36.変わったものを回収して
宙賊想定のが倍に増えたところでアリスとイブさんの敵ではなく、あっという間に制圧が完了。
現在アリスが残った中型船に乗り込んで諸々の後片付けをしているところだ。
こういう時酸素を必要としないヒューマノイドって便利だよなぁ、俺達は防護服なしじゃ宇宙空間にすら出ることはできない。
当たり前のように見ているモニターの向こう側は死の世界、たまにそれを忘れそうになってしまう。
「酸素注入完了、遺体の処理も完了したのでもう来ても大丈夫ですよ」
「やれやれ、結局向こうにはいかないといけないのか」
「おいやでしたら私達だけで処理しちゃいますけど・・・」
「いや、船長たる者率先して仕事しないとな。なんせ座ってるしかしてないし」
「働かざる者食うべからず、古より伝わる尊い言葉です」
「へいへい、働かせてもらいますよっと」
実際一番働いてないのは俺だからな、行ったところで残置物の回収ぐらいしかすることないけどあれが一番面倒なので頑張るとしよう。
連結器を使って中型船へ移動、相変わらずの汚さだが一度換気されたからか臭いはそこまで気にならない。
「カーゴ内の物資はこちらで仕分けをしますのでマスターは残置物の確認をお願いします」
「へいへい、了解っと」
「この船はどうするんですか?」
「状態は悪くありませんのでとりあえず持ち帰ってから考えます。イブさん、操縦をお任せしてよろしいですか?」
「わかりました、コックピットに移動します」
これまで宙賊がのっていたのはどれも小型のバトルシップで、こういう輸送型の中型船を見るのは今回が初めて。
バトルシップにはあまり物資を詰め込めないので戦利品を輸送するのに使っていたんだろうけど、それを奪われるとは思ってなかったんだろうなぁ。
カーゴが船の8割を占め居住スペースはごくわずか、残置物もそこまでなく早々引き上げてコックピットへ移動する。
「どんな感じだ?」
「アリス様がシステムをいじって停めただけですのでそれさえ直せば普通に航行できそうです。普通に買えば1000万ヴェロスはするんじゃないですか?」
「問題は宙賊が使ってたってことだよなぁ、足はついてるだろうしこれを使うのは流石にリスキーか」
「アリス様にお願いして船舶データを書き換えるとか」
「んー、それもありだがイブさんにこっちを任せると誰が宙賊を相手にするんだっていう話になるんだよなぁ」
あれば便利なんだろうけど同時に航行するには色々と問題があるので今回はパス、近距離輸送する現状ではここまで大きなカーゴを必要としないのであると結構邪魔だったりする。
コロニーのハンガーを使用するのにも駐機料がかかるし、燃料費だって馬鹿にならない。
ソルアレスはものすごく燃費の良い船だけどこいつはそうでもないのですぐに赤字になるだろう。
「お二人とも至急カーゴへお願いします」
「アリスさん?」
「どうやら何か見つけたらしいな」
「一体なんでしょうか」
「麻薬とかマジで勘弁してほしいんだが?」
そのネタはこの前やってしまったのでもうお腹いっぱいだ。
急ぎカーゴへ向かうと、いくつも並んだコンテナの前でアリスが難しい顔をして腕を組んでいた。
「やばい物でも出てきたのか?」
「そういうわけではないんですけど、少しご意見を聞きたくて」
「なんだよ改まって」
「これなんですけどどうやら5年程前の輸送コンテナみたいなんです。」
「それで?」
「中身はおそらく手紙や個人的な荷物ばかり、それもあって今までカーゴの奥で放置されていたと思われます。とりあえずスキャンしてみたんですけど、その中によくわからないものが入っていまして・・・」
一般的に郵便にはすべてタグが発行されていてスキャンすることで中身が分かるようになっている。
高い荷物には追跡チップが付いているけれど、残念ながらこういうやっすい荷物は場所までは追跡できないようになっているので開けたところで持ち主に返すことはできない。
そういうものは大抵無価値なものばかりなので開けたところで捨てるだけ、というはずなのだがどうやらそうでもないらしい。
折角なのでコンテナを空け、大量の手紙や小包をかき分けながらアリスの言うよくわからないものを探し出す。
「ありました!」
「あて先はつぶれて不明、差出人はわからないがラインコロニーの住所が書いてあるな」
「一体なんでしょうか」
「アリスにもわからないものが俺にわかるはずないだろ。まぁとりあえず開けるけどさ」
他人の荷物とはいえどうせ捨てられるだけ、それならと小包をばらしていくと
アリスにもよくわからない物、それはいったいなんなんだろうか。
中を開けて出てきたのは黒い塊、てっきり腐った何かかと思ったんだがどうやらそうでもないらしい。
大きさは親指と人差し指で輪を作ったぐらい、楕円形というか流線形をしており層のようになっているようにもみえる。
「これ、なんでしょうか」
「データか何かはないのか?」
「スキャンしてみても有機物とだけ、一応腐敗はしていないようです」
「うーむ、俺も初めて見るものだからさっぱりわからん」
星間データベースにすら載っていない不思議な物、そりゃアリスも驚いて俺達を呼び出すだろうなぁ。
他の物も一応調べてみたけど中身が分からないのはこれだけ、一応少額の現金とかもあるみたいだけど手を出すのもあれなのでさっさと仕舞って遺失物ってことで返却しよう。
「前みたいにヤバそうなものはないみたいだな。」
「そうですね、カーゴの半分も埋まっていませんので量としては少ないですがどれも現金化できるものばかりです。船も状態は悪くありませんのでデータを変えて売りに出してしまいましょう」
「やっぱり変えるのか」
「宙賊船となると買い叩かれますから、船は船として適正な価格で取引されるべきです」
「また例の方法でやるのか?」
「ふふ、腕が鳴ります」
最初に曳航した宙賊船は優しい店主の手によって高値で買ってもらう事が出来た。
中型の輸送船は同業にもそれなりに需要があるから予想よりも価格が安い場合は、ポーターさんに買取の打診をしてもいいかもしれない。
色々と貸しを作っているしここで返してもらってもばちは当たらないだろう。
そんなわけで予定通り宙賊を撃破俺達は輸送ギルドの仕事もしっかりと行いつつ、持ち込んだ物資をしこたま売りさばいてラインへと帰還。
中型船と残った物資の処分はアリスに任せてイブさんと俺は傭兵ギルドへと向かった。
「お!英雄様のお帰りじゃないか、大活躍だったらしいな」
「おかげさんで、聞いていた二倍の宙賊を相手にするとはおもってなかったけどな」
「討伐報酬も倍になってよかったじゃないか・・・って冗談だって冗談、そんな怖い顔するなよ」
「今のはエドガーさんが悪いでしょ。トウマさんお疲れ様、大変でしたね」
「まったくひどい目に合った。ま、それはそれとして・・・こういうのに見覚えないか?」
傭兵ギルドに来たのは依頼完了の報告と、こいつについての情報を仕入れる為。
カウンターの上に転がした例の黒い粒をエドガーさんとディジーに見てもらったのだが、二人とも首を傾げるだけだった。
「なるほどなぁ、データベースにもない有機物か。薬でもないんだろ?」
「そういう成分は一切含まれていない、単純な有機物どちらかというと植物の種子っぽい感じもある」
「え!本物の植物ですか!?」
「本物ってのは語弊がありそうだが、惑星産の樹木の中に似たような種子があると星間データベースに記載があったそうだがそれとは形が違うらしい。とはいえ似ているということはその可能性もあるわけで」
「コロニーで樹木の栽培は不可能、にも関わらずこんなものを持ってるってことはそう言う場所から来た人っていう可能性もあるな」
「惑星生まれか、珍しいな」
「えー、会ってみたいなぁ。惑星に住むってどんな感じか聞いてみたい!」
住所はわかっているわけだし一度行ってみるのもありか、もし持ち主なら返してやればいいしそうでないとしても何か情報を知っているかもしれない。
こうして正体不明の種子?の正体を探るべくディジーの案内でコロニーを探索することになったのだった。




