74.宙賊に追いかけられて
「アリス!」
「おかしいですね、こんなはずでは」
「そういうの良いから操舵の集中しろ!」
オペレーターシートで腕を組み首を傾げるアリスに向かって必死に声をかけるも本人に動きはない。
そうこうしているうちにも宙賊の船が真正面から突っ込んできてあわや衝突!というギリギリのところで船が傾き、それを回避した。
「後方、二隻!」
「イブ様、赤い方は任せました」
「了解です!」
正面の宙賊船を回避したと思ったら今度は後ろから赤と青の二隻がものすごい速度で近づいてくる。
ソルアレスは絶賛三機の宙賊船に追い回されている状況、ローラさんがここに居なくて本当に良かった。
「何が宙賊の少ない場所だよ、宙賊だらけじゃないか」
「だらけと言うのには語弊があります、一隻を追いかけている所に別の二隻が出てきただけの事。それに・・・」
「それに?」
「これで残りは一隻だけです」
アリスのセリフと同時に赤いラインが特徴的な船が爆散、青い方はそれを回避するかと思いきや何故かその爆発に突っ込んでいき破片でボロボロになってしまった。
速度の出ているほうを先に撃墜させ、ハッキングしておいた後続をそれに突っ込ませるとかやっていることがなかなかにひどい。
倒しきれなかったものの大ダメージを受け飛行を中止した青い方だが、イブさんの狙撃を避けられるはずもなく少し遅れて撃ち落とされた。
「まったく、心臓に悪すぎる」
「こんなことで驚いていると先が続きませんよ、なんせ敵がこれだけいますから」
メインモニターに投影され続ける宙域地図にはまだまだ赤い点がたくさん輝いている。
もちろんさっきの二機は画面から消えているし、リアルタイムでどんどんと消えているから他の傭兵も頑張っているんだろう。
これが半分になればとりあえず目標達成、問題はそこにいくまでにあと何回同じ目に合わなければならないのだろうか。
「アリス様」
「どうしましたイブさん」
「動きが複雑で狙いを定められません、次に近づいてきたらエンジンを二秒停められますか?」
「二秒でいいんですか?」
「二秒で十分です」
残った一機が狙撃させまいと複雑な動きをしながらこちらに迫ってくる。
本来宙賊もレーザー兵器などで攻撃してくるのがほとんどだが、こいつは珍しく先端に付けた衝角で突撃してくるタイプだ。
防御を正面に全振り、相手のどてっぱらに突っ込んだら先端から中もしくはハッチをこじ開けて突撃してくるつもりなんだろう。
宙賊が白兵戦とは珍しいが生憎とそれをさせるほどうちの二人は甘くない。
わざと横に船を動かし、横っ腹めがけて宙賊船が一気に加速!かと思いきや途中でエンジンが止まり加速が中途半端に止まる。
その間わずか二秒、だがそれだけあればイブさんが狙いを定めるには十分だったらしくソルアレスは横を向いていても銃座がぐるりと回転して見事奴の衝角に三発着弾。
それを見届けてから加速をしてももう奴がおってくることはなかった。
「さすがイブさん、ナイス狙撃」
「私は褒め貰えないのですか?」
「アリスもナイスフォロー」
「言わされた感はありますがまぁいいでしょう。討伐報酬はこれで20万、加えてさっきの宙賊にかけられていた懸賞金が高かったようで三機で80万もありました」
「つまりこの短時間で100万か、やばいな」
懸賞金が高かったのはちょっと予想外だが、落とせば落とすほど討伐報酬が上がるのは非常にありがたい。
それを狙って傭兵同士で編隊を組んでいる様子もうかがえるが、そこまでして数を落とす必要もないのでこのぐらいでも十分な稼ぎになる。
「ふむ、鹵獲するほどの荷物は積んでいないようですね」
「つまりどこかで大稼ぎした後ってわけじゃないのか」
「それこそ他所で仕入れてきた人を売りさばこうとしているのかと思いましたが、三隻ともそのような痕跡は見当たりませんでした」
「一応スキャンしてくれたのか」
「民間人を危険にさらすわけにはいきませんから」
アリス曰くすれ違いざまにスキャンをかけて荷物と乗員を確認、問題ないと判断してから狙撃指示を出していたらしい。
ぶっちゃけ俺もそれを心配していたんだが、杞憂だったようだ。
動きを停めた宙賊船、機体のど真ん中に穴が開いているから酸素が無くなるのは時間の問題だろう。
「しかし、何故彼らはここに集まっているんでしょうか」
「奪った物資を売りに来たわけでもなければ補給しに来たって感じでもないんだろ?」
「積み荷も燃料もひっ迫している様子はありませんでした」
「謎だな」
「そうで・・・おや?」
動かなくなった宙賊船をスキャンしていたアリスの手がピタリと止ま・・・たかと思いきやものすごい速度で動き出す。
どうやら何か見つけたらしい。
「何かあったか?」
「オフラインストレージの中に星間ネットワークにない情報を発見しました。なるほど、そういうことですか」
「わかるように説明してくれ」
「どうやら宙賊が集まっている西側のとある場所でさらわれた人のオークションが行われるようですね。おそらく彼らはそれに参加するために集まっているんでしょう」
「つまりコロニーでさらわれたらそこに連れていかれると?」
「おそらくは」
人身売買なんだからそりゃ売られる場所があるんだろうけど、それに参加するためにこれほどの宙賊が集まるのか。
っていうかここまで来たら傭兵でどうにかなるってレベルじゃない、それこそ近くの軍事施設から兵士が来てもおかしくないと思うんだがなんで来ないんだろうか。
「だがこんなに集まって、全員分の商品があると思えないんだが」
「別に買い物をするだけじゃないんでしょう。人、ドラッグ、非合法の装備など売買する物はいくらでもあります。ハッキング対策でオフラインストレージに入っていたことで軍も情報を見つけることができなかったのではないでしょうか。」
「つまり?」
「この情報を売れば軍は大喜びで会場を襲撃、ローラ様を狙っていた連中も一緒に捕まってくれる可能性があります」
「・・・本当だろうな」
そんな簡単に行くだろうかと不安になりながらも、この状況を引き起こす元凶をどうにかできるのならそれはそれで万々歳。
ついでに報酬までもらえたのならそれはもうウハウハだ。
大元を断てばおそらくコロニー内に入り込んだ奴らも出ていかざるを得ないだろうし、なんなら芋づる式に捕まってくれる可能性もある。
宙賊を倒して物資を鹵獲することはあってもオフラインデータまで漁る傭兵はいないからなぁ、ある意味アリスだからこそ見つけられたと言えるだろう。
もっとも、オフラインで保管されるとアリスでも見つけられないという証明にもなってしまったわけだが。
「どうしますか?」
「軍に奴らが入り込んでいて握りつぶされる可能性は?」
「ゼロではありませんが可能性は低いかと」
「根拠は?」
「コロニーでは人身売買を放置もしくは加担することで一定の利益を得られる人が居るかもしれませんが、軍はそういったメリットを得られる環境にありません。いくら上層部に入り込めたとしても一人の力で大勢を押しとどめるのには無理があります。目と鼻の先で起きているこの状況を軍自体も把握しているはず、しかしながら理由もなく大きく戦力を動かすことはできないのもまた現実です。ですがその為の餌をぶら下げれば一部が否定的でもいずれは動かざるを得ないでしょう。仮に握りつぶされたのならコロニーにばらまけばいいだけの話です」
つまり何とでもなるってことか。
問題はどういう方法で情報を送り込むのか。
ただ持ってきましただけでは信じてもらえないだろうし、何か信じ込ませるだけの理由が必要だ。
「・・・宙賊を狩りまくって実績を積めば信じてもらいやすくなるか」
「それはありますね」
「ふむ・・・。イブさん聞いてたか?」
「はい!」
「予定変更、無茶はしないが出来る限り宙賊を撃墜して実績を積もう。報酬も稼ぎ、報奨金も貰えるかもしれないんだ、やるっきゃないよな」
本当はめんどくさい事なんてしたくない、でも目の前に金が落ちていて拾わないのも持ったいない。
一応アリスには軍部も探ってもらって最悪の事態には備えてもらうとしよう。
宙賊討伐、まさか裏でこんなことが行われているとはなぁ。




