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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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26.大量の依頼を引き受けてみて

「コレはちょっと積みすぎじゃないか?」


 カーゴ内は天井に着くんじゃないかってぐらいの物で埋め尽くされており、奥の一角に荷物を積めばかろうじて人が通れる隙間しか残っていない。


 中身はどれも日常的に使う物ばかり、稀に工業製品も混ざっているみたいだけど9割方日用品になっている。


「マスターが受けた依頼を考えるとこれぐらいは必要ですよ」


「受けたって言っても三つだけだろ?」


「いえ、5つです」


「ん?どういうことだ?」


「同じものを買うのであれば大量に買った方がディスカウントできますので、同方向へと向かう依頼を別途受けておきました。」


「確かにそのほうが効率的ではあるけれど・・・金は足りたのか?」


「皆様非常に協力的で、これだけ買っても僅か33万ヴェロスでした」


 この言い方をするってことはかなり値切ったんだろう。


 この前もそうだったけどリアルタイムの相場を武器に表情を変えずガンガン値引きをする姿は味方でいるうちは頼もしいけれど、やられているほうとしては恐怖以外の何物でもないだろう。


 おそらく普通に買えば50万ぐらいはするんじゃないだろうか、何とも恐ろしい話だ。


 ちなみにギルドで出している輸送依頼には二種類あり、一つは用意された物資を運ぶものと、必要とする物資を輸送業者が仕入れてそれを運ぶものに分かれる。


 今回引き受けたのはどれも後者、前者の依頼もそこそこあるけれどそれだと額面通りの報酬しかもらえないので省くようアリスに言われていたのだが、なるほどこういう事をしたかったのか。


 前者でも前の薬のようにかさばらないものも少なからずあるけれど、今時そんな小さなものを運ぶのはコロニー内ぐらいだろう。


「これで一体いくら儲かるんだ?」


「普通に行けば1.5倍程度ですが今回は品薄の場所を選びましたので目指せ2倍というところでしょうか。それでも燃料費を考えると大儲けとは言えませんね」


「これだけ仕入れてそれぐらいなのか」


「日用品でしたらこれが限界でしょう。もう少し輸送距離を長くすればもう少し増やせますが、ここを拠点にするのであればこれが限界です」


 物を運ぶだけで30万近く儲かるのであれば俺の感覚では十分多いように思えるけれど、世間の相場を考えるとまだまだなんだろう。


 俺の場合は最初から船を持っているが新規参入する場合は一般的な船を買うとしてもおよそ2000万ヴェロスはかかる。


 そこにカスタムを加えればもっと値段は上がるし、それをローンで支払っていくとなると燃料などの消耗品費を差し引くと儲けなんてのは雀の涙だ。


 そうなると必然的に儲けの良い長距離の仕事や宙賊退治を選ぶことになり、こういった比較的安い依頼は受注されなくなるというのが今の流れ。


 世知辛いがこれが今の輸送業の現状なんだろうなぁ。


「アリスさん、最後のコンテナが到着しました」


「ありがとうございます、搬入はお任せしてイブさんは船に戻ってください。後一時間で出港します」


「わかりました!」


「姿が見えないと思ったら外で荷受けをしてくれていたのか」


「トレーニングの一環と言って人力で運ぼうとするのが困りますが、助かっています」


「このコンテナを人力で?」


「因みにすこしだけ持ち上がったりします」


「・・・マジか」


 アリス曰く中身の軽い物だったとは言うけれど、軽量金属製のコンテナを人力で持ち上げようなんて馬鹿げた話だ。


 それをやってしまうあたり・・・うん、普通と違うよなぁ。


「そういう事ですから一時間後には出航です、マスターも準備をお願いします」


「準備って言ってもなぁ、座ってるだけだろ?」


「もしお暇でしたらカーゴ内の点検をお願いします。問題はないと思いますが、搬入時に傷がついていると嫌なので」


「へいへい、了解」


 マスターは座っているだけでいいんですとは言われるけれど、皆が働いている中何もせず座ったままでいられるほど神経が太いわけではないのでハンガーへと移動して積み込まれるコンテナを確認。


 天井高くまで積み上げられている様子は圧巻の一言、最後のコンテナを積み込めば隅の方に1m四方の隙間が残っている程度だ。


 昔の作品でよくカーゴに隠れるシーンがあるけれど実際はマイクロチップで管理されているので余所者が乗り込めばすぐにわかってしまうし、そもそもこんな狭い隙間で隠れ続けるのには無理がある。


 排泄物をどうするんだっていう話もあるし何より食べ物がない。


 出発すれば最低でも二・三日は出たままになるしその間氷点下になるカーゴに居続ければとうしすること間違いなし。


 以上の事から密航がいかに難しいかがよくわかるだろう。


 もっとも、事前に準備をしていたのなら話は別だがそれもまた空想の話だ。


「アリス、隅々まで点検したが異常なしだ」


「ありがとうございます。出航まであと三十分、カーゴハッチを封鎖しますので早めにお戻りください」


「りょうか・・・い?」


 外へとつながるハッチに異常が無いかを確認して上に戻ろうとしたその時だ、どこからか人の声が聞こえたような気がした。


 いやいやそんなまさか、この中に密航者が?


 よく聞くと聞こえてくるのはハッチの外、顔を出すとまさかの人物がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。


 何で彼女がこんなところに。


 密航やトラブル回避のために基本ハンガーに一般人立ち入り禁止、ソルアレスを止めている四番ハンガーには俺たち以外入れないはずなんだが・・・。


「トウマさん助けてください!」


「おいおいディジー、一体どうしたってんだ?」


「いいから早く!見つかったら殺されちゃいます!」


「殺されって・・・、まったく終わったら説明しろよ。アリス!今すぐにハッチを閉めろ!それと、イブさんを至急カーゴに呼んでくれ!」


「了解しました、ハッチを閉鎖します」


 飛び込んできたディジーさんを慌てて抱き留めると同時にゆっくりとカーゴハッチが閉まり始める。


 殺されるなんて言う言葉が出るくらいだ、面倒ごとに巻き込まれているらしいけど俺達まで巻き込むのは勘弁してほしい。


 とはいえ顔なじみが困っているのを見捨てるわけにもいかないわけで、決して押し付けられている乳と足の圧力に負けたわけじゃない。


「トウマさん、イブです!」


「こっちに来てくれ!」


 イブさんの声に抱き着いていたディジーさんを慌てて引っぺがす。


 足を絡めた拍子に制服のミニスカートがめくれてしまって色々と誤解を受けそうな感じになっているがそれを直している時間はない。


「ディジーさん?なんでこんなところに」


「よくわからんが命を狙われているらしい」


「命を!?そんな、いったい何が・・・」


「マスター、向こうからセキュリティの方々が数人向かってきております。三分だけ時間を稼ぎますのでお急ぎください」


「了解!ほら、早くここに入れ!」


 なんだかよくわからないがここに隠れられる場所は一つしかない。


 先程見つけたカーゴの隅、ちょうど人がギリギリ入れる隙間が空いていたのでそこにディジーを誘導する。


「こんな狭い所は入れませんよ!」


「入るしかないんだよ!ほら、頑張れ!」


「いたたた、胸が!お尻が裂けちゃう!」


「頑張れ!」


 セクハラとかそういうのを気にしている暇はない、イブさんと二人で引っかかっているディジーさんの魅力的な部分を押して押して押しまくって何とか隙間へ入れることに成功した。


 後は隙間を塞いでしまえば・・・。


「全員そこを動くな!」


 カーゴ内に響く野太い声、振り向くと黒服の男たちが銃を構えて立っていた。

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