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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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78.思わぬ実力を目の当たりにして

 星々がものすごい速度で正面から後ろに流れていく。


 なんだこの豹変ぶりは、アリスの話ではものすごく大人しく真面目なオペレーターってことだったけど全くの別人じゃないか。


「正面から一機、衝突コースです」


「私とチキンレースをしようなんていい度胸じゃない」


「ローラさん、程々で頼むぞ」


「私に任せておいて!」


「いや、そうじゃなくてだな・・・」


 俺は安心安全にコツコツと実績を積み上げていきたいのであって、こんなラフに宙賊退治をしたいわけじゃない。


 北部からここまでの操縦で彼女に素晴らしい操縦スキルがあり、初めてのソルアレスですら簡単に支配してしまうセンスの持ち主だという事もわかった。


 分かったからもう少しじっくり行こうじゃないか。


「接敵まで後10秒」


「良い度胸ね、そういうの嫌いじゃないわよ」


「8・7衝突まであと5秒」


「左に旋回するからそのままどてっぱらにあっついのをプレゼントしてあげて!」


「お任せください!」


 お互いに譲らずこのままでは衝突コース。


 チキンレースはどちらが先にビビるのかを競うものだが、わざわざ相手に付き合う理由もなく衝突すれすれで船を左に泳がせ真横を通り過ぎ、無防備な相手の船体にイブさんが至近距離で弾を撃ち込んだ。


 さすが元オペレーターなだけあって指示も的確、操舵技術だけでなくその他機能も一度アリスに説明を受けただけですべて使いこなしている。


 初めてにもかかわらずイブさんとの連携も完璧、まさかこんなすごい腕を隠し持っているとは。


「ローラ様いい操縦でした」


「ありがと、アリスちゃん」


「次はここから南東の三機です、イブさんいけますか?」


「アリスさんに一機任せました、後は大丈夫です」


「お安い御用です」


 女性陣は何かしら特技がありそれを生き生きと発揮させているけれど、肝心の俺はというと特に何かができるというわけではない。


 それがなんていうか申し訳なくなってしまうが、ここで口に出すと色々とフォローされてしまうので黙っておこう。


 そもそも自分が何もできないなんてのは前からわかっていたことだ、今さら卑屈になった所で何かが変わるわけじゃない。


「まだ少し時間があるな、ちょっと任せるぞ」


「どちらへ?」


「便所」


 またあの操縦に振り回されることを考えると出すもの出しておいた方が安心だからな、自分が操縦する分には酔わないんだから不思議なもんだ。


 キャプテンシートを離れ通路へ、用を足し終えて通路に戻るとそこにはアリスの姿があった。


「なんだよ」


「いえ、自分は何もできないと落ち込んでいるのではないかと思って」


「生憎とそういう繊細な気持ちは随分と昔に置いてきたんでね」


「それは勿体ないことをしましたね」


「それよりも彼女は何者なんだ?ただのオペレーターっていうには限界があるぞ?」


 これ以上つつかれる前に無理やり話題を変えつつ聞きたかったことを聞いてこう。


 元オペレーターで済むような経歴じゃないのはわかっている、実際の所どういう人なんだ?


「ご本人からも色々と聞かせていただきこちらでも調べてみましたが、やはりごく真面目な入管オペレーターだったようです」


「嘘だろ?」


「嘘ではありません。ですが、そうなる前に色々とあったようですね、ホロムービー的に言うとやんちゃ?というのでしょうか、元オペレーターにして有名な宙域暴走族レガースの元リーダー、操縦桿を握ると少々性格が変わってしまわれるようです。正直なところまさかここまでとは思っていませんでした」


「・・・嘘だろ?」


「ですから嘘ではありません。いいではありませんか、抜群の操縦センスに卓越したオペレーター技術、更にはイブ様との連携も問題なくソルアレスを手足の様に操ることができるんです。私よりもうまく操縦されるのは悔しいですが本職にかなわないのは致し方ありません、その分私は私で別の部分で頑張らせていただきます。腕のいい操縦士パイロットに百発百中の銃士シューターそして何でもできる万能AIヒューマノイドがいるんです、それ以上何を望みますか?」


 何を望みますかと聞かれても答えに困る。


 これ以上ない人材だと思うが、残念ながら臨時クルーだし何だったら宙賊のお尋ね者でもある。


 もちろん例の情報を軍に流すことで宙賊を一網打尽に出来れば元の世界に戻れるだろし、そうなれば彼女が戻ってくることはない。


「寄せ集めにしては最高だな」


「そしてそんな最高のメンバーを束ねるのが我らがマスター、貴方です」


「束ねてるのかねぇ」


「少なくとも私達はそのつもりです。ローラ様も助けてもらった恩をお返ししたくてこうやって手伝ってくださってるわけですから」


「曰くつきのメンバーばかりだけどな」


 記憶喪失にお尋ね者、更には骨董品とそれを束ねるバツイチ職無し・・・いや、今は職有りか?


 ともかくそんな曲者ばかりだけど、実力はご覧の通りだ。


 今やエースと呼ばれ撃墜数ナンバーワンを誇りしかもそのスコアは依然更新中、これ以上ない実力者が太陽の翼(ソルアレス)には揃っている。


「接敵まで後三分です」


「そろそろ戻りましょうか、皆さん待ってますよ」


「へいへい、了解」


「マスター」


「ん?」


 先を行くアリスが不意に立ち止まり真剣な面持ちで俺をじっと見つめて来る。


 相変わらず何も言わなければ可愛い顔してるんだけどなぁ、どうせこの後に出てくる言葉は・・・。


「私はマスターに起こしていただけて幸せです」


「な、なんだよ急に」


「ただそう言いたくなっただけです、急ぎましょう」


 何事もなかったかのように正面を向きなおしコックピットへと戻るアリス。


 一体何だったんだ?


 この後宙賊とやり合うってのに何もなければいいんだが。


「お待たせ」


「おかえりなさい、大丈夫?」


「ん?あぁ、問題ない」


「どうやら緊張してお腹を下していたようです」


「そういうこと言わなくていいから」


 だからそういう所だぞと思いながらも、彼女なりのフォローに感謝しつつ再びキャプテンシートに深く座る。


 メインモニターの宙域地図には高速で移動する青い点、そしてその先には赤い点が三つ。


「目標補足、どれから行く?」


「待ってください・・・、ハッキング完了右の赤いのを貰います」


「じゃあ残りを引き付ければいいわけね、簡単じゃない」


「ん?あいつらもこっちに気づいたみたいだぞ・・・って逃げるのかよ!」


「ちょっと勝手に逃げるんじゃないわよ!」


 相手も俺達が誰かわかってきたんだろう、自分達も同じ目に合うまいと蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。


 ドン!という衝撃と共にソルアレスも急加速、どうやらそのうちの一機に狙いを定めたようだ。


「私に背中を見せるなんていい度胸じゃない!」


「装填完了!ローザさん、タイミングは任せました」


「オッケー、任せて!」


 右へ左へ縦横無尽に宇宙をかけまわるソルアレス、本当の意味で翼を得た機体は俺をキャプテンシートに押し付けながらいつにも増して自由に飛び続ける。


 ハッキングされた一機は行動を停止、逃げ続けるやつをイブさんが牽制しつつ、残る一機をローラさんが追い込んでいく。


「マスター!」


「いいぞ、ぶちかませ!」


「オッケー、任せて!」


 信じられない軌道を描きながら相手の下に潜り込んだソルアレス、狙いを定める必要もなく銃座が火を噴きそのまま相手を抜き去った。


「よし次!」


「モノがついてるなら逃げるんじゃないわよ、この○○(ピー)野郎!」


 出会った頃のローラさんが決していう事の無いお子様には聞かせられない発言、もしかしたらこっちが素なのかもしれないけど、人は見かけによらないもんだなぁ。


 残る一機をめがけてさらなる加速を始めるソルアレス、キャプテンシートに押し付けられながらそんなことを考えてしまうのだった。

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