこそ贅沢なんだろう。
「もし惑星を買うことが出来たら、またあんな生活ができるといいですね」
「そうだな」
「皆さんそんないいものを食べてきたんですね、羨ましいです」
「またマスターが食べさせてくださいますからその時を楽しみにしていましょう」
「おいおい、勝手に決めるなよ」
「でもトウマさんはまた食べたくありませんか?」
「そりゃ食べたいけどさぁ」
惑星産とまではいわないけれど、コロニー産の魚もなかなかの値段がする。
それでも今の稼ぎなら少し頑張れば手が届くだけに機会があればと思ってしまうんだよなぁ。
人間なんとも現金なものだと、四角いゼリーをつつきながら考えるのだった。




