80.宇宙軍とコンタクトを取って
コロニーでの補給手段を断たれた俺達だったが、その後も宙賊から直接補充するという荒業を使いながら確実に撃墜数を積み上げていった。
イブさんが奴らの船に乗り込むたびに燃料や弾薬の他に、ピュアウォーターや食糧の他に嗜好品なんかもなんかも回収してくれるのでそっちの方でもかなり充実してきている。
更には隠し持っていたであろうレアメタルやキャッシュなどを持ち帰ってくるのでカーゴ内がどんどんと狭くなっているのだが、それに関しては何とも言えない気分になっているのは内緒だ。
宙賊から物資を奪う事は今までもやってきたこと、だが乗り込んで生きた宙賊から巻き上げているとどちらが宙賊かわからなくなってしまう。
生きているか死んでいるかの違いなんだが・・・いや、そんな甘いこと言ってられないよな。
そもそもあいつらは宙賊、殺しても問題ない宇宙のゴミ。
望んでその身を落としたんだから容赦する必要はないし、そもそも奴らが人身売買なんて言うめんどくさい事するからローラさんもアリスも被害にあったんだ。
宙賊死すべし、やつらへの慈悲はない。
「今日で何日目だ?」
「コロニー封鎖から五日が経過、依然として離発着は禁止されています」
「ぶっちゃけコロニー内はそれで大丈夫なのか?物資の量にも限りがあるだろうし、稼げなくなった傭兵から不満も出てるだろ」
「もちろん不満はあるようですが、物資はまだまだあるようですしコロニー側から休業補償が出るので特に問題にはなっていないようです。履歴を見る限り毎日ギルドで飲んだくれているようですね」
「休んでいるだけで金がもらえるんなら、そりゃ飲んだくれもするか」
俺もあそこに居たら寝ているだけで金が入ってきたかもしれないが、ぶっちゃけ討伐報酬の方がおいしいので引き続きこっちで頑張らせてもらおう。
とはいえ友軍はほとんどコロニーに戻ってしまい、孤軍奮闘の状態。
宙賊も罠にかかりにくくなっているのでそろそろ限界が来ているのは間違いない。
「宙賊の数はそこそこ減った、そろそろ潮時じゃないか?」
「確かに昨日の宙賊も中々の手練れでしたし、危ない部分もありました。いくらローラさんの腕が優秀でも限界はあるとおもいます」
「でも私のように攫われた人たちはまだあの宙域の何処かに居るんですよね?」
「だが味方は無し、いくら腕の立つメンバーがそろっていても流石に俺達だけじゃどうにもならない案件だ。別にホロムービーの主人公じゃない、わざわざ俺達が解決するようなもんでもないだろう。ローラさんには悪いがやはりコロニーを捨ててもらうしかなさそうだな」
最初は合法的にコロニーを出発するために宙賊の数を減らすのが目的だった、だがそこに討伐報酬が加わり更に奴らのオフラインストレージの情報を入手したことで状況は一変。
人身売買の他、非合法な集まりをめがけて集まってきている宙賊を掃除するには俺達だけではどうにもならないと軍に気づいてもらうために撃墜数を増やしている物の、今だお呼びがかかっていない状況だ。
いい加減戦うのにも限界が来ている、本当は綺麗に片づけてローラさんが追われる理由をなくしてあげたかったけれども、流石にことが大きすぎる。
麻薬騒動の時もそうだったが、民間人がそもそも手を出すような案件じゃない。
「マスター、そう判断するにはまだ早いかと」
「どういうことだ?」
「ここ数日、わざわざ船を破壊せずアナログな方法で宙賊の船を襲ったのは何も物資回収が目的ではありません。オフラインストレージの回収の他、イブさんには彼らから直接集会の情報を集めていただき、ついに座標を特定することに成功いたしました。ある程度の実力者にわざわざ紙に書いて手渡しする周到さ、末端の宙賊では得られなかったわけです」
「・・・そういう事はすぐに共有してほしいんだが?」
「それに関しては申し訳ありませんでした、一緒に入手したオフラインストレージの中身がなんて言いますか過激な物でしたので。ですが、この情報が手に入ったことによって奴らの大元を叩くことが可能です、それが終わればコロニー内に潜んでいた連中も悪事がバレる前に逃げ出すでしょうからローラ様が戻ることも可能になります」
つまり昨日の戦闘でそれなりの戦果を得られたからそれを基に攻撃を開始すると。
・・・だれが?
「まさか俺達が行くとか言わないよな?」
「もちろんです、しかるべき相手に連絡を入れておりますのでもうすぐ到着するかと」
「ん?もうすぐ?」
こっちから行くんじゃなくて向こうから来る?
疑問符が頭にいくつも浮かんだその時だ、船体をスキャンされている警告音がコックピット内に響き割った。
慌ててモニターを見るも周りに宙賊の反応はない。
一体だれがどこから見ているんだ?
「こちら宇宙軍第八部隊、ソルアレス応答せよ」
「ん!?第八部隊って確か前の・・・」
「こちらソルアレス、キャプテントウマ付きヒューマノイドのアリスです」
「お前がこの情報の発信者か」
「その通りです」
「完全オフライン航行中の俺達を見つけ出し、しかも強引にデータを送り付けるとはいい度胸だ。本来であれば即撃墜ものだが・・・今回は情報に免じて許してやる。直接話がしたい、速やかに乗船を許可しろ」
「乗船を許可しますので揚船チューブを伸ばしてください」
どうやら今回の件もまたアリスが勝手にやったらしい。
しかも危なく撃墜されるところだったとか言ってるんだが、マジで勘弁してもらえないだろうか。
ヒューマノイドが主人に無断で情報をやりとりし、それによって殺されていたかもしれないんだぞ?
まぁ言った所で本人には響かないだろうし結果としてプラスに働いているだけに強くも言えないわけで。
残ったのは俺の胃が痛くなることぐらい、それもメディカルポットに入れば治りますよ?とかいわれるんだろうなぁ。
死角から現れたのはこの前見つけた真っ黒い機体、お互いを行き来する揚船チューブが伸ばされハッチと接続、向こうから複数人の兵士がコックピットへ乗り込んできた。
自動小銃を手にした完全防備の兵士達、そのうちの一人が装着していたバイザーを上げて俺達を確認していく。
そんな緊迫の状態にも関わらずアリスが深々とお辞儀をして一歩前へと歩み出た。
「皆様、ようこそソルアレスへ」
「お前がキャプテントウマだな?」
「あぁ」
「話をする前に一つだけ忠告しておく、こいつに好き勝手やらせてるといつか痛い目見るぞ。どれだけ優秀か知らないが軍のセキュリティをかいくぐっただけでなくオフライン状態の俺達に無理やり接続する技術は脅威以外の何物でもない。俺達が独立部隊だったからよかったものの・・・いや、それを理解したうえで連絡してきたのか」
「此度の件はすべて私の独断で行ったものですので、処罰されるのであればどうぞ私だけにお願いします」
「とりあえず忠告は以上だ。本来であれば俺達が民間人と接触することはあり得ないんだが、情報が情報なだけに直接話を聞きに来た。分かっていると思うがオフライン状態だろうな」
「もちろんです」
いや、俺には分からないからわかるように説明してもらえないだろうか。
突然やってきたのは先日北部で遭遇した宇宙軍の独立部隊。
確かにしかるべき相手に連絡を入れているとは言っていたけど、まさかこんな相手を呼び出しているとは。
緊迫した状況にもかかわらずアリスだけが笑顔を絶やさず思いがけない客人を出迎えるのだった。




