135.出所が判明して
アリス達に徹底調査を頼んだ後、二時間ほどふて寝をしてから再びコックピットへと向かう。
「おはよう」
「おはようキャプテン。あら、ひどい顔よ?」
「顔がひどいのは昔からだが?」
「もぅ、そういうのじゃないけど。それで何かあったの?」
そんなに心配されるような顔をしていただろうか、思わず自分の頬を触るとそれを見たローラさんが優しげな眼をこちらに向けてくる。
まるで子供を見た母親のよう、これが母性というやつか。
「二時間ほど前にアリス達に起こされたんだが、どうやら噂になってた例の再処理プラント故障とかは全て偽装だったらしい。どこぞの馬鹿が噂を流してよろしくないことをしてやろうと狙っているみたいだ」
「そしてまんまとそれに乗っかっちゃってご機嫌斜めなわけね」
「そうみえるか?」
「えぇ、でも損失はないんでしょ?」
「ピュアウォーターはどこでも売れるからな、利益は出なくても損失が出ることはない」
「じゃあいいじゃない。それに、アリスちゃんたちの姿が見えないってことはその連中をぎゃふんと言わせる方法を探してるってことだし、すぐに判明するんじゃない?」
まぁ損失が出ないのはありがたいんだが、それとこれとは話が違う。
とはいえほかのメンバーにわかるぐらいに機嫌が悪いってのはよろしくないので、ちょっと体を動かしてリフレッシュしてこよう。
その足でカーゴへと向かいピュアウォーターの入ったコンテナに囲まれながら柔軟を開始する。
ふと目線を奥に向けると、テネブリスの格納されているコンテナから唸るようなエンジン音が聞こえていた。
恐らく中で情報収集してくれているんだろう。
「なによ、そんなに見てもただの箱なんだから意味ないわよ?」
「アリスに言われて例の連中を探してくれてるんだろ?ありがとな」
「別に、あいつに言われてやってるだけだし」
姿は見えないがカーゴ内のマイクを通じてテネスの声が聞こえてくる。
相変わらずアリスをあいつ呼ばわりしているみたいだが、序列的には彼女の方が下らしい。
それが実力なのかそれとも生まれた順番なのかは定かではないけれど、まぁ仲良くやってくれればそれでいい。
色々話してみて思ったけど、ぶっきらぼうな感じだが案外真面目だったりするんだよな。
それからしばらくはテネスと話をしながらカーゴで汗を流し、シャワーを浴びて体も気分もスッキリしてから再びコックピットへ。
するとアリスとイブサンを含めた全員が集合していた。
「トウマさん、おはようございます」
「おはようイブさん。そしてアリスがここにいるってことは判ったのか?」
「期待に沿えるよう全力を尽くしましたから。あれからたった四時間で犯人をほぼほぼ特定したんです、褒めてくださってもいいんですよ?」
「ほぼほぼ?」
「話していたと思しき連中四人のうち三人の所在を突き止めました。ただ、残る一人は残念ながらまだ発見には至っておりません」
あのアリスが見つけられないって中々じゃないか?
軍のブラックボックスですら開けてしまうような奴だぞ?それを防ぐって・・・ちょっと考えられないんだが。
「アリスちゃんでも難しいって相当な相手なのね」
「書き込みを一つするにしてもハブをいくつも使っているみたいで痕跡が読みにくいんです。しかもわざわざ他人のヒューマノイドをハッキングしてそいつにハッキングさせて、みたいなめんどくさいことをしてて。まるで私が追いかけてくるのがわかってるみたいです」
「アリスを知ってる?」
「知っているというか、私みたいなのに追いかけてこられないようにってことです」
ハッキングとかそういうのが得意だからこそ自分みたいなやつが追いかけてこないか気を使っているってことか。
とりあえず三人までは判明したみたいだしそいつらから辿っていくしかない。
「なるほどなぁ」
「彼らの書き込みを見る限り例の噂を聞きつけてやってやってきた船を捕まえようとしているようです。ただ、どの船でもいいわけでは無くより高価な積み荷を積んでいる船を待ち構えているそんな印象を受けました」
「という事は宙賊なんですか?」
「どうやらそうとも言えないんですよね。宙賊なら誰彼構わず襲うでしょうしわざわざハッキングなんてしないと思うんです。愉快犯というか自分たちの実力を見せつけたい、そんな感じがあります」
「愉快犯がこんな噂を?」
「さっき書き込みを見せてもらったけど、確かにそんな感じはあったわよね」
ローラさんに言われて書き込みを見ると、レアものとかそういう発言があるだけに何か特別な奴お捕まえて金儲けがしたいそんな感じがある。
宙賊のように誰彼構わず金になる奴を襲うのではなく、噂を聞きつけてやってきた間抜けかつレアな物を積み込んでいるような奴を探しているんだろう。
自分たちの手でそいつをおびき寄せ船のコントロールを奪って物資を強奪、それを売って遊びたい。
まるでゲームのような感覚で船を襲い大事な物を奪っていく、そんなことが許されていいはずがない。
「で、どうする?」
「まずはピュアウォーターを積んだままソルアレスで現場に向かいわざとハッキングさせます。ただし侵入先がテネスになるように誘導し、ハッキングしてきた相手にバックドアを仕掛けてこちらからやり返します」
「そんなことして大丈夫なのか?」
「相手が尻尾を見せない以上こちらから乗り込むしかありません。その際に偽の情報を拾わせ、次に私達がレアな物資を持ってこさせると思わせるんです。そうなれば彼らは私達を泳がせるしかないでしょうから、また同じ場所へ向かえば姿を現すことでしょう。あとはそれを返り討ちにすればミッションコンプリートです」
「そう簡単に言うけど相手はアリスを騙せるような奴なんだろ?」
「だからテネスに侵入させるんです。一応彼女にも偽装はかけますし、重要な部分には複数の防壁を張りますので彼女そのものが壊されることはさせません。まぁバックアップもあるのでいざとなったら切り離して復活させますけどね」
死んでも生き返らせるから大丈夫みたいなことを言っているけれど、それは本当にテネス本人と言ってもいいんだろうか。
大昔の人が順番にパーツを交換してすべての部品を入れ替えた時、それは元の船を言えるのかみたいなことを言っていたけれどそれと同じ感覚になってしまう。
なにより囮にされる彼女に許可を取ってなさそうな感じなんだが・・・、AIってそんなもんなのか?
「なんにせよそうするしかないか」
「別に無視して先に進むこともできますけど、マスターはそうじゃないんですよね?」
「俺はともかくアリスが馬鹿にされたままってのは癪だからな。そんなことをするような連中にはきっちり上には上がいるっていう現実を教えてやらないと」
「さすがキャプテン、かっこいいこと言うじゃない」
「わかりました、では早速準備に入ります」
「テネスちゃんは大丈夫なんですよね?」
「心配には及びません。彼女もAIの端くれ、餌になったところで食われるだけでは終わりませんよ」
テネスの事を下に見てはいるようだけど、それなりに彼女のことも評価しているってことだろうか。
ともかくテネスという大きな餌を使って愉快犯と思しき犯人を釣り上げることが決定、あとは奴らが食いつくかどうか。
はてさてどうなることやら。




