66.それぞれに別れを告げて
「えぇぇぇ!つれていってくれないんですかぁぁぁ!?」
傭兵ギルド内に響き渡るディジーの声、暇そうにしていた傭兵達が何事かと一斉に振り返る。
まぁこういう反応をするだろうなと思っていたけれど、これは決定事項なので致し方ない事だ。
「仕方ないだろ。辺境惑星まではおよそ半年、この前みたいに気軽に行って帰ってってするわけにはいかないんだから。前だって無理言って休ませてもらったんだろ?そんな長期間連れ出せないっての。なぁエドガーさん」
「じゃあ仕事辞めます!」
「辞めたって連れて行かないぞ」
「なんでですか!こんなに可愛くて仕事も出来て交渉だって傭兵相手の交渉だってできるんですよ、しかも可愛い!」
「なんで二回言うんだよ」
「エドガーさんは黙っててください!」
因みにここまでの反応は予想通り、ディジーの事だから仕事を辞めてまでついてくるというだろうとアリスは断言していた。
確かに彼女の実力は認めるけれども、彼女の人生はまだまだ長いし正直その人生を背負えるほど親しい間柄でもない。
結婚して分かったがその人の人生を背負うってのはかなり怖い事だ。
彼女のように若い子は俺みたいなオッサンと一緒にいる必要もないし、ディジーならここでいい男を見つけることだろう。
「可愛いのは認めよう。だがなディジー、お前にアリスみたいなことはできるか?イブさんのように宙賊の船を撃ち落として白兵戦でボコボコにすることは?」
「それは・・・」
「一緒に行けたらと思う部分もある。だがな、彼女達以上に出来ることが無い以上連れていく理由が見つからないんだ。金もかかるし危険だってある、悪いが一緒に連れていくことはできない」
「・・・わかりました」
彼女にはきつい話だがこれが現実、下手に可能性を見せるぐらいなら突き放した方が良いだろう。
しょんぼりとうつむくディジー、悪い事をした気分になってしまうがここで手を差し伸べるわけにはいかない。
「そう落ち込むなディジー、こいつの事だから上手くやったら惑星に招待してくれるさ。それこそタダでな」
「おいおい、勝手なこと言うなよ」
「なんだ招待してくれないのか?お前がここに来てからというもの色々世話してやったってのに、冷たい奴だなぁ」
「仕事は貰ったが別に世話された覚えはないんだが?」
「そうだったか?」
「まぁ、上手く軌道に乗ったら来てもらう分には問題ないが・・・」
「言いましたね!エドガーさんナイスです!」
さっきまで暗い顔をしていたディジーが満面の笑みを浮かべながら顔を上げる。
こいつ、わざと落ち込んだ振りしてやがったな!
しかもエドガーさんまでグルになりやがって、まったく困った二人だ。
「お前らなぁ」
「連れて行ってくれないのはわかってました。アリスちゃんの情報収集能力は規格外ですし、イブさんみたいに強いわけじゃありません。トウマさんもなんだかんだ交渉とか得意ですし宙賊にもビビらないですしね。もしかして・・・って期待してたんですけどやっぱり駄目でした。でもでも!惑星を手に居れた暁には絶対呼んでくださいね!移住しますから!」
「なんならそこで傭兵ギルドを開けばいい、出向は何時でもやってる」
「いいですね!」
「いや、良いですねって勝手に決めるなよ」
俺を放置して勝手に盛り上がる二人、エドガーさんなりに落ち込むディジーを元気づけているんだろうけど好き勝手に約束を増やすのは勘弁してほしい。
でも惑星を手に入れて人が増えれば必然的に宙賊も増える、そうなったら傭兵の出番が増えるわけだしその仲介をする傭兵ギルドは必要不可欠、そうなった時はお願いしてもいいかもしれない。
もっともこれから行く惑星に居住できるかなんてのはまだまだ分からない話なので夢のまた夢かもしれないが。
そんな感じで明るく別れを告げ、続いて輸送ギルドでポーターさんへ報告。
てっきり引き留められるのかと思いきやかなりサラッとした感じで了承されてしまった。
ちょっと拍子抜けだ。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、挨拶は済みましたか?」
「まぁ知り合いも少ないしすんなり終わった」
「ディジーさんはどうでしたか?」
「予想通りの反応だったが、エドガーさんと共謀して一杯喰わされたよ。もし惑星が手に入ったら向こうで傭兵ギルドをやるんだってさ」
「それはそれは頼もしい限りで」
「じゃあお二人が来れるようにしっかり整備しないとだめですね!」
いや、来るのはディジーだけでいいんだけどこの感じだとエドガーさんも一緒なんだろうな。
別に嫌いじゃないけど・・・オッサンが増えるのはちょっとなぁ。
いや、そもそもこの発想がオッサンなのか。
「後は物資の搬入と依頼品を待つだけです」
「ん?依頼品?」
「折角別宙域に行くわけですからいくつか長距離依頼を引き受けておきました。どれも商品価値の高い物ばかりです、スキャンされればいくらでも寄ってくるでしょうね」
「俺はエサか?」
「これ以上ないエサです。そして同時に捕食者でもあります」
「宙賊が来たらお任せください!」
哀れな宙賊が高価な荷物に引き寄せられて襲撃、それを返り討ちにして討伐報酬の他物資までせしめようとしているようだ。
その発想自体がそもそもヒューマノイドらしくない、普通は危険を回避しましょうとか保険をかけておきましょうとか言う所を返り討ちにしてわがものにするつもりだもんなぁ。
世界広しといえどこんなこと考えるのこいつしかいないだろう。
それがアーティファクトだからなのかそもそもこいつのネジが吹っ飛んでいるのかはわからないけれど、頼もしいのは事実なので引き続きほどほどに頑張ってもらおう。
「ま、それで安全に金が増えるんなら文句はないさ。・・・安全なんだよな?」
「イブさんの腕前があれば当然でしょう」
「アリスは何もしないのか?」
「私は色々と忙しいので」
「また何か企んでるんだろ」
「失礼な、安心安全な運航に心がけているだけです」
「とか言いつつ俺に黙って細々としたものを買い付けてるの知ってるんだからな」
「おかしいですね、履歴は消しておいたはずなのに」
はいダウト。
これに関しては届いた荷物を間違って開封したことで発覚したことなのだが、やはり自分で履歴を消去したようだ。
バツの悪そうな顔をするのかと思いきやバレましたがなにか?みたいな顔で俺を見て来る。
そもそもヒューマノイドが反省するかどうかはわからないけれど、そこまで悪びれる事ない顔されたら何も言い返せないじゃないか。
使われた金額はそこまで多くないし、この金を稼げたのもアリスのおかげ的なところは大きいので文句を言えないっていう所もある。
とはいえ彼女の主人は俺なわけだから、せめて一言ぐらいくれてもいいと思うんだがなぁ。
「やばいもんじゃないだろうな」
「その点はご心配なく、必ずマスターの役に立つものです」
「どんな風に?」
「それはまだ秘密です」
唇に人差し指を当てて意味深な顔をするアリス。
やれやれ、今に始まったことじゃないけれどもう少し情報をオープンにするというか、報告をしっかりしてくれるとこちらとしても動きやすいんだがなぁ。
もう少し追及してやろうかと思ったその時だ、インターホンが鳴りモニターに配達員の姿が見える。
「荷物が来たようですね」
「私、受け取りのサインをしてきます!」
「ハッチを開放、もうすぐ出発しますのでマスターはしばしお待ちを」
「了解っと」
これらを積み込めばいよいよ出発、長かったようで短かった商業コロニーラインでの生活だがその内容はかなり濃いものだった。
ここだからこそ経験できたこともあるし少し名残惜しい感じはあるけれど、俺達の目標の為には致し方ない。
目指すは辺境惑星。
新たな夢をめがけて太陽の翼は再び漆黒の宇宙へと飛び立つのだった。




