50.ギルドからの呼び出しを受けて
およそ三週間にわたる二回目のハネムーンに強制同行させられながらも、なんだかんだバカンスを楽しませてもらった俺達は無事ラインコロニーへと帰還した。
大規模掃討戦もひと段落し、コロニーもいつも通りに戻っている。
まだ短い帰還しか過ごしていないけれどなんだかんだホーム的な位置づけなんだよなぁ。
「あ!おかえりなさい!」
「ただいま」
「いつまでも戻ってこないので宙賊に撃ち落とされたかと思っちゃいました」
「大丈夫ですよディジー様、イブさんと私がいればそのようなことが起こるはずありません」
「つまりトウマは役立たずというわけだな」
「戦闘という意味ではそうですが、マスターにはマスターの役割がありますから」
帰ってきて早々傭兵ギルドの受付嬢とトップに早速ディスられるという苦行を強いられているわけだが、まさかまさかアリスがかばってくれるとは思わなかった。
なんだかんだ俺の事をマスターと思って・・・。
「宙賊を煽るのにこれ以上の適役はおりません」
「おい」
「なにか?」
「もっとこうオブラートに包むことはできないのか?それともマスターがイブ様のように飛行する宙賊船を撃ち落としてくださると?」
「・・・どうも宙賊を煽るのが仕事です」
「相変わらず元気そうで何よりだ。聞いたぞ、ライエル男爵の無茶振りを見事達成したんだってな。戻ってきて早々で申し訳ないが宙賊関係の報酬が溜まってるからサクッと回収して言ってくれ。じゃないと俺達の実績にならないんでな」
まったく歓迎する気もないエドガーさん、女性二人はバカンス中に買い求めたお土産をディジーに渡しながら大盛り上がりしている様子。
ついて早々呼び出されたので何かと思ったら、ただの実績回収だったようだ。
大規模掃討戦の話なんかを聞きつつ事務手続きをすまして、ついでに最近の宙賊動向を確認。
先の一件以降宙賊はなりを潜めていて今のところは平和そのものらしい。
つまり傭兵ギルドは暇そのもの、まぁ腕のいい傭兵が何人かやられてしまったらしくそのほうが都合は良さそうな感じだ。
「お待たせいたしました」
「終わったのか?」
「はい!ディジーさんもたくさん喜んでくれて、買ってきてよかったです」
「これで惑星にでも行こうものならそれはもう大変なことになっていただろうけど、コロニーしかなくてよかった」
「惑星に行こうと思ったらハイパーレーンを使ってもここから最低一週間はかかる、加えてそういう場所は一般人が入れないか高い金を出さないと入れないようなバカンス用だろう。もしくは鉱石採掘用の囚人専門惑星か、そこなら金払わなくても入れるぞ?」
「わざわざ犯罪を侵してまで惑星に降りるつもりはないから大丈夫だ」
軽犯罪程度であれば収監用コロニーでの刑期になるが、重犯罪になるともれなく資源惑星での強制労働が待っている。
一応刑期を満たせば出られるって話だけど大抵は死体になってからってのがもっぱらの噂だ。
折角惑星に降り立つのならそんな場所じゃなく、景色なんかを楽しめるような場所が良いよなぁ。
「マスターがそのような犯罪を侵すことはできませんから」
「どういう意味だよ」
「そういう意味です」
「ま、俺もそう思う。ともかくだ、しばらくこっちは暇だから適当に顔を出しに来てくれ」
「了解、それじゃあ次に行くか」
「なんだまだ呼び出されてるのか?」
「ポーターさんにちょっとな、なんだか深刻な感じだったからぶっちゃけ気が引けるんだが、ギルド会員になった以上行くしかなくてな」
そう、バカンスを終えてラインに寄港してすぐ連絡があったのは傭兵ギルドだけじゃない。
二度目に入ってきたのはなにやら重苦しい顔をしたポーターさん、また例の発作でも起きているのかと思うと行く前から気が重たくなる。
傭兵ギルドを出てその足で輸送ギルドへ、今日も閑古鳥が鳴ているのかと思いきや思っている以上の人でにぎわっている。
あれ?
なんだか思っていたのと様子が違うぞ?
「あ!トウマさん、ちょっとそこで待っててください!」
「ん?あぁ、了解した」
受付に並ぶ客を相手にしながらも俺が入ってきたことんすぐ気づいたポーターさん、あの思いつめた顔は何だったんだろうか。
とりあえず受付横のソファーに腰かけてギルド内を見回しているとあることに気が付いた。
「もしかして繁盛してる?」
「もしかしなくてもそうでしょう、星間ネットワークの取引履歴を見ましても非常に盛況なようです。おそらくは大規模掃討戦のおかげで宙賊が少なくなり、更にはあの拠点のせいで移動できなかった場所へスムーズに行けるようになったことが大きいのかと。ハイパーレーンも復活しておりますし、メディカルコロニーへも行きやすくなっていますよ」
「つまり猫の手も借りたいと、とはいえ依頼がそこまであふれているって感じでもないしなぁ」
ギルド員用の依頼一覧を確認してみても仕事が滞留しているわけではなく、むしろ不足している感じすらある。
依頼が増えるたびに誰かが受注し、残っているのは割に合わない依頼ぐらい。
うーむ、これだけ忙しいのにあの顔をする理由は何だろうか。
っていうか、そもそもこんなにギルド会員がいること自体が驚きなんだが。
「あれ?あの方って前に傭兵ギルドで見ましたよ?」
「ん?」
「ほら、あの人も」
「あぁ、なるほどそういう事か」
「流石マスター、良く気付かれましたね」
「先に傭兵ギルドに行ってなかったら気づかなかっただろうけどな」
よくみると他にも何人もの傭兵が静かにギルドでタブレットを眺めている。
傭兵の仕事は宙賊の退治、だがその宙賊がいなくなると仕事がなくなってしまうので余った船を動かすべく輸送の仕事をすることにしたんだろう。
仕事が増えることで依頼料も上がり、条件も良くなっている今なら派手に遊ぶことは出来なくても食つなぐことは可能だ。
その為には船をきれいにする必要もあるだろうけど、食っていくためならば致し方ない。
「すみませんお待たせして」
「大盛況じゃないか」
「お陰様で、こんなに忙しいのはここに来て初めてかもしれません」
待つこと三十分程、いい加減帰ろうかと思ったタイミングで客の列が切れ俺達の番がやってきた。
受付にはポーターさんの代わりに新しい職員?の女性が座り、その瞬間に傭兵達が受付に群がる。
そんな彼らを横目に案内されたのは応接室、心なしか前よりも綺麗になっている気がする。
「それと、新しい人を雇ったんだな。美人さんじゃないか」
「あはは、流石にこれだけのお客様をあいてにするのはむずかしくて。まさかあんな方が来てくれるとは思いませんでしたが、そのおかげで傭兵の方々が仕事を求めてきてくれるようになりました」
「つまりすべてがうまく回っていると、良いことだ」
うーん、連絡を受けた時のあの表情は一体何だったんだろうか。
仕事も順調、新しいスタッフも増えて順風満帆。
もちろん本人が元気で特に何もないのであればそれでいいんだけど、何か用があるからこうやって呼び出したんだろう。
その後、ライエル男爵の依頼達成について報告をして報酬の支払いを確認。
当初の報酬700万はギルド経由なのでこれで一気に懐が温かくなった。
追加報酬に関しては個人依頼と一緒にバカンス終了時に受領済み、現地での支払いや実費は別として合わせて1500万もの収入を手にしたことになる。
俺の退職金が10万だったことを考えると、これだけあればしばらく働かなくても食っていくことはできる・・・ってのが昔の考えだが、宇宙を飛び回っているとこれだけあってもあまり安心じゃないんだよなぁ。
ある程度は致し方ないといったところで、ポーターさんが姿勢を正し真剣な目でこちらを見て来た。
その姿が背伸びした子供にしか見えないのはまぁ黙っておこう。
「それでですね、今日お呼びしたのは別の事でして」
「まためんどくさそうな依頼か?」
「あはは、まただなんて言わないでくださいよ」
「だといいんだけど。それで、どうしたんだ?」
「実はですね・・・、トウマさんうちの専属になりませんか?」




