134.噂の真相を追いかけて
様々なうわさが飛び交う中、とりあえずその日は自分のしたいことをすることにした。
色々考えたところで答えが出てくるわけでもないし誰かが裏にいた時に踊らされるのは非常に悔しい。
今は不確定な情報が多いので少し時間をおいてから、というわけでアリスとテネスの二人に情報収集と情報解析をお願いして眠りについた。
「マスター、よろしいですか?」
「ん・・・」
「お休みのところ申し訳ありませんがコックピットまでお願いします。新し情報が入ってまいりました」
「わかった、すぐにいく」
時計を見ると起床時間よりも2時間ほど早かったけれど、わざわざ呼び出すぐらいだから何かわかったんだろう。
重たい体を起こし大きく伸びをしながら固まった筋肉をほぐしていく。
最近年のせいかすぐに体が強張るようになった気がするんだが、メディカルポッドに入ってもそこは言われないんだよなぁ。
体全体をゆっくりとほぐせるようなマッサージとか温浴施設とかそういうところに行きたい気分だ。
「おはよう」
「おはようございますマスター」
「あれ、他の二人は?」
「まだお休み中です」
「さよか」
てっきりみんな起こしたのかと思ったけど、情報共有だけなら確かにそれも必要ないか。
とりあえずキャプテンシートに座りメインモニターに目線を向けると、いくつもの画像が重なり合うように表示されている。
「あら、もう来たの?早かったわね」
「そりゃ二人が頑張ってくれたわけだしな」
「べ、別にあんたのために頑張ったんじゃないし」
声は聞こえど姿は見えず、本体は今もカーゴのコンテナ内で稼働中なのだがこういう時声しか聞こえないとどこに向かって話しかけていいか迷ってしまう。
かといってホログラムで表示させるのもちょっと違うしなぁ・・・。
ま、それは今度でいいか。
「それで、何がわかったんだ」
「例の再処理プラントの事故から始まる一連の噂についてですが、結論から申しまして全て嘘であることが判明しました。何かしらの人物が意図してこの噂を流したと推測されます」
「なるほどな。じゃあこのモニターに出てる画像は?」
「全て偽物よ。巧妙に作られすぎてアリスですら見逃したんだって、あれだけ自分はすごいって豪語してたくせにこの程度も見抜けないなんて・・・」
「アリス?」
「アリス・・・様」
「そのような言い方ができるという事はまだ調教が足りていないようですね、テネス」
まったく、まーた始まった。
アリスからする違法AIであるテネスが生意気なのが嫌いなのかもしれないけれど、やっているのはお局による新人いびり。
こういう時は上に立つものがしっかりとコントロールしてやらないと後々めんどくさいことになる。
「そういうのは全部終わってからにしてくれ。それで、偽物だってどうしてわかった?」
「作りは確かに精巧。でもどこを探しても次の映像が出てこないのよ。特に輸送船ね、今まさにトラブル中のはずなのに続報も救難信号もなし。そんなのありえないでしょ?」
「確かにな、動けないだけなら救難信号は打てるはず。再処理プラントの方も多少進展があってもおかしくないってことか」
「書き込みやメッセージだけを追えばリアルタイムで更新されていますが、どれも画像ばかりで映像がないのが不可解です。結果、輸送船も宙賊の襲撃もプラントの故障もすべて偽装されたものだと断定しました」
「どう?頑張ったでしょ?もっと褒めていいのよ?」
まるでテストでいい点を取ったから誉めてほしい子供みたいな感じの声が聞こえてくる。
そもそも彼らにとって与えられた仕事はやって当然、褒められたくてやるものではないんだけどこの辺も普通のヒューマノイドとかAIとは違う部分だな。
まるでアリスのよう、本人は否定するだろうけど同類は仲間を呼び寄せるみたいなもんか。
「まぁ、この短時間でよくここまで調べ上げたな。とはいえ偽装がわかっただけじゃ意味がない、何のためにそれをやってるのかが問題。愉快犯なのか、何か裏があるのか、俺みたいなのを捕まえて儲けようとしてるのか、そっちのほうが重要だ」
「え、何がって言われても・・・」
「それに関してはこちらで調べてあります」
「そうなのか?」
「偽装と判明してから星間ネットワーク上の書き込みとメッセージを全て洗いなおしましたところ、いくつか怪しい物を発見しました。発信源はどれもこの宙域で複数人がやり取りをしているようです」
モニターに映し出されたのはメッセージのやり取りは、一見するとゲームとかそういうのをやりながら会話しているようにも見える。
『さっきのやつ見たか?』
『あぁ、獲物を探してうろうろして馬鹿じゃねぇの』
『でもどれも雑魚ばっかりでレアはいねぇな』
『そんなすぐに出てこないって、のんびりやろうぜ』
『出てきたらどうする?』
『そりゃ捕まえるに決まってんだろ。レア物は高く売れるからな、ガッツリ稼いで遊ぼうぜ!』
会話だけ聞いていたら確かにゲームか何かのような感じはある。
だが、今までの状況が彼らによって意図的に作られ、更に何も知らずにやってくる獲物を待つ捕食者なのであれば確かに点が線になっていく気はする。
かなりザックリとした推論ではあるけれど、バラバラだったピースがひとまず一つにまとまる感じはあるなぁ。
「これらが全て彼らによって引き起こされたとして、奴らはどうやって現場を確認しているんだ?」
「現地付近に設置したカメラからリアルタイムに情報を得ているようです。そして、彼らの言う『レア』が来たら行動不能にするつもりなのでしょう」
「具体的には?」
「システムをクラッシュもしくは一時的に操作不能にし、更にはハッキングを仕掛けて船そのもののコントロールを奪う。私達がテネスをハブにしたように彼らも似たようなことを考えているのかと思われます。生憎とまだハブを発見できていませんが、起動すれば即座に逆探知を仕掛けることはできます。もしくは・・・なるほど、良い手があります」
俺の問いに何かヒントを得たのかものすごく悪い顔をするアリス、それはヒューマノイドがしていい顔じゃないと思うぞ。
ひとまずその流れで調査を継続してもらい、俺は再び寝室・・・ではなくキッチンへ向かって少し早い朝食を摂ることにした。
偶には早起きもいいものだ、なんにせよ状況を確認できないまま進むことはできないのでひきつづき彼女達の頑張りに期待しよう。
一緒にやってきたアリスがさも当たり前のようにカウンターに座り、飲めないとわかっていても彼女の前に香茶の入ったカップを置く。
これがうちのスタンダードだ。
「そういやアリス、例のピュアウォーターはどうしたんだ?」
「あぁ、あれですか」
「処理水は無理だからって指示はかけたけど・・・まさか買ったのか?」
「そういうご指示でしたので。ですがあれに関しては何かしら引き取り先がありますのでそこまでの損失にはならないでしょう」
「なぁ、その購入先ってさっきの連中と繋がっていたりしてないよな?」
「なるほど、その考えはありませんでした」
『水不足なら必ず需要はある』そんな勝手な考えで売りに出されていた少々割高なピュアウォーターを買い占めたわけだが、これすら奴らの仕込みであればかなりの策士だと言えるだろう。
まさに奴らの思うつぼ、もちろんそうでない可能性も十分にあるけれどそうだとしたら中々の策士がいることになる。
そして俺達は踊らされた雑魚というわけだ。
そう考えると無茶苦茶ムカついてくるな。
やられたらやり返す、それこそ二倍ではなく三倍ぐらい奪い返すような気持ちで行かなければ。
俺達を敵に回したことを後悔させるべく徹底的に調査するようにアリスに言い聞かせるのだった。




