82.宇宙軍基地に到着して
第八部隊の船を追いかけながら飛行する事二時間程、宙域北部へと移動した俺達を待っていたのは小惑星を改造して造られた宇宙軍の基地だった。
一見すると小惑星だが、巨大クレーターの中心にハンガーへと続く穴が開いていてそこを使って出入りしているらしい。
わざわざ小惑星を利用するのは外からの攻撃にも対応する為、この場所に関しては宙賊も他の人も知ってはいるけれどもわざわざ近づくやつはないだろう。
「はぁ、久々の床がまさか軍の基地とはなぁ」
宇宙軍の基地に誘導され、そのままハンガーの端に着艦。
周りはどれもバトルシップや戦艦等の物々しいやつばかり、そこにポツンとショップシップがあると目立つことこの上ない。
「コロニーに戻れない以上ここでしか味わえませんから、しっかり堪能してください」
「そうさせてもらうさ。あれ?イブさんは?」
「ローラ様と一緒に向こうでバトルシップを見ています」
「ミーハーというかなんというか、なんだかんだ言いながらテンション上がってたもんな二人とも」
「お前達、はしゃぎたくなるのはわかるがあくまでも拘束された身という事は忘れないでくれ。後で文句を言われるのは俺なんだからな」
まるで観光客のような俺達にマクシミリアンさんが渋い顔をしている。
とはいえこんな一生に一度は入れるか入れないかの場所に連れてきてもらって、大人しくしていられるはずがない。
アリス的には色々と調べたいことがあるようだけど下手に通信してセキュリティに引っ掛かっても困るので、とりあえず静かにしてもらう事にした。
「これからどうなると思う?」
「重要な情報は渡しましたので、後は自らの威信をかけて宙賊討伐に赴く事でしょう。群れているとは言え所詮は宙賊、しかしながらこの規模の基地では出せる戦力も限られていますから、援軍を頼むかもしくはコロニーを通じて傭兵に声をかけるのではないでしょうか。もちろん高額な報酬を提示して、という事になります」
「もちろん俺達も参加できるよな?」
「実力でいえば間違いなくお呼びがかかる事でしょう。しかしながら大事な情報源でもありますので、そこを軍がどう判断するのかという懸念はあります。もし拒否された場合は出撃した場合の報酬も含めて交渉する必要はありそうですね」
「軍からすれば戦力はあればあるほどいいわけだろ?情報が漏れた所で強襲されているわけだし、そもそも捕まらなかったらいい話だ」
「それを決めるのはあくまでも軍です。マスターが警戒されているようにここは独特の価値観で動いている場所ですから、ひとまずはマスターは大人しくしていることをお勧めします」
「流石有能ヒューマノイド、よくわかってるじゃないか」
突然聞こえて来た声に慌てて後ろを振り返ると、いつのまにか戻ってきていたマクシミリアンさんが立っていた。
一体いつからそこにいたんだろうか全く気付かなかったんだが。
「お褒めに預かり光栄です」
「ここをコロニーと同じように考えないことだ。俺達はこの宙域の治安維持を目的として日々活動している。正直な話、その為に民間人の犠牲が必要なら容赦なく切り捨てるし、使い道があるのなら使えなくなるまで使い続ける。とはいえ露骨にそれをやれば世間から白い目を向けられるのは間違いないからな、気づかれないようにするのが俺達の仕事だ」
「なんで自分達を落とすような言い方をするんだ?」
「それぐらい警戒しろっていう事さ。ちなみにさっきの報酬の件だが上から待てがかかった」
マクシミリアンさんの言葉に露骨に不満げな顔をするアリス、それが面白かったのか彼はハハハと小さく笑った。
アリス的には格安だと思っていたようだが、それを拒否されたということなのだろう。
まさか、というよりも何故?という方が正直強い。
これが独特の価値観というやつなのか?
「あの額が高いと?」
「いや、値段の問題じゃない。俺達が見つけられなかったような情報を一体だれがどんな風に見つけたのか、それを直接話を聞きたいんだとさ」
「聞いてどうするんです?軍が真似をするんですか?」
「いや、ただ文句を言いたいだけだろうな。あくまでも自分達の方が優れている、お前たちが見つけたのは偶然だから図に乗るな、お前たちは大人しく情報を渡せばいいんだよ。そんな事を言いたいんじゃないか?」
「なるほど、その程度でしたら無視するだけでよさそうですね」
「ヒュ~、言うねぇ」
俺には大人しくしとけと言うくせに自分はかなり好き放題言うじゃないか。
マスターはと強調したのは自分は好き勝手にやるぞという現れだったのかもしれない。
下手に喧嘩を売って船を接収されても困るし、ここは向こうに好き放題言わせてスルーするのが一番なんだろうけど、アリス的にはこのまま舐められたままというのも具合が悪いんだろう。
勿論俺もそれに賛成だ。
「軍がどう見てこようと構わないが、こっちは金さえ払ってくれればそれでいい。勿論文句を言った分の価格は上乗せしてくれるんだよな?」
「それは自分たちで交渉してくれ」
「だってさ、アリス」
「かしこまりました、軍が隠している諸々の情報を使いながら徹底的に搾り取ります。私を怒らせるとどうなるか思い知らせてやりましょう」
「おいおいやりすぎると目をつけられるぞ」
「傭兵には傭兵の矜持というものがございます」
最初は軍相手だからとビビってしまっていたが、ここまで露骨に見下してくる相手にヘコヘコする程大人しくもない。
宇宙に出る前は軍に楯突くなんて考えたこともなかったけれど、アリスと一緒に旅をするようになって今まで以上にもっと自由にやっていいんだっていう思いが強くなった。
勿論自由にやりすぎたら痛い目を見ることぐらいわかっている、それでも大人しくしているだけじゃ宇宙では生きていけない。
この数ヶ月でそれがよくわかった。
だからこそ、仲間が命をかけて集めた情報に対してそんな扱いをされて怒らないわけにはいかないんだよなぁ。
何もできない船長だとしてもさ。
それにアリスのことだ、出席者が黙るぐらいのとっておきにネタを持っているんだろう。
後はそれをネタに誰に喧嘩を売ったかわからせてやればいい、どうせことが終わればさっさとこの宙域からいなくなるんだから、目をつけられたところで困ることもない・・・はずだ。
「頭の硬いあいつらがギャフンと言わされるのを見たい気もするが、まぁほどほどにな」
「お気遣いありがとうございます」
「おーい二人とも行くぞー!」
「はーい!」
笑顔で手を振りこちらへかけてくる美女二人。
こっちでこんな話をしているなんて知る由もなくなんとも楽しそうだ。
「全く、少しは緊張ぐらいしろよな」
「生憎と失う物も殆どないし、これからは自由に生きるって決めたんだよ。それにこっちにはアリスがいるからな」
「マスターのために全力を尽くす所存です」
「っと、いうわけだ。勿論喧嘩しに行くわけじゃなくてあくまでもそっちの出方次第だから安心してくれ」
「俺はどうなっても知らないからな」
マクシミリアンさんの気持ちはありがたいが、全ては向こうの出方次第だ。
さぁ軍の偉いさんが俺たちみたいな下っ端傭兵にどんな態度で挑んでくるのか。
楽しみだなぁ。




