139.新しい目的を見つけて
アリスの提案は至極簡単な物だった。
彼らが愛するヒューマノイド、それをどこで作ったのか教えてもらうただそれだけ。
たったこれだけの提案ではあるのだが彼らは途端に口を閉ざし、三人で顔を見合わせる始末。
さっきまであんなに騒ぎまわっていたのに出所を言うだけでこの感じは・・・どう考えても普通じゃないな。
だがこっちには大事な大事な人質?がいるので、最終的にそれを白状させられ身ぐるみ・・・ならぬ隠し持っていたものを全て奪われたうえで開放された。
「とりあえずこれでひと段落か」
「そうなりますね。逃げられたのは大変悔しいですが、いずれどこかで会うこともあるでしょう」
「回収したこれらはどうしますか?」
「とりあえず現金は足がつくので早々に別の物に変えてしまいましょう。レアメタルは補完、その他骨董品はしかるべき時が来るまで保管しておきます」
「こんな動かない人形が10万ヴェイル?よくわからん世界だなぁ」
押収したものの中には現金やレアメタルの他、大航海時代に持ち込まれたと思しき人型の玩具やホログラムがあった。
最初は子供向けと思って軽く触っていたけれどアリスから価値を教えてもらったら急に触れなくなってしまったぐらいだ。
手のひらに載るぐらいの精巧なヒューマノイドを模した人形。
顔はまぁ可愛らしい感じだし服もかなり凝った作りになっているのは分かるけれども、それが10万を超えるなんて誰が想像できるだろうか。
俺の退職金と同じだぞ?
同じく回収した人形をローラさんとイブさんが興味深そうに眺めている。
女性はまぁ人形遊びを経験しているだろうけど、俺はそいうの通ってこなかったからなぁ。
「確かに高いですけど、それ相応の可愛さがありますよね」
「ですね、これなんて髪の毛がとっても自然で洋服も素敵です」
「動かないフィギュアだからこそ価値があるそうです。昔はこれを作るだけで家が建ったとか建たないとか、どの時代もこれらを愛する人はいるという事ですね」
「その最終形態が彼らか。あのヒューマノイド一体でいくらかかってるんだっけ?」
「1000万はくだらないでしょうね。教えてもらった工房を検索しましたが、おおむねそれぐらいでした」
「高すぎだろ」
「まぁ使われているものが特殊な物ばかりですから。あ、私もその部類に入りますよ?」
アリスの場合はただのヒューマノイドだけでなく骨董品という別の名前がついているから値段で言えばその数倍の価値がある。
しかも彼らのヒューマノイド同様セクサロイドとしての機能も有しているので、教えてもらった工房の最上級品と同じ扱いになるのだろうか。
もっとも、そっちの用途で使う気はさらさらないけれども。
「だからどうした」
「もっとそっちを活用してくださるといいんですけど」
「残念ながらそのつもりはない。で、これからどうするんだ?教えてもらった工房に行くのか?」
「そうですね、折角行くんですからその工房だけでなく色々と見て回るのも面白いかもしれません」
「ヒューマノイドメーカーか、シップメーカーならまだしもそっちは興味ないなぁ」
さっきも言ったが人形系には全く興味がないので、そこまでの魅力を感じない。
もちろん行く理由が別にあるからってのもあるけれども、行ったところで楽しめるかどうかは話が別だ。
「わ、私は別にそこまでしなくてもいいけど?ほら、今回失敗しちゃったし・・・」
「失敗って言ってもアリスちゃんでも太刀打ちできなかった相手でしょ?仕方ないわよ」
「そうですよ。それに、一緒に買い物とかできるようになったらもっと楽しいと思うんです。あ、でもこのホログラム通りの姿になるかはわからないんですよね?」
「それを再現するために工房に行くんだろ?確かに可愛いが・・・そもそもなんでこの姿なんだ?」
「それはご自身の胸に聞いてみてください」
自分に聞いてみろと言われてもさっぱり見当がつかないんだが?
俺の好みはもっとこうスタイルのいいタイプ、その点テネスは対極にいる。
アリスもどちらかと言えば大人しい感じだしそもそも年下には興味はないわけで。
そもそもの話何故アリスが彼らにあんな提案をしたのかというと、それはずばりテネスの為だった。
テネブリス、普段はカーゴ内に格納されている彼女だがソルアレスの中にいる限りはホログラム投影機能を使て姿を現すことができる。
本来無人機の中に搭載されているだけのAIなので肉体を必要とすることはないのだが、今回のようにアリスが集中的に作業をするとなるとその代わりを引き受ける役が必要となる。
もちろんオペレーティングだけならホログラムで十分なのだが、大きくなったソルアレスの掃除や維持管理を考えると物理的なボディがあったほうが色々と都合がいい。
確かに大きくなったことで掃除する場所も増えてしまったし、家事全般をやってくれる人がいると非常に助かる。
なんだかんだ言いながらもテネスの事を気に入っているアリスだからこそ、自分と同じ肉体?を与えてあげたいのかもしれない。
そしてそのボディは自分と同じぐらい優秀でなければならない、その結果から導き出されたのが彼らから教えてもらった工房というわけだ。
「しかし1000万かぁ・・・そんな金どこから出るんだ?」
「彼らから回収した品を売ればそれなりの金額になりますし、今回得た情報をちらつかせれば多少の値引きにも応じてくれるはずです。もちろんテネスのボディだけじゃなくほかにも色々と見たいってのもありますけどね」
「というと?」
「せっかくカーゴが大きくなったんですから撃墜した宙賊船から物資を回収するドローンがあれば今以上に回収効率も上がりますし、乗り込まれた時用に警備ドローンを配置するのもいいかもしれません。宙賊を撃墜すればするほど彼らの中で私達への反感は大きくなりますから、今後を考えて配置するのも悪くないでしょう」
「つまりその現物を見にヒューマノイドメーカーの集まるコロニーに行くべきだという事ですね」
「彼らから教えてもらった工房もそこにありますのでちょうどいいかと」
なるほどなぁ・・・
ぶっちゃけ今はそこまでの必要性を感じないんだけど、行く方向は同じなので行かない理由もない。
まぁ見るだけ見て結局買わなかったというのもアリだろう。
それに、ノヴァドッグ同様メーカーの集まる所には仕事もたくさん集まってくる、輸送業者として働くのなら大きいコロニーはうってつけだ。
「わかった、方向も一緒だしとりあえずそこに向かうとしよう」
「ありがとうございます」
「テネスちゃん、コロニーの座標を送ってもらえる?」
「ちょっと待ってて・・・はい、送ったわ」
「なるほど、ここから一週間弱ってところね。念のため途中の中継コロニーで燃料を補給してから行きましょう。それでいいわよね?」
「問題ありません」
「オッケー、それじゃあ早速出発するわよ」
次なる目標はヒューマノイドメーカー。
テネスの新しい体を手に入れるべく新たな目標へと向かってソルアレスは動き出した。




