138.めんどくさい連中を捕縛して
テネスが逃げた一機を追いかけている間に俺達はハッキングしてコントロールを奪った三機の検分を進めることにした。
とりあえず船を航行不能にして順番に揚陸チューブを使って向こうの船に移動、多少の抵抗はあったもののイブさんの活躍により無事に犯人を捕縛することに成功した。
捕まえたのはどれも若造、さっきまで死ぬだのなんだのギャーギャー騒いでいたのだが、いざ捕まえると黙秘権がどうの拘束は違法だの別の方向に騒ぎ始める。
余りにもうるさいのでカーゴに放り込んだものの、自分たちがやったことがどれだけヤバいのか自覚が無いんだろうか。
手足を拘束されたまま無造作に転がされながらも、ものすごい目つきでこちらを睨みつけてくる。
かと思ったらアリスをじっと見つめたりと忙しいやつらだ。
「まったく、こいつら・・・」
「どうしますか?今すぐ宇宙に放り出しても問題ありませんが」
「それも一つだな。とりあえず放り出しておいて残った船はそのまま売ればいいし、ヒューマノイドもいい値段が付くんじゃないか?」
「おい!彼女には手を出すな!」
「そうだ!あの子に何かしたらただじゃおかないからな!」
「俺も・・・でも、その子と交換なら・・・」
「「おい!」」
三人のうちアリスに見惚れていた一人が裏切りの発言をした瞬間に二人がツッコミを入れる。
こんな状況にもかかわらずなんとも仲のいい奴らだ。
今回捕縛した船にはなかなか高価なヒューマノイドが一体ずつ同乗していた。
護衛ソフトがインストールされていたのか船に入るなり襲い掛かってきたものの、即座にイブさんが拘束してアリスがハッキングをかけて無力化。
今は船内に放置しているがどれもかなりの金がかかっているのは間違いない。
アリス曰くヒューマノイドメーカーのオーダーメイド品らしく、船に残っていた記録から想像するとざっと1000万ヴェイルはかかっているんだとか。
ヒューマノイドが出てきた当初から少なからずそれしか愛せない特殊な人たちが出てきたことはあったけれども、彼らもその類なんだろう。
別に人の性癖にとやかく言うつもりはないが、そんなに大事ならこんなバカみたいなことするなっての。
「黙りなさい、これ以上騒げば物理的にしゃべれなくしますよ」
「俺達はどうなってもいい、だがあの子には手を出さないでくれ!」
「お願いだ!」
「この通り!」
「いや、どうなってもって死んだらあのヒューマノイドを誰が使うんだよ」
「俺達が死ねば自由になる、そういう風にプログラムしてるから問題ない」
「ん?」
「自由に・・・ですか?」
「そうだ、俺達が死ねばそれぞれが俺達の代わりに自由にこの世界を生きてくれる。俺達と生きた記録と共に一生生き続けるんだ」
「それが究極の愛!」
「ヒューマノイドは永遠に生きる、つまり俺達の愛も永遠だ!」
拘束されながらも芋虫のようにもぞもぞ動きながらヤバイやつらがヤバイ台詞を吐いている。
前言撤回、人の性癖についてとやかく言うつもりはないが・・・こいつらはマジでやばい。
「はぁ、頭が痛くなってきた」
「私もです。ネットワーク上に変わった人はいくらでもいますが彼らは筋金入りのようですね。それで、どうしましょうか」
「外に放り出した方が世の中平和になりそうだが、流石に殺すのはなぁ。犯罪の証拠はあるからコロニーに突き出せばそれなりの処罰は受けることになるだろ?」
「無断でハッキングを行い私達を襲い物資を強奪しようとした強盗罪、加えて不確実な噂を流してコロニーを混乱させた反乱罪、甘く見ても宇宙刑務所に10年最大で30年と私財の没収というところでしょうか。彼らの家が家ですから何かしらの手が加えられる可能性はありますが、今までのように自由に過ごすことはできないでしょう。それこそあのヒューマノイドとは二度と会えないかと」
「じゃあやっぱり俺達が売るしかないか」
「ですね」
騒ぎまくっていた彼らも自分たちが犯した罪の重さにだんだんと静かになっていく。
最初からこれぐらい静かにしていたら多少甘く見てやってもよかったんだが、とっくにその気もうせてしまった。
さて、どうする・・・。
「マスター、こちらへ」
「ん?」
「イブ様彼らの監視をお願いします」
「わかりました」
突然アリスに呼ばれそのままカーゴの外へ、ハッチが閉まるのを確認してから廊下を少し移動する。
あの場で話さないという事は彼らに聞かれたくないという事なのだろう。
彼らはもう捕縛したわけだし隠すようなことはないと思うんだが・・・。
「どうした?」
「申し訳ありません、逃げ出した一機を取り逃しました」
「マジか、テネスを中継して二重ハッキングを仕掛けてたんだろ?」
「そうだったのですが想像以上に固い防壁に守られており内部に痕跡をつけるのが精一杯でした。あれはテネスの手には負えません、私の判断ミスです」
「アリス達ですら突破できないような奴がいるのか。宇宙は広いな」
「時間をいただければどうにできると思いますが、いかんせんテネスの燃料もありますし距離が離れれば離れるほどこちらのアクセスも弱くなります。ですが次に出てくれば確実にわかりますので、どうかお待ちください」
「とりあえずテネスには戻るように伝えてくれ。逃げられたとはいえ主犯の三人は捕まえたんだ、あとはこいつらを出すところに出して報酬を貰えばこれで終わり。無駄に時間をくってしまったしさっさと次のコロニーへと向かおう」
「それなのですが・・・」
この宙域でやるべきことはやった、あとはこいつらを出すところに出してさっさと次に行こうかと思ったのだがアリスから思わぬ提案が出てきた。
なるほど、確かにそれは俺も思っていたが・・・そういう使い道もあるのか。
捕まえた三人はどれもその道に精通している感じだし、いい情報を引き出せるかもしれない。
打ち合わせを終えカーゴに戻ると、沈痛な面持ちの三人がイブさんに向かって頭を下げていた。
「なんだこれ」
「静かにしていたかと思ったら、どうしてもあのヒューマノイドだけは解放してくれと懇願されていまして・・・。」
「頼む、俺達はどうなってもいいから彼女達だけは解放してくれ!」
「この通りだ!」
「金ならいくらでも払う!だからあの子だけでも、お願いだ!」
普通は自分の命を金で買うものだが、この状況でもあのヒューマノイドたちの身を案じるのか。
俺には到底理解できない考え方だ。
「そんなにあのヒューマノイドが大事なのか?」
「当たり前だろ!彼女は俺のすべてだ、あの子がいなかったら今の俺はないしあの子の為なら俺は死ねる」
「死ねるって、ただのヒューマノイドだろ?」
「違う!彼女は特別だ!」
「そうだ!ほかのヒューマノイドと一緒にするな!」
「あんただってあのヒューマノイドがいるじゃないか。あんな風に話ができる子が特別じゃないはずがない、あの子の為ならどんなことでもできるだろ?」
どんなことでも?
うーん、それに関してはなんとも言えないなぁ。
今の俺にとってアリスは必要不可欠な存在だし、その存在があることでこうやって新しい生き方が出来ている。
でもそれはそれ、どんなこともできるかと聞かれると何とも言えないわけで。
彼らと明らかに違う温度差、これが癖というやつなんだろうか。
「では、そんな皆さんにご提案があります。もしこの提案を飲んでくださるのなら、あのヒューマノイドに手は出さないと約束しましょう。ですがそれが出来ないというのであれば・・・答えは分かりますね?」
必死に懇願する彼らを前にアリスが慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら話しかける。
その表情とは対照的にやろうとしていることは中々にゲスい。
よくまぁそんなことを思いつくものだと思いながら、彼女の提案に耳を傾けるのだった。




