87.最前線に切り込んで
「これより宙賊基地強襲作戦を実行します、本作戦をもって本宙域の宙賊は根絶やしにされることでしょう。長年我々を悩ませてきた問題は一人の傭兵によって解決の道筋が見せましたが、それを切り開くのは我々でありその中心にいるのもまた我々でなければなりません。宇宙軍の実力を見せつけ、宇宙のゴミを排除しなさい。諸君らの働きに期待しています。」
ナディア中佐の訓示に返事をするかのように、軍人たちの靴音がハンガー中に響き渡る。
うーむ、流石というかなんというか。
これが傭兵だとここまで揃った動きはできないだろうなぁ。
そもそも背負っている物が違うからかテンションも全く違う、こっちは軍の威光と実力を見せつける為、傭兵は金と名誉の為。
名誉というのはちょっと語弊があるな、人気というべきか。
ともかくそこんな感じでこの宙域とコロニーを悩ませていた宙賊を掃除するべく強襲作戦が開始。
まずは宇宙軍による一斉射撃によって基地周辺を薙ぎ払い、それから無数のバトルシップによって逃げ出す宙賊を撃ち落としていく。
外を飛び回る虫がいなくなれば後は巣を潰すだけ、害虫駆除と同じやり方で奴らを潰していくわけだ。
「傭兵の援軍が来るのは?」
「一斉射撃が行われた後ですね、情報漏洩を避ける為に告知されるのは攻撃後になりますから到着予定時刻は四時間後です」
「つまりそれまで落としたい放題ってわけか」
「ふふ、そうなればいいですね」
「・・・そういう意味深なこと言うのやめてくれ」
「それは失礼しました。出陣は30分後、それまでに準備を済ませて下さいね」
軍の作戦会議では最初の一斉射撃で六割方を撃ち落とし、残りをハンガーに並んだあのバトルシップで撃ち落としていく。
イブさんの話では皆それなりの実力らしいから安心して背中を任せられるはずだ。
突然襲撃を受けた宙賊は連携をとることもできず霧散するはず、そうなれば後は撃ち落とすだけ。
西宙域に切り込めなかったのも奴らが群れていたからであってそれがなくなれば俺たちだけでもどうにかなる。
諸々の準備を済ませキャプテンシートへ。
大型巡洋艦をはじめ待機組以外の戦艦はすでに出航済み、後は俺たちだけだ。
「全システムオールグリーン、エンジン出力安定、いつでもいけます」
「パイロットシステムオンライン、問題ないわ」
「コンバットシステムオールグリーン、大丈夫です!」
「それじゃあこいつの初陣と行こうじゃないか」
この間の熟練飛行では残念ながら宙賊に遭遇することはできなかった。
それでも一連の動きや模擬射撃は問題なく行えていたのでその実力は確認済み、ぶっちゃけあそこまでの実力は求めていなかったのだが、多少オーバースペックの方がもしもの時に備えられるので問題はないだろう。
ゆっくりとハンガーを出て安全飛行区域を通過。
メインモニターに合図が出た次の瞬間、一気に船が加速を始めた。
「おいおい、そんなに飛ばさなくても大丈夫だぞ」
「せっかくこれだけ早く飛べるのに活かさないなんて勿体無いでしょ?」
「その通りです、エンジンはまだまだ温まっていませんからしっかり動いてその時に備えないと」
「一斉射撃前に射線に出るとか勘弁してくれよ」
ソルアレスのままだったらこの加速の時点でキャプテンシートに押し付けられていただろうけど、耐G機能が強化されたおかげで少々の圧を感じるだけで問題なく座っていられる。
また、姿勢制御機能も上がっているので少々左右に振られても体がかき回されることもない。
それに味を占めたローラさんが曲芸飛行のような動きをした時は流石に止めたが、必要に迫られたら間違いなくやるだろうなぁ。
コロニー付近まで移動すると宇宙軍の戦艦が横一列に並んでその時を待っていた。
うーん、圧巻というかなんというか。
物々しい雰囲気の筈なのになんでこんなかっこよく見えてしまうんだろうか。
「作戦開始まであと1分」
「間に合いましたね」
「ここからが本番だからな、気を引き締めていこう」
「開始まで後10秒、・・・5・4・3・2・1、作戦開始します」
アリスのアナウンスが終わると同時に横一列にならんだ戦艦から巨大なレーザーが発射、いくつもの光の筋が遥か前方の宙賊基地へと収束し鮮やかな火の花を咲かせた。
「レーザー発射終了、バトルシップ突撃せよ!」
ナディア中佐の命令に無数のバトルシップが一斉に発進、宇宙に鮮やかな光の線を作りながらオレンジに光る宙賊基地へと突っ込んでいく。
少し遅れて戦艦もゆっくり前進を始めた。
攻撃はバトルシップの仕事でも補給や避難は戦艦で行われる。
母艦無くして補給無し、いくら奴らの不意をついたとはいえそれで全てを打ち落とせたわけではない。
乱戦になれば被弾する船も出てくるだろうし、そういった場合に避難できる場所があるのは彼らとしても安心だろう。
だが、俺たち傭兵は帰る場所がないので更に気をつけて戦わなければならない。
「さぁ俺達も仕事を始めますか」
「宇宙軍の皆さんには申し訳ありませんが、みすみす獲物を逃す手はありません。ローラさん、お願いします」
「任しといて、どんな相手でも逃がさないんだから!」
操縦桿を握りテンションマックスのローラさん、普段がおとなしいだけにここまで豹変すると色々と不安になるが腕は申し分ないので今は任せるしかない。
「ではマスター発進の合図を」
「え、いるのか?」
「要りますよ!」
「かっこいいのでお願いね」
「んー、シュヴェルト発進!」
「はい、やり直しです」
思いつく限りのかっこいいセリフだったのに、まさかの一秒駄目出し。
「なんでだよ、別に悪くないじゃないか」
「なんで省略したんですか?」
「え、そこ?」
「船名はちゃんと言わなきゃだめよ、船の命なんだから」
「・・・ういっす」
「それじゃあらためて、トウマさんどうぞ!」
いや、どうぞって言われても。
少しでも遅れれば獲物を宇宙軍に取られてしまうのに、まさかの羞恥プレイを強要されている。
35を過ぎたオッサンに彼女達は一体何をやらせたいんだろうか。
はぁ、やるしかないか。
「シュヴェルトヴァール、発進!」
「了解!」
ドン!という衝撃の後、メインモニター御映像がものすごい速度で後ろへと流れていく。
フルスロットル、その言葉がふさわしい急激な加速。
前のようにキャプテンシートに押し付けられなくなったのは非常にありがたい話なのだが、今の状況ではそうなってくれた方が嬉しかった気がする。
「カッコよかったですよ、マスター」
「はぁ、俺を辱めて何になるんだよ」
「別に辱めてなんていませんよ?」
「その通り、やっぱり出発はこうでないと」
恥ずかしがる俺とは対照的に女性陣はいたって真面目な顔で返事をする。
確かに大事なシーンではあるけれど・・・いや、これで彼女達がやる気になってくれるならば何も言うまい。
「戦闘予定宙域迄あと五分」
「戦況は?」
「先陣を切って突撃したバトルシップに宙賊達が右往左往しています。通信を傍受しても混乱はすさまじく、まともな情報は入ってきませんね。念の為強制通信も遮断しておきます」
「つまり叩くなら今ってことか」
「そういう事です。一部通信では落ち着くように促している物もありますので、広まる前に叩くべきでしょう」
「ってことだからイブさん、ローラさん後は任せた」
「任せてといて!」
「精いっぱい頑張ります!」
さぁ、少し遅れたがここからが本当の戦いだ。
宇宙に咲く宙賊の華をいくつ増やせるか、彼女達の腕の見せ所だな。




