90.思わぬ相手と遭遇して
「やばいやばいやばい!」
「やばくありません」
「どこがだよ!すぐそこをレーザーガンが通過していったんだぞ!」
いたる所で爆発音が響き渡り、怒号と悲鳴が遠くから聞こえてくる。
ここは宙賊基地、本来であれば俺達みたいな一般人が立ち入ることの出来ない場所を俺たてゃ移動していた。
一応イブさんを含めた宇宙軍が突入した後なので残党はいないという前提ではあるけれど、ついさっきは流れ弾だと思われるレーザーガンが真上を通過。
あれがもし低かったら俺達に命中していてもおかしくない。
「ですからこうやって前を歩いているではありませんか。レーザーガン程度であれば私の体で十分防げます」
「流れ弾はともかくとして本物が出てきたらどうするんだよ。絶対に殺されるぞ」
「宙賊とは言え彼らも生まれた時は一般人ですからインプラントを仕込んであります。それを感知すればどこにいても居場所は手に取るようにわかりますから心配には及びませんよ」
「って言ってるがローラさんどう思う?」
「今はアリスさんにすべて任せましょう」
何かを達観したような顔をするローラさん、本当は船で待ってもらうつもりだったんだが本人の強い希望で着いてきてもらう事になった。
ぶっちゃけ俺は残りたかったんだが、残念ながらアリスがそれを許してくれなかった。
まぁ、ナディア中佐にも出来れば一緒に来てほしいと言われていたので致し方ないといえば致し方ないのだが、早く安全な場所に移動したい。
「どうぞ安心して後ろをついてきてください。情報によれば物資格納庫はこの奥、非合法な品はもう少し奥にあるようですが私達はこちらで十分です」
「そこは安全なんだよな?」
「わざわざ合法な物を守る理由はありませんから、レアメタルのようなものはないかもしれませんが少なからずお金になる物はあるはずです」
「はず、なのか?」
「彼らが勤勉であればコンテナの中身を即座に把握できたのですが、残念ながらそのような事はなかったようです」
「つまり開けなきゃわからないってことか」
「流れ弾の飛んでくる通路よりかは安全だと断言致します、急いでまいりましょう」
確かにここよりかは安全だろうけど・・・いや、あまり悩んでいても仕方がないか。
小銭稼ぎをするためにも少しぐらいは自分の手を動かさないと、ってことでアリスを盾にしながらメイン通路ではなく何度か通路を曲がりながら奥まった場所へと移動。
一見すると壁にしか見えない場所にアリスが手を添えた次の瞬間、壁に一筋の線が入りプシュ!という音を立てて静かにスライドしながら開いた。
「これを隠し部屋と呼ばずなんと呼ぶ?」
「一応倉庫扱いの様ですね、履歴を見る限り頻繁に開いているようですしパスを知っている人であればだれでも出入りできるようです」
「でも、知らなかったら開けられませんよね?」
「もちろんその通りです」
「因みに最後にここが開いたのは?」
「履歴によると三十分前ですね」
そのぐらい前だとちょうど宇宙軍が突撃し始めた頃、もちろん襲撃に備えて中にあったものを持って行ったという事も考えられるけど、それにビビった奴が中に逃げ込んだ可能性もゼロじゃない。
インプラントがあればすぐにわかるとのことだけど、果たして精度は如何なものか。
「アリス、もう一度インプラントをスキャンだ」
「この中をですか?」
「宇宙軍にはこの場所の開け方は教えていないわけだろ?つまりここに逃げ込んでも彼らには見つけることはできない、俺なら間違いなくここに隠れるね」
「なるほど、マスターの言う事にも一理あります・・・、スキャンしましたが反応ありません」
「ってことは何かを持って逃げだしたか。まぁいい、中に入って確認しよう」
「了解です。念の為中に入りましたらロックをかけますので」
探し物をしている間に逃げてきた宙賊が入ってきても困るからな、それぐらいしておいた方が良いだろう。
エアロックが閉まり、代わりに部屋の中の照明が順番に点灯。
奥へ奥へと続く倉庫にはコンテナをはじめ、様々な物が押し込まれているようだ。
「ゴミ・・・じゃないのか?」
「一応売りに出せばお金にはなりますね」
「この中から金目の物を探すのはなかなか大変だぞ」
「しらみつぶしに探すより仕方ありません、それともマスターは宙賊のいる基地の奥の方がお好みでしたか?」
「ここでいい、頑張って探すぞ」
「畏まりました」
戦闘能力の高いイブさんらともかく俺みたいなやつが行っていい場所じゃない。
誰もいないのならばむしろ好都合、ドンパチが終わるまでのんびり宝探し手もするか。
かくして、宙賊基地強襲作戦の最中に秘密の倉庫に手宝探しが始まった。
はたしてお宝は見つかるのか、次週に続く!
「マスター、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「いえ、頭が」
「誰の頭が悪いって」
「自覚はあるのですね、それだけでも安心しました」
「うるさいっての、そっちは何か見つかったか?」
アリスのツッコミを華麗にスルー。
気づけば宝探しを始めて一時間程、最初はガラクタばかりしか見つからなかったが奥に行くと少量のレアメタルや換金性の高い宝石などを見つけることができた。
あとはピュアウォーターの入ったコンテナに食糧カートリッジなんかも発見、この辺は自分達でも使うので後で回収すればいいだろう。
アリス曰くタグをつけて所有権を変更して置けば、宇宙軍が見つけても所有権を主張できるのだとか。
「レアメタルと純金を発見しました、ランダムロックをかけた箱の中があったのでもしやと思いましたがあるところにはある物ですね」
「よくやった。こっちも色々見つかったし、一度船に持ち帰ってから大物を持ち帰ろう」
「畏まりました。後はローラ様ですが・・・」
広い倉庫ではあるけれど何度かすれ違っている、そろそろ戻ろうと声をかけようとしたその時だ。
「キャァァァァ!」
突然聞こえて来た悲鳴に手に持っていたものをその場に落として急ぎ走り出す。
「誰もいないんじゃなかったのかよ!」
「あれから何度かスキャンはしていますが、インプラントに反応はありませんでした」
「それじゃあ、そもそもインプラントがなかったらどうなるんだ?」
「その可能性は考えていませんでしたね」
「おい!」
今ここで喧嘩をしていても仕方がない、急いで倉庫の奥へと向かった俺達の目に飛び込んできたのは信じられないという顔をするローラさんと、ナイフを手にした男だった。
幸いまだ刺されたりしているわけではないけれど・・・って、なんで二人とも固まってるんだ?
「何やってんだ!」
「え?あ!待って!」
思わず声をかけると、二人ともハッとこちらを向き慌てた様子で男が倉庫の奥へと走り出した。
てっきり人質にすると思ったのになんでまた逃げるんだ?
いや、そんなこと今はどうでもいい、とりあえずローラさんの所に行って無事を確認しないと。
「アリス、逃がすな!」
「了解です!」
追跡をアリスに任せて急ぎローラさんの所へ、幸いにもケガをしたり乱暴されたような形跡はなさそうだが、おびえているというか信じられないという顔をしたまま固まっている。
「どうした、何かされたのか?」
「違うんです、違うんですけど・・・でも、なんでここに?だってあの人は死んだって・・・」
「死んだ?」
「さっきの人、私の夫だったんです」
は?
なんだって?
想像もしていなかった言葉に俺もローラさんのように固まってしまうのだった。




