59.色々と説明を受けて
イケメンヒューマノイドの後ろをビキニ姿のイブさんと同じくビキニだけどパレオを巻いたディジーが歩いている。
うーむ、水着は到着までのお楽しみと聞いていたけれど中々大胆なものを選んだもんだなぁ。
黒いビキニに身を包んだイブさんだが、全身が引き締まっているからかセクシーな感じよりも非常に健康的な感じに見えてしまう。
それとは対照的にディジーはパレオの隙間から見える足が中々に扇情的でそそられるものがあるな。
残念ながら胸部パーツは同じビキニでもボリュームに明らかな違いがあるけれど、決してないわけじゃない。
それこそ横を歩くワンピース姿の幼女・・・じゃなかった美少女のアリスに比べればしっかりとしたサイズがあるので他に男が居たらついつい目で追ってしまうのは間違いないだろう。
アリス?
なんでそんな水着にしたのかと小一時間問い詰めたくなるのだが、これはこれで似合っているから不思議な感じだ。
そんな後姿を堪能しつつ、オルファさんに案内されたのは海岸近くに建てられた木製の住居。
大胆にも窓が無く、窓枠からは自然の風と共に海からの音が入ってくるような作りになっていた。
屋内は比較的涼しく風が吹くと若干肌寒い感じすらある。
そんな建物の真ん中に設置されたソファーへと案内された俺達は、くつろぐどころか姿勢を伸ばしてきょろきょろとあ辺りを見回していた。
「すごい、これ全部本物の木で出来ていますよ」
「この建物を含め、惑星上に存在する八割の建造物はこの地で伐採された木を使って建てられております。天然の木材をふんだんに使えるのも惑星ならでは、屋内の調度品もほぼすべてが木製です」
「・・・マジか」
「こんな贅沢あっていいんですか?木製のコップに木製のお皿、木製のベッド!」
「ディジー様、ベッドマットも天然物の様です」
「えぇぇぇぇぇ!?」
コロニーで生活する中で見る物触れる物なんなら食べるものですらすべて人工物、稀に天然物と呼ばれるこういった惑星で作られたりコロニー内で栽培されたようなものを目にすることもあるけれど、そういったものはものすごく高いので俺みたいな庶民が手を出せる物じゃない。
木の種であれだけ大騒ぎしたっていうのに、成長した木材がこれでもかと使われた空間はホログラムでもなかなかお目にかかることはないだろう。
そもそも壁に使われる木材一つで何万ヴェロスとするだろうから、ざっと計算してもこの建物一つで二千万ぐらいするんじゃないだろうか。
そこに調度品やら食器やらを加えると・・・もう訳が分からなくなる。
「外の世界では驚かれるかもしれませんが、私たちにとっては当たり前のようにある物ですからそんなに珍しいわけではありません。計画的に生育している木々であっても必要があれば間引きますし、定期的な間伐は必要不可欠です」
「つまりそれだけ木材が簡単に手に入る環境だという事ですね」
「えぇ、ですので壊したりしても問題ありません、安心してご利用ください」
安心しろと言われてもすぐには出来ないかもしれないが、まぁ使っていればいずれ慣れて来るんだろう。
ちなみに出されたカップも木製、天然物の茶葉を使った香茶がカップの中を染め上げている。
はぁ、この飲み物だけでコロニーだと一体いくら払わないとだめなんだろうか。
ここにいるだけで金銭感覚がどんどんおかしくなりそうだ。
「では、早速当惑星での滞在についてご説明させていただきます。各自にお渡ししましたタブレットはご本人様専用となっており、それを使いまして必要な物をご用命ください。おおよその物はご準備しておりますが、もしない場合は別途手配も可能です。しかしながらその場合は有料となりますのでご容赦をお願いします」
「ん?じゃあここに載っている物ならタダってことか?」
「その通りです」
「太っ腹~」
「本来そこも含めての代金を支払っていますから当然の事かと。おそらくライエル男爵様がお支払いをしているのではないでしょうか」
「それに関しては守秘義務がありますので回答いたしかねます」
オールインクルーシブだっけか、代金の中にサービス料がすべて含まれていてそれ以上支払わなくてもいい奴、バカンスコロニーなんかではよくある手法だが、それを惑星でやろうっていう時点でスケールが違いすぎる。
その後もタブレットを見ながら滞在時の注意事項や惑星で出来ることを確認していく。
今回の滞在はなんと三泊四日、滞在時間三時間があの値段だったことを考えるといったいどれだけの金が必要になるんだろうか。
金の心配はするなと言われても心配してしまうのが庶民というもの、出来ることを聞けば聞くほど不安になる。
「以上で説明を終わります、何かご質問はありますでしょうか」
「色々ありそうだが今すぐは思いつかないからまた後で聞いても構わないか?」
「もちろんです、いつでもタブレットでお呼び出し下さい」
「あの、生の魚を食べられるって本当ですか?」
「獲れたてであれば問題ありません、ご希望でしたら本日の夕食にご準備致しますが」
「お願いします!」
目を輝かせてお願いをするディジー、生の野菜だけでなく生の魚まで食べられるのか。
惑星から持ち帰った養殖物ですらかなりの高級品なのに天然の魚をさも当たり前のように準備できる環境、惑星の持つポテンシャルは計り知れないものがあるなぁ。
「畏まりました。ご希望でしたら釣りを楽しむことも可能ですのでお声がけください」
「釣り?」
「船に乗って海に出て自分で魚を釣る遊びです」
「それを遊びと言っていいのか?」
「自分で釣った魚は美味しいですよ。その他にも近海で潜水を行い貝を採取できる場所もございます、エアクリップを口に入れておけば水中内でも呼吸はできますのでお楽しみいただけるかと」
「もう何でもありだな。本当は全部やりたいところだが時間に限りもあるし・・・とりあえず今日は砂浜を堪能させてもらって明日以降の事はまた後ででいいだろう」
今考えてもすぐに答えが出るわけじゃない、それなら今できる事を全力で楽しみながら思いついたことをやっていこう。
とりあえず夕食の時間までは各自自由行動、まずは部屋割りを決めてから各自思い思いの惑星生活初日を堪能することとなった。
俺は早速タブレットで飲み物や食べ物を注文し、爽やかな風の吹く軒先に置かれたデッキチェアに体を沈める。
風が頬を撫で、目の前に広がる青い海と白い砂浜を眺めながら冷たい炭酸を口に含む。
パチパチとはじける炭酸の刺激、あぁこんな幸せな時間があっていいのだろうか。
「幸せそうなお顔ですね」
「そりゃ幸せだからな、コロニーに居たままだったらこんな贅沢なこと経験できなかっただろう」
「実費だと億の金を払わないことにはこれないでしょうから一生経験できなかったでしょうね」
「アリスはこの後どうするんだ?」
「夕食まではまだ時間もありますし近くを散策しようかと。よろしければご一緒しませんか?」
白のワンピースに紺色のカーディガンを羽織った姿でデッキチェアに沈む俺を上からのぞきこんでくるアリス。
あざとい、あざとすぎるぐらいにあざとい。
そして本人もわかってそれをしているんだから余計にたちが悪い。
でもまぁせっかくの機会だしなぁ、一緒に行ってやるか。
「いいだろう、道案内は任せた」
「お任せください」
惑星生活初日。
こうして最高のバカンスが幕を開けたのだった。




