68.宙賊に宙賊と呼ばれて
「よぉ兄ちゃん良い物積んでんじゃねぇか。宝石にレアメタル、いったいどこの金持ちが飛んでるのかと思ったぜ。重そうだから半分ぐらい手伝ってやろうか?」
ド派手なモヒカン頭に顔には髑髏のタトゥー、さらに口を開けば歯が何本かなかった。
肌の色は浅黒く、画面越しに臭ってきそうな不潔感がある。
何で宙賊ってのは風呂に入らないんだろうか。
「生憎とカーゴには余裕があるんでね、遠慮するよ」
「そう固いこと言うなって。おいおい、可愛い子まで連れて優雅なもんだなぁ。あれか?逃避行ってやつか?」
「れっきとした仕事でね、コンテナの中身も俺のじゃない」
「そりゃ残念だったな。俺ってば優しいから何かから逃げてるってんだったら荷物も半分ぐらいで勘弁してやろうかと思ったんだが、仕事となれば話は別だ」
「ん?逃げてたら半分で許してくれたのか?」
「ちょうどそういうホロムービーを見てたんだよ。愛の為に敵の基地に乗り込んで、相手と一緒に小さな船で逃げ出す!あーあ、そんな面白いことあればいいのになぁ」
この男は一体何を言ってるんだろうか。
人の船を襲っておいて突然ホロムービーについて話し出したと思ったら面白いことないかとぼやき始める。
世間話なんてしないでさっさと襲ってしまえばいいのに、もしかすると話し相手が居なくてさみしくなったとか?
いやいや、そんなやつがそもそも宙賊なんてやるはずもないか。
「それ、『偽りの愛もいつか真実に!』ですよね!」
「お!姉ちゃん知ってるか!」
「つい昨日見てました、いいお話ですよね」
「だよなぁ、特にあの恋敵の基地にボロ船で突っ込んでいくシーンとか最高だ」
「わかります!レーザー砲をかいくぐりながら基地の隔壁をなけなしのミサイルで爆破、でもそれでも壊れなくて最後は耐圧コンテナに身を隠して船ごと突撃したところはハラハラしました」
「そうそう、男ならああやって無茶をしてでも好いた女の所までいくもんだ」
あー・・・俺は何を見せられているんだろうか。
メインモニター越しに襲ってきたはずの宙賊とイブさんがホロムービについて語り合う?
思わずアリスの方を見るとこのまま時間を稼いでくれというジェスチャーをしてきた。
もしかしてこのままこの二人の話を聞けと?
相手は宙賊、殺しても何の問題もない宇宙のゴミ野郎。
そんな相手と楽しそうに話をするイブさんが最後に助けてやってくれとか言い出しそうでちょっと不安
ほら、よくあるじゃないかホロムービー好きに悪い人はいないとか言い出すやつ。
「そんなに面白いのか?」
「なんだ見たことないのか?マジで面白いからその姉ちゃんに借りて見て見ろよ、マジで最高だぜ」
「よかったら是非!アクションシーンすごいんですけど、物語も波瀾万丈でまったく飽きないんです」
「しかも白兵戦のシーンは実際に本人がやってるって話だ。今時そこまでこだわって作る監督はいないが、そういうのが深みを作るんだろうなぁ」
「ですよね!」
あーうん、確かに俺もホロムービーは好きだし色々見ているからなんとなく話は分かる。
分かるんだが、俺にとってあれは娯楽であり息抜きなのでそこまで熱量を割くものではないんだよなぁ。
気持ちよく見れて最後にスッキリできればそれでよし、ぶっちゃけ二人のようにもりあがれれるかと聞かれると残念ながら難しい。
其れからモニターのタイマーで五分程話し続けた所で男がハッと我に返った。
「おっと、話がそれたな。ともかくだ、積み荷を置いてさっさと失せろ。ホロムービー好きに悪い奴はいねぇからな、それさえ置いていけば船と命は助けてやるよ」
「そりゃどうも。だが生憎こっちにそのつもりは無くてね、そっちこそカーゴに積んでる荷物を三つぐらいゆずってくれたら命は助けてやろう。確かカーゴに青いのと緑のコンテナがあるだろ?」
「お前、なんでそれを知って・・・」
男が驚いた顔をするのと同時に向こうの船に警告音が鳴り、慌てたように計器をいじりだす。
これだけ時間を貰ったらあの船のすべてを掌握することなんてアリスにとって当たり前、本来ヒューマノイドが他人の船をハッキングするなんてことはしないけれども、アーティファクトである彼女であれば話は別だ。
「な、酸素がぬけてる?おい!やめろ!」
「このまま酸欠で死ぬか、それともコンテナを放出するか。もちろん全てを拒否して逃げて撃墜されるという選択肢もあるんだが、三つのうちどれが良いか選ばせてやろう」
「この・・・宙賊め!」
「誰が宙賊か!」
なんで俺が宙賊に宙賊って呼ばれなきゃならねぇんだよ。
それを聞いたアリスが思わず吹き出すぐらいのぶっとんだ発言、こちとら善良な輸送業者だっての。
その後も宙賊に罵詈雑言を浴びせられながらも最後はコンテナを放出してどこかへ飛んで行ってしまった。
アリス曰く近くのコロニーに到着するかしないかのギリギリの酸素量らしいので、後は奴の運しだいって所らしい。
なんだかんだしぶといから生き残りそうな気もしないでもないが、まぁ終わり良ければ総て良しだ。
「コンテナ収容完了しました。登録されている中身だけでもおよそ100万ヴェイル、ぶっちゃけ輸送業よりも儲かりますが、宙賊に鞍替えします?」
「やめてくれ、俺はただの輸送業者でいたいんだ」
「宙賊からしか荷物を奪わない宙賊、かっこいいかも」
「イブさん」
「えへへ、ごめんなさい」
そう、俺はただの輸送業者。
確かにそういうのも義賊っぽくて嫌いじゃないが俺達には目標がある。
夢はでっかく惑星を手にれる事、その雨にこうやってコツコツ仕事をしているのであって別に宙賊から荷物を奪うことを仕事にしているわけじゃない。
そりゃ撃墜せずに回収し続ければそれなりに儲かるだろうけど、あまりやりすぎるとそういう噂がひろまって奴らに目を付けられかねない。
なんにせよ基本的には発見即撃墜、生きる価値の無い宙賊はデブリになってもらうのが一番だ。
今回はまぁ・・・映画好きに悪い人はいないという考えに従った、という事にしておこう。
「因みに回収したコンテナのうち赤い方には懸賞金がかけられています。中身を開封せずに持ち込むと80万ヴェイルだそうですよ」
「ん?運ぶだけで?」
「開封しないことが条件ですけど・・・。登録上中身は薬品ですが、どう思います?」
「臭いなぁ」
「ですよねぇ」
「触らぬ神に祟りなし、俺達は何も知らないし言われるがまま物を運んだってことにしておくか」
より精密にスキャンすれば中身を確認できるだろうけど、下手なことをして面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。
俺達はただ金を稼いで先に進みたいだけ、懸賞金がかけられているのならそれを運ぶだけ。
どこで手に入れたかを聞かれても宇宙を漂っていたのを回収しただけといいはることはできる。
「まったく、何が宙賊の少ない航路だ。こんなの持ってたらまた新しいが寄ってくるぞ」
「良いじゃありませんか、獲物が獲物を呼び結果として我々は懐が温かくなるわけですから」
「ほんとどっちが宙賊なのやら」
「なにか?」
「なんでも?」
こちらもまた触らぬ神に祟りなし、余計なことをするとまた勝手に秘密を暴露されてしまうので大人しくしているに限る。
辺境惑星まではまだまだこれから、それまでにいったい何が起きるのだろうか。




