33.ひとまず無事に片付いて
「ご苦労だった。その~なんだ?大変だったな」
「下手な同情はよしてくれ」
「人の好みは好き好きっていうだろ?それに俺もあぁいうのは嫌いじゃない」
「そういうカミングアウトはお腹いっぱいだからさっさと状況を教えてくれ。まったく、なんで俺がこんな目に」
大通りを通りぬけ、監視の目が外れた所で無事に公安の用意した臨時の指令所へと帰還、戻るなり黒服のリーダーを含め主に男性達から憐みの目を向けられてしまった。
加えて女性たちからは軽蔑したような目を向けられている気がする。
まったく、これも全部アリスのせいだ。
「おかえりなさいませマスター」
「これで満足か?」
「はい。私たちは無事輸送ギルドから報酬を得ることが出来ましたし、公安は無事に麻薬組織の一人を確保することが出来ました。今後は押収した麻薬を使って仲間をおびき出すそうです。また、今回の件を受けてディジーさんの件は正式にお咎めなしと通達がありました。それと、今回の件ですが報酬が出るそうですよ」
「報酬?」
「流れとはいえ一般人に助力を頼んだわけだからな、規定に従い正式な報酬が支払われる」
「正式な報酬?口止め料の間違いだろ?」
商業都市ラインで麻薬が流通しているなんて事を公にすることは許されない。
たとえそれがこちらからの提案だったとしても情報流出を防ぐ為にそれなりの報酬を支払うことでことを収めようというわけだ。
まったく、これが公的機関のする事かと世の人は言うかもしれないけれど、それで万事丸く収まるのであればこちらとしてはありがたい話だ。
「世間一般にはそう言うかもな」
「アリス、また何かやっただろ」
「何のことでしょう」
「ったく、別の意味で公安に目を付けられるとか勘弁してくれよ」
「その心配はありません、そこも含めて念書を交わしておりますので」
「やっぱりなにかしたんじゃねぇか!」
このヒューマノイド、仕事が出来すぎるっても困りものだ。
ともかく、突然巻き込まれた麻薬騒動だったが一応無事に?抜け出すことができたらしい。
後はいつも通り仕事をするだけ・・・と言いたいところだけど、本当にこのままここで仕事をしても大丈夫か不安になってくる。
初仕事で宙賊を退治して次は麻薬騒動、どんどんことが大きくなっているだけに次は一体どんな仕事をさせられるのか。
そんなことを考えながらも、ひとまずソルアレスへと帰還した。
「本当にお世話になりました!」
翌日。
無事に無罪放免となったディジーは無事ギルドへ復帰できるそうだ。
どうやら不在にしている間にエドガーさんが色々手を回してくれたようで、体調不良での長期離脱という事になっているらしい。
表ざたになれば懲戒解雇もあり得た状況だけに、流石出来る男は違うな。
「ディジーさん、気をつけて帰ってくださいね」
「もう変な仕事は受けるなよ」
「さすがにもうこりごりですって。イブさん、また甘いもの食べに行きましょうね!アリスさんも!」
「ご連絡お待ちしています」
元気に手を振りソルアレスを離れるディジー、やれやれこれで本当にひと段落だ。
「行っちゃいましたね」
「さみしそうだな、イブさん」
「だって何を話しても驚いてくれるので」
「どんな話をするんだ?」
「えっと、トレーニングの話とか最近見たホログラムの話とか、あとトウマさんの話とか」
「俺の?そんな話題になるようなことあったか?」
「ありますよ、でも中身は内緒です」
うーむ、人を話のネタにしといて開示無しとは如何なものか。
まぁそれでコミュニケーションが円滑に回るのなら別にいいんだけどさ、最近自分の事をおもちゃにされすぎてあまり気にならなくなっている自分もいる。
それが良いのか悪いのかは別として、俺に迷惑が掛からないようにしてくれるならそれでいい。
他所で俺がどんな風に思われていようと知らなければなかったのと同じことだ。
ディジーが見えなくなるまで見送ってから船へと戻り、流れで一度キッチンへと移動し少し早い昼食を摂りながら今後について打ち合わせをすることに。
あまりにも濃密な一週間、この間までの俺には全く縁のない事ばかりだったなぁ。
「で、どうする?」
「それを決めるのは船長であるマスターの役割では?」
「俺一人で決められないから意見を聞いてるんだって」
「それならそうハッキリ言わないと伝わりませんよ。これまでのメッセージ履歴を見ましても、発言が中途半端すぎて相手に伝わらずそれで怒らせてしまったケースを何件も確認できます。今後はそういう部分もしっかりと見直していただかないと」
「・・・ういっす」
おかしい、ただどうするかについて聞いたはずなのになんで俺は責められているのだろうか。
っていうか過去のメッセージっていったいいつからいつまでの事を言うんだ?
「助けていただいた御恩もまだ返せていませんし、皆さんがよろしければご一緒させてください」
「もちろんです、ソルアレスの防御システムは今やイブ様無しでは機能しません。引き続きどうぞよろしくお願い致します」
「えへへ、頑張ります」
「あー、俺の意見は?」
「まさか右も左もわからないイブ様を外に放り出すつもりですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・、いえなんでもありません」
お前はしゃべるなと言わんばかりの鋭い眼光にそれ以上何も言えなくなってしまった。
普通のヒューマノイドであれば主人である俺にこういった態度を取ることはあり得ないけれど、アリスはその制限や制約のない骨董品・・・じゃなかったアーティファクトなだけにそういう事が出来てしまう。
ぱっと見はどこからどう見ても人間、義体の精巧さもさることながらそれを動かす部分もまた規格外。
ほんと、大昔ってのはなんでこんなとんでも作品をつくったんだろうか。
「今後についてですが、マスターには目標のようなものはございますか?」
「目標なぁ。ぶっちゃけ前まではただ宇宙をのんびり旅できたらと思っていたんだが、今はもしできたらって考えている物はある。笑うなよ?」
「それは笑えという振りですよね?」
「違うっての」
「まぁまぁアリスさん、いったいどんな目標何ですか?」
「辺境でもどこでもいい、惑星を買ってそこに住みたい。家を建てて畑を作って、コロニーでは絶対に出来ないことをやってみたいんだ。正直ディジーの話を聞いた時羨ましいって思ったんだよな、俺の宙ぶらりんな目標と違って明確なものがあってその為に行動する。まぁ、結果あんなめんどくさい事になったわけだけど、それでも行動できるのは凄いことだ。アリス、辺境の惑星なら買えるんだろ?」
「もちろん可能です。場所によって値段は違いますが、現在販売されている惑星もございます」
つまりこの目標は夢物語ではなく現実になる。
それこそ目標としてふさわしい物じゃないだろうか。
「惑星を買う、何も考えずに聞いたら笑い話になっちゃいそうですけど本当にできるんですね」
「ディジー様にもご説明したように最辺境であれば入植も可能です。現在の法律では最初に惑星に降り立ち、インフラを整え生活できるようにした人に所有権が認められます。もっとも、環境にもよりますがその費用はざっと10億ヴェロス程、まずは最辺境を目指しつつそれを貯めることを目標にされてはどうでしょうか。」
「航路にも載っていない最辺境か、このご時世に自分で開拓することになるとはなぁ」
「夢が大きいっていい事ですよね」
「まぁ、そうだな」
何がとはあえて言わない、大きい事はいい事だ。
そんなわけで次の目標が決定、ものすごく大きく果てしないものかもしれないがアリスとイブさんがいれば何とかなるような気もする。
1日で職も嫁も肉親も無くしたんだ、もう怖い物なんてない。
さぁ今日からその目標に向かって頑張っていこうじゃないか。




