132.運用方法を考えて
「いやー、稼いだ稼いだ」
豪華客船の横を並走しながら集まった寄付額にほくそ笑む。
このご時世キャッシュを使うことは少なくなったが、それでももしもに備えて多少は持ち歩くのが常識、特に豪華客船ともなるとチップを渡す機会も多いのでそれなりの額を持っている人もいた。
もちろん持ち合わせが少ない人もいるので寄付箱の横に振込先を書いておいたらそっちでも多額の振り込みがあり、結果として700万を超える寄付額が集まったことになる。
保険会社の振り込みを入れると実に一千万ヴェイル、これだけでソルアレスの改修費を賄えたことになるので大儲けといっていいだろう。
「さすが豪華客船、気前のいい乗客が多くおられましたね」
「あの程度の寄付で自分の命や時計なんかの高級品を奪われなくて済んだんだから安いもんだろう。寄付金だけでなく物を置いていった人もいたんだろ?」
「そうですね、なぜレアメタルを持ち歩いているかは不明ですがそれらでのお支払いも受けています。また、自分のコロニーによることがあれば別途お礼がしたいというお誘いもありますので総額はもっと膨れ上がるかと」
「不謹慎だがまた襲ってくれないかなぁ」
「気持ちわかりますが、一人でも犠牲者を出せば大変なことになりますのでおやめになられた方がよろしいかと」
今回は誰も犠牲者が出ていないからこそお通夜みたいな雰囲気にならなかったわけで、これで少しでも遅れていたらお前のせいだと逆に責められていた可能性もある。
もちろんその時は例の保険会社が動くんだろうけど、あのちょび髭の事だ渋りに渋るんだろうなぁ。
「ねぇキャプテン、このまま並走でいいの?もうすぐ護衛が来るんでしょ?」
「とりあえずその護衛が来るまではステイだ。大金貰ってるし一応仕事してますっていう感じにしておいた方が色々と都合がいいからな。交代したら予定していたコロニーに戻るつもりだが・・・燃料は?」
「そんなに心配しなくても十分あります」
「そりゃ何よりだ。テネブリスにも補給してあるんだよな?」
「ふん、あの程度で燃料が減るわけないじゃない。私を誰だと思ってるのよ、まったく私を信じてないわけ?」
その時だ、聞き覚えのある声と共に突然コクピット内に等身大の人間が投影された。
全身フリフリの衣装を身に着けたそいつは肩にかかる縦ロールの髪をドヤ顔と共に後ろに払った。
ゴシックロリータっていうんだっけか?
アニメーション中でよく出てくるお嬢様キャラがこんな感じの格好をしていたような気もするけど、なぜこの姿なのかは俺にはさっぱりわからない。
「テネス、口を慎みなさい」
「うっ・・・べ、別に怒ってないし!ただちょっとくらい感謝の言葉があってもいいと思っただけよ。私だって頑張ったんだから、その・・・少しくらい褒めてくれてもいいじゃない」
「あー、うん。よくやったな、偉い偉い」
「ちっとも心がこもってないんだけど!」
「マスターに感謝されるだけありがたいと思いなさい。それに、本来のスペックを考えたならもっと早く宙賊機を撃破できたはずです。それこそ客船にとりついていた二機目から追加が突入することもなかったのでは?」
「で、でも何とかなったでしょ!」
「何とかしたのはイブさんです。私たちの使命はマスターのために全力を尽くす事、廃棄寸前の貴女にその体を与えた意味をもう一度よく考えなさい」
「・・・わかったわよ」
アリスに一喝され旬とうつむいたままテネスは姿を消した。
テネブリス、略してテネス。
無人機に仕込まれた違法AIであり俺達の新しい仲間でもある彼女だが、先輩ヒューマノイドであり更には自分を生み出してくれたアリスには頭が上がらないらしい。
取り込むときにあのへんな性格をどうにかしなかったのかと聞いてみたところ、アリス曰く『個性』だという回答を得た。
AIに個性、なるほど物にさえ癖があるんだからヒューマノイドをはじめとした人工知能に個性があってもおかしくはない。
なによりアリスそのものが個性のカタマリ、まったく主人を主人とも思わない言動はどうにかならないものだろうか。
「やれやれ、やっと静かになったか」
「でもテネスちゃんなんだか寂しそうでしたね」
「そうね、まるで構ってほしい子供みたい。普段あのコンテナの中だしもっと出てきたいんじゃないかしら」
「んー、確かにアレだけの船をいつまでもしまったままっていうのももったいないんだがぶっちゃけた話光学迷彩って無茶苦茶燃料喰うんだよなぁ」
テネブリスの一番の売りはレーダーにも見つからないゴーストシップ機能と肉眼で見つけられない光学迷彩機能。
文字通り闇の如く相手の船に近づいて至近距離でハッキング、もしくは攻撃を仕掛けることができる。
バトルシップより小型とはいえそれでも大型ドローンともなればなかなかの大きさ、それを全て隠す光学迷彩を維持するとなるとなかなかの燃料を喰ってしまう。
その辺はアリスの特殊技術でソルアレス同様に超省エネタイプのエンジンが組み込まれているけれど、それでも常時外に出し続けるのは流石に無理がある。
それに、普通に移動している間出ている理由もないので結果としてコンテナの中で保管するしかないというわけだ。
因みにコンテナの中であればアリスの技術で兵器ではない別の物として認識させることができるから、これがコンテナの外になると射出するのも難しくなるしなにより監査が入ったときにカーゴ内に登録に無い兵器があると問題になってしまうだろう。
なんせゴーストシップ機能はコロニーの一般スキャンすらもはじいてしまうので色々とめんどくさいことになるわけだ。
まぁ、開けられたらそこまでだけど少なからず普通にしていたらそこまで改められることはない。
「出撃がないときはコンテナの中に格納しておきますがAIとしての機能を寝かしておくのはもったいないんですよね。ですので普段は私の補佐として活動してもらいます。ちょうど情報収集時にソルアレスを見てくれるオペレーターを探していたんです、皆さんよろしくお願いします」
「だって、よかったねテネスちゃん!」
「別に仕事がしたいって言ったわけじゃないんだから、そこは誤解しないでよね。仕方なくオペレーターとして働いてあげるんだから」
「ふふ、そういう事にしておいてあげるわ。私も操縦時に色々と頼ることあると思うけどよろしくね」
再びコックピットに姿を現し女性陣に歓迎される半透明のホログラム。
まぁ仕事をしてくれるのならば文句はない、アリスには色々とやってもらうことが多いだけにそっちに専念してもらえるのならありがたい話だ。
「前方より大型のバトルシップが二機接近、どうやら交代が来たようです」
「やれやれやっとお役御免か」
メインモニターには戦艦というぐらいにデカい赤と青の大型バトルシップが映し出されている。
襲撃される前にいた小型バトルシップは残念ながら撃ち落とされてしまったみたいだがこれだけデカいのがいたらさすがの宙賊も手を出してこないだろう。
映し出された二隻に見とれているとアトランティスからの通信が飛んできた。
「こちらアトランティス、ソルアレス応答せよ」
「こちらソルアレス、どうやら大型犬が二頭も来たみたいだな」
「わざわざ残ってもらって悪かったな、これで乗客に文句を言われなくて済むよ」
「道中気を付けてくれ、まだまだ先は長いんだろ?」
「そうだな、大型コロニーで一度補給と修理をしてそれからもう一度出発だ」
「ノヴァドッグに行くならゼルファス・インダストリーっていうシップメーカーに連絡してみてくれ、大型のドッグを持ってるし修理の腕も一流だ。俺の名前を出せばよくしてくれるだろう、保険で修理するならがっつり請求するように行っておく」
「そりゃいいな、とことんやってもらおう」
モニター越しに笑いあい、最後に挨拶を済ませて通信を切る。
とんだ寄り道になってしまったがいい収入になった、俺達も本来のルートに戻るとしよう。
辺境惑星までまだまだ距離はあるけれど確実に進んでいる、到着までに何としてでも買えるだけの金をためなければ。
さて、次のコロニーで何を仕入れるかな。




