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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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137.相手をおびき出して

「皆様お疲れ様でした」


 コロニーへ戻るとアリスが得意げな顔で俺達を迎えてくれた。


 どうやら逆ハッキングは成功したらしい、それだけでもあんなことをした甲斐があったってもんだ。


「首尾は?」


「テネスが作ったバックドアを通じての逆ハッキングは無事成功、ソルアレスに大量のレアメタルを積んでいるという情報を偽装してあります。価格にしておよそ5000万ヴェイル、あの熱演のおかげで非常に作業が捗りました」


「それは褒めてるのか?」


「もちろんです、特にローラ様の演技は素晴らしい物がありました」


「悪かったな、大根役者で」


 確かにローラさんの演技はすごくて思わず信じてしまいそうになったぐらいだ。


 好みのタイプではあるけれど、こっちからお願いしてきてもらっている船員に手を出すわけにはいかないわけで。


「積み荷はどうしますか?」


「イブさんに頼んで引き取り手を見つけてあります。少々損は出ましたが、許容範囲ですのでお許しください」


「まぁそれは仕方ない。でもわざわざ空荷で行く必要はあるのか?」


「それはもちろん・・・奪う覚悟があるのなら奪われる覚悟もあるという事です」


「確かに」


 相手は宙賊じゃないかもしれないけれど、やろうとしていることは宙賊そのもの。


 そんな相手に容赦する必要はないし俺達を馬鹿にした罪を償わせるには身ぐるみは愚ぐらいじゃ物足りない。


 もっとも、何かを積んでくるかどうかはわからないけど。


 しばらくして戻ってきたイブさんと一緒に大量のピュアウォーターをカーゴから降ろし、演技通りの記録を作る。


 嘘をつくときは真実も一緒に混ぜておくとバレにくいらしく、あの時の演技の通りコロニーでピュアウォーターを売却してしっかり事実を作っておく。


 後はレアメタルを積み込むだけ、これに関しては現物がないので奴らに組み込んだバックドアを通じて偽の映像を流しておけば問題ない。


 大量のレアメタルを積み込んだソルアレス、5000万かぁそれぐらいほしいよなぁ。


「そういやバックドアをつけられたってことは連中の正体についてもはわかったんだよな?」


「もちろんです。とはいえどれも小者でめぼしい情報は得られませんでした。どうやら昔からこの手の事をやっては楽しんでいたようですね、今回はその規模を広げたことで話が大きくなってしまいましたが結局は他人が慌てているのを見て喜ぶ程度の残念な人たちでした。まぁしいて言えばお金は持っている、というところでしょうか」


「金はあるのにレアメタルは欲しいのか」


「いくらあっても困りませんし、彼らもただ見ているだけでは飽きてきたようです。もっとも、そのたった一度の火遊びがこれから大炎上するわけですが」


「まぁ相手は宙賊じゃないみたいだから命までは取らないようにな」


 聞けば年齢もそんなに高くない若者らしい、たった一度の火遊びが俺達の逆鱗に触れてしまったのは自業自得なので全く擁護することはできないが、まぁいい勉強にはなるんじゃないだろうか。


 翌日。


 準備を済ませた俺達は静かにコロニーを出発し、演技の通り隣のコロニーまでの航路をとる。


 本来であれば往来の多い航路を通るのだが世間様の目もあるのでわざと離れた場所を通ることになったようだ。


「レアメタルを積んでるって設定なのに本当にこの航路でいいのか?」


「問題ありません。彼らも民間船を襲うんですから人目がない方がありがたいはず、向こうもハッキングを仕掛けてわざと航路を変更するつもりだったようですからその手間を省いてあげただけです」


「そしてまんまとおびき寄せられると」


「予定通り四隻の船がこちらへ向かってくるはずです、バックドアを作ることができなかったもう一隻については全く情報はありませんが・・・まぁ何とかなるでしょう」


「感づかれている可能性は?」


「もしそうだとしたら彼らに忠告しているでしょう。ですがそのような形跡はありませんでしたし、襲われるとわかって現地に来る理由もわかりません」


 一般航路を離れて飛行すること数時間いよいよその時はやってきた。


 自室で寛いでいたところへアリスから通信が入り急いでコックピットへ向かうとレーダーに映し出される四つの反応、それがゆっくりとこちらへと向かって来ている。


「状況は?」


「30分程前に四機の民間機が集結し現在ゆっくりと接近中。ハッキング圏内に入ったところで一気にこちらのコントロールを掌握、空気の排出などを行いながら我々を脅してレアメタルを奪うつもりのようです」


「なんとも甘い考えだな、やるなら殺してからの方が早いだろうに」


「それをするだけの勇気がないのでしょう。彼らからすればあくまでも遊びの延長線上、殺しはそれを超えていますから」


「その遊びもやりすぎればってやつだな。悪い子には灸をすえてやるのも大人の務め、ハッキングされた後は?」


「逆ハッキングにより彼らの船を航行不能にし物資の提出を命じます。問題はバックドアのない一機ですがこれはテネスに頑張ってもらおうかと」


 ん?


 そこで何でテネスが出てくるんだ?


 相手は民間船、そりゃやろうとしていることは犯罪ど真ん中だが撃墜する必要はないだろう。


「まさか撃墜する気か?」


「そんなことはしませんよ。ただ、彼女を中継機にして二人同時にハッキングを仕掛けるだけです。あの時は逃げられましたが物理的に近づいて来たこの機を逃す手はありません」


「なるほど」


「証拠は全て確保済み、あとはそれを突きつけてやれば私達の勝ちです。おっと、近づいて来ましたね。ローラさんここからは私の指示で速度管理をお願いします」


「オッケー、任せといて」


 速度を上げて向かってくる四機、メインモニターに表示されているハッキング可能範囲が示された円がソルアレスと重なった次の瞬間、非常アラートがコックピットに鳴り響いた。


「ハッキングを感知、これより逆ハッキング開始します。速度を一割落としてください。テネス、見えてますね」


「当たり前じゃない、とりあえず手前の二機貰うから」


「逃げたらすぐに追うんですよ?」


「言われなくてもわかってるわよ!」


 コックピット中にアラートがあり響いているというのになんとも平和なやり取りだ。


 アリス曰く一時的にハッキングさせたように見せかけ近づいてきた所で一気に向こうのシステムを掌握するらしい。


 ハッキングさせるのもアリスが作り出したおとり用システム、しかもバックドアを通じて逆ハッキングしているのであたかもハッキングが成功したかのように見せる手の込みようだ。


 コックピットに響き渡っていたアラートが急に静かになり、薄暗くなっていた照明が元に戻る。


「あー、テステス。聞こえてるな?よし、この船のシステムは全て俺達テンペストが掌握した。」


 聞こえてきたのはまだあどけなさの残る声色をした男の声、ハッキングが成功してテンションが高くなっているのか通信越しにそんな雰囲気が伝わってくる。


 もう少しでレアメタルが手に入る、そんな期待に心を弾ませているんだろうけど残念ながらそれもあと数秒で終了だ。


「何をするつもりだ?」


「お前たちがレアメタルを積み込んでいるのは分かっている、抵抗せず差し出すなら命までは取らないが、もしそうでないのなら・・・ってあれ?なんで俺達の船から空気が・・・、くそ!エラーが!おい、何とかしろ!」


「こっちだって何がどうなって・・・やめろ!空気が!死んじまう!」


「みんな落ち着け、今すぐシステムを切り落として・・・なんでシャットダウンできないんだよ!まさか俺達がハッキングされたのか!?」


 さっきまでの勝ち誇った雰囲気はどこへやら、ハッキングしたはずが逆にハッキングされたとわかり通信を繋いだまま大騒ぎをしている。


 なんとも間抜けな奴らだ、お前たちがハッキング出来るってことはこっちもできるって考えないのだろうか。


 アリスの方を見るとドヤ顔でサムズアップしてくるのであえてスルーすることにした。


 さて、あとはこいつらに現実を突きつけるだけ・・・。


「一機逃げたわ!」


「テネス、しくじりましたね?」


「あんな複雑な防壁超えられるわけないでしょ!出るわ!」


「テネブリス射出します。自分の失態は自分でカバーしなさい」


「わかってるわよ!」


 掌握した三機がソルアレスの近くで停止する中、残っていた一機がエンジンをフル回転させ逃げ出した。


 あれがバックドアを作れなかったっていうやつなんだろう。


 どうやらハッキング出来ないように向こうも手を加えていた様子、アリスは失態だっていうけれどこれもまた作戦通りでもある。


 後はテネスを中継機にして二人同時にハッキングをすればいくら凄腕の相手でもなんとかなるだろう。


 さて、二人が頑張っている間に俺は残りの船を確認しに行くかな。

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