88.宇宙にいくつも華を咲かせて
「右に二機、接触まで後15秒!」
「左レーザー充電完了、いつでも行けます」
「了解!右レーザー冷却システム稼働中、サンドショットで仕留めますので出来るだけ近づいてください」
「オッケー、お互いの顔が見えるところまで近づいてあげる!」
いたるところでオレンジ色の華が咲き、メインモニターを鮮やかに染め上げる。
その奥に見えるは二機の宙賊機、通常一機が二機を追い詰める事なんてありえないのに今の彼らには自分達の方が優位だという意識は持てないらしい。
ドン!という音と共に再びシュヴェルトヴァールが再加速、宣言通り10秒ほどで奴らの真上を取り15秒で左右に分かれた片割れのパイロットシートが見えるほどの距離に近づいた。
「今!」
ローラさんの合図と同時にサンドショットと呼ばれる散弾を発射、見事コックピットを吹き飛ばしその場で即時反転、逃げていくもう一基に照準を定めレーザーを撃ち込み宇宙にまた一つの華を咲かせる。
僅か15秒で二機を吹き飛ばすイブさんの腕前もそうだけど、秒数ピッタリに相手の真上を取るローラさんもかなりやばい。
サンドショットは通常のレーザー兵器と違って広範囲に大量のダメージを与えられるがかなり接近しないと使えないという欠点がある。
それゆえに中々使われることは無いけれども、それを可能にするパイロットの腕前と射撃技術があれば最強の兵器になる事が今日よくわかった。
「これで7機目、現在の総撃墜数9位に上昇しました」
「これでもまだ9位なのね」
「獲物はまだまだいますから次に行きましょう!」
「オッケー!アリスちゃん次よろしく!」
「畏まりました、座標表示します」
まるでゲームの点数を競うように宙賊を撃ち落としはしゃぐ女性陣。
アリスが新しい獲物をモニターに表示するとすぐにローラさんが船の向きを変え、一気に加速。
その間にイブさんはレーザーの冷却とサンドショットの補充を準備、一秒も無駄にしない動きにおもわずみとれてしまった。
俺の視線に気づいたのか、イブさんがクルリと座席を回転させてこちらを見て来る。
「ん?どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
「マスターは皆さんの働きを褒めているんですよ」
「ふふ、もっともっと上を目指すから期待しててよね」
「必ず一位になりますから!」
あー、うん、そうだな。
褒めているというか呆然としているというか、ともかく三人がすごいことがよくわかる。
アリスは二人を褒めているというけれど、陰の功労者は間違いなく彼女だ。
ローラさんの操縦技術がすごいのはもちろんわかっているけれども、慌てた宙賊が下手な舵を取ってぶつからないようにハッキングを仕掛けて操縦を奪っていたのを俺は見逃さなかった。
更には即座に宙賊を見つけて指示を出しているし、メインモニターの情報が整理されているのもアリスが奴らの居場所をリアルタイムで把握しているからだし、無線を傍受することでどこに逃げるのかを把握して先回りしているのは間違いない。
アリス無くしてこの戦果は得られなかっただろう。
「はぁ」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
彼女達が活躍すればするほど自分が何もしていない事に負い目を感じてしまう。
気にするなとは言われているけれど、ここに座っていていいものかと悩んでしまうのもまた事実。
まぁ、本業は輸送業であって傭兵業じゃないんだから俺がここで何もできないのは当たり前なんだけどもう少し出来ることを増やしたいとも思ってしまうわけで。
じゃあ何をするんだと聞かれると悩んでしまうけど・・・ま、考えるのは今度でいいか。
「宇宙軍広域通信を受信、通信開きます」
「ローラさんはそのまま次のポイントまで移動を続けてくれ」
「了解」
メインモニターが切り替わりナディア中佐が映し出される。
「まずは諸君らの善戦に感謝を。現在我が軍は宙域の八割を占拠し宙賊の七割を撃墜、被害は少なく非常に健闘しているといっていいでしょう。しかしながら奴らの抵抗は激しくここから先は死に物狂いで反撃してくるはず、各自油断せず確実に息の根を止めるように。この地に奴らの居場所はどこにもありません、帰る場所がないのであればここでとどめを刺すのが温情というもの。これより1時間後、コロニーより傭兵の援軍が到着次第我々は宙賊基地へと突入します。突入班は所定の時間に遅れないように、引き続き諸君ら働きにきたします。通信終わり」
いつも通り表情一つ変えることなく淡々と指示を出すナディア中佐。
アリスをよこせと言ったあの後も特に対応は変わらず、あの件はもう終わったものとして考えているようだ。
サバサバしているというかなんというか、冷静に物事を判断できるのはいい事なんだろうけどあの人こそヒューマノイドのように見えてしまう。
うちのアリスとは大違いだ。
「何か?」
「別に?さっきの話じゃ一時間後には基地に突入するんだろ、俺達も移動しなくていいのか?」
「ここから基地まではおよそ15分もあれば到着します、移動しながら獲物を探しても問題はないでしょう」
「そうそう、もっと数を減らしておかないと一位を取れないしね」
「突入準備は終わっていますのでギリギリまで大丈夫です、もう少し頑張ります」
突入する本人が頑張るというのならばこれ以上俺が言うことはない。
進路を基地方面へと変更しつつ目の前に立ちふさがる宙賊を確実に撃ち落としていく。
ナディア中佐の言うように近付けば近づくほど反撃も強くなり、何度か危ない場面はあったもののシールドを上手く使いながら数を減らしていった。
そして予定の一時間ちょっと前。
「ここが奴らの基地か・・・」
「思ったよりも大きいですね」
到着した指定ポイントには宇宙軍基地と同じぐらい大きな小惑星が浮かんでいた。
巨大客船とかそういうのを隠れ蓑にしているのかと思ったらまさかの規模、っていうかこんなのすぐに見つかりそうだがなんで今までわからなかったんだ?
「っていうかこんなのをなんで今まで見逃すんだよ」
「基地にしているこの小惑星そのものが通信を遮断する磁力を発しているようです、そのせいでレーダーにも把握されず更には移動することで居場所を特定しづらくしていたのでしょう」
「移動?」
「巨大エンジンと噴射口が確認できました、この小惑星は移動します」
「マジか」
ジャミング的な物はまだしも移動する?
モニターに映し出された小惑星、その噴射口と思われる部分をアリスが拡大する。
確かにそれっぽいものは見えるが・・・こんなのを動かそうと思ったらかなりの燃料を使うだろう。
それをペイできるぐらいの取引が行われているという事なんだろうけど、よくまぁ動かそうと思ったな。
「最初の一斉掃射によってサブエンジンが破損したようですね、それでも岩石が硬かったからか思ったほどのダメージを与えられなかったようで内部にはそこそこの宙賊が潜んでいるようです」
「その情報は宇宙軍にも言ってるんだよな?」
「はい、相応の価格で売りつけてあります」
「・・・後で怒られないよな?」
「情報料をいただくのは当然の事、ナディア中佐も承認済みです」
「あー・・・ならいいか」
トップが承認しているのであればトラブルにはならないだろう。
予定よりも宙賊の数が多いという部分は気になるが、掃討作戦もいよいよ大詰め。
後はイブさんを基地に連れていくまでが俺達の仕事だ。
はてさてどうなる事やら。




