70.コロニー内を探し回って
ヒューマノイドが誘拐される?
そんな奇想天外な状況に思わずイブさんと顔を見合わせてしまったが、こんなところで固まっている場合じゃない。
「どど、どうしましょう!」
「どうしたもこうしたも助けに行くしかないだろ。悪いが、いくらイブさんが優秀でも俺達だけであの船は動かせないからな」
「ですよね!」
「とりあえず返信だ、それと位置情報はあるか?」
「位置情報・・・あります!」
「しかしなんでまたこんなアナログなことをするんだ?あいつなら監視カメラをハッキングしてリアルタイムで映像を送るぐらい出来そうなもんだが」
「通信できないような場所にいるってことでしょうか」
それならばなぜ位置情報付きのメッセージを送れたんだっていう話にもなる。
いや、どこかに移動させられている時に偶然それが緩んだっていう可能性もあるか。
なんにせよ助けに行くという選択肢以外はないので、急ぎ位置情報のあった場所へと移動を開始。
ラインコロニーのように大きくは無いけれど、それでも荷物の集積地兼たちより場所ということもあり、多くの人が動き回っている。
この中にどれだけ宙賊がいるんだろうか、思わずそんなことを考えてしまった。
人をかき分けながら大通りを抜け、到着したのは路地を何本か入った場所。
人一人がすれ違えるような細い通路の周りには居住用の建物がそびえたってはいるものの人の気配はない。
「足跡・・・はないな」
「つまりエアリフトで移動してるってことですかね」
「可能性としてはそうなるな。アリスの身長なら箱に入れることもできるし、力も強くないから手足を拘束すれば逃げ出すのは難しいだろう」
「とりあえず奥に行きますか」
「それしかないよなぁ」
エアリフトに乗せられていると仮定してひとまず奥へと移動、十字路に到着したところで次のメッセージを受信した。
『来て』
「いや、そんなこと言われなくても向かってるっての」
「あのアリスさんが助けを求めるなんてよっぽどですよね」
「だな、エアリフトをハッキング出来ない状況なのかはたまたあえてしていないのか。位置情報は?」
「この十字路を左ですね。あ!マップソフトに通過信号が上書きされています」
「つまりそれを追いかけろってことか」
さっきと違ってソフトに移動した履歴を残すぐらいはできるようになったらしい。
色々と考えることはあるけれど今の頼りは断片的に送られてくるこの信号だけ、とりあえず追いかけて様子を見よう。
路地という路地をくねくねと移動し続ける事一時間程、いい加減疲れてきたところでついに信号が動かなくなった。
目の前には・・・。
「なにも、ない?」
到着したのはコロニー北端の空き地、正面の分厚い壁の向こうには漆黒の宇宙が広がっていているだけでこれ以上進むことはできない。
「確かにここなのか?」
「間違いありません」
「ということはここの何処かにアリスがいる、上じゃないってことは」
「下ですね!」
元気いっぱいにこたえるイブさん、そんな生き生きした顔で答えなくてもいいんじゃないか?
「なんだか楽しそうだな」
「すみません、昨日コロニーを舞台にしたスパイ物のホロムービーを見ていたので」
「コロニー・イン・タグ?」
「それです!」
「あれはたしかに面白い、分かる。分かるんだが今はアリスを探すことが先決だ。確かあの時は地下に降りるハッチがあったな」
「これですね!」
「って、早いな」
因みにホロムービーの内容は機密情報の入ったチップ手に入れたスパイがコロニー内を縦横無尽に駆け回りながら外に逃げ出すというアクション物、シリーズ化されているから今度おすすめを教えよう。
なんて考えている間にイブさんが空き地の隅にハッチを発見。
その前にはエアリフトが布をかけて隠されていた。
まるで映画のような展開に、現実だと分かっていてもなんだか楽しくなってしまう。
もちろんこの先で危険な目に合う可能性は非常に高い、それでもアリスを置いていくという選択肢は俺達にはなかった。
「開きそうか?」
「カギはかかってますけど、開けます!」
「いや、開けますって・・・無理に壊すと向こうに警報が行くんじゃないか?」
「でも・・・あれ?開いてる?」
勢いもそのままに強引にハッチを開けようとしていたイブさんだったが、何故か鍵が開いていたらしい。
二人で顔を見合わせるもこんなことできるのはアリスだけ、彼女が手を貸してくれるのなら百人力だ。
素早くハッチを開け、昇降用のはしごを滑るように降りていくイブさん。
同じことはできないけれど出来るだけ早く階段を降りると地下通路に到着。
おそらくここは物資運搬や整備に使われているんだろう、映画でもそうだったようにコロニーの地下というのは地表部と同じぐらいに様々な通路が張り巡らされている。
「アリスさんから連絡、地下マップ入手しました」
「近づけば近づくほど通信が強くなるみたいだな」
「目的地はすぐ近くです、急ぎましょう」
非常灯の明かりを頼りに出来るだけ足音を立てないように通路を進む。
気分はまるでスパイの様、その時だ。
先を良くイブさんが手を下にして俺に注意を知らせる。
通路の奥からは一人分の足音、コツコツという音が大きくなるたびに俺の心臓の音も大きくなり、ソレが角を曲がった次の瞬間、目にもとまらぬタックルと締め技で通路を曲がってきたそいつは俺達に気づくことなく失神した。
流石白兵戦の鬼、ソルアレスで何度も鍛錬をつけてもらっているけれどその実力を目の当たりにするとこの人が味方で本当に良かったって思うよなぁ。
そいつの装備を奪い、ベルトで動けないように縛り上げる。
ハンドガンはイブさんが俺はスタンガンを手に通路をさらに奥へ。
「この奥です」
「アリスからは?」
「中に二人とだけ」
「信号を見る限り入り口側とその奥か、どうする?」
「私が飛び込みますので入り口のは任せました。私が入った三秒後に入ってきてください」
「了解」
「大丈夫です、これを引いても誰も死にません。ただ体の真ん中に合わせてトリガーを引くだけです。」
俺の不安を感じてかイブさんがニコリとほほ笑んだ。
っていうか、そもそも俺の指示で何人も宙賊を殺しているんだから今さらだよな。
おそらくこいつらも宙賊、なら容赦する必要はない。
覚悟を決めていると再びメッセージを受信、30秒後に扉のロックを開けるらしい。
イブさんが銃を手に身をかがめ、その後ろでカウントダウンを開始する。
23・24・25・26・・・。
27を数えた瞬間、ハッチが自動的に開きイブさんが中へと飛び込んでいく。
「おい、誰だ!」
「侵入者だ!外にれんら・・・くそ、反応しねぇ!」
中から聞こえてくる怒号、しっかり30まで数えてから中に飛び込むと男の無防備な背中が目に飛び込んできた。
真ん中に合わせてトリガーを引く!
ただそれだけを考えその通りに体を動かす。
「もういい、撃ち殺・・・グァ!?」
「おい!くそ、もう一人いやがった!」
「あなた方の悪事もこれまでです!大人しく捕まりなさい!」
「・・・『探偵スピネルのコロニー大冒険』、こんなのも見ているのか」
結構子供向けのホロムービーだったと思うけど、イブさんの趣味も中々広いな。
完全武装の兵士を前に堂々と啖呵を切るイブさん、スタンガンで眠らせたもう一人を縛り上げながらふと視線を感じ横を見ると、そこにはアリスと俺と同い年ぐらいの女性の姿があった。




