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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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129.新しい仲間が動き始めて

 豪華客船が宙賊に襲われている。


 それを確認して今でちょうど二時間が経過、当初三時間の予定だったが予定よりも早く視認するところまでたどり着けた。


 これもアリスがこっちに逃げるように指示をしたおかげ、お互い向かい合うように進めば到着する時間も早くなる。


 突然の通信に向こうも驚いただろうけど、ネジにも縋る思いに躊躇なく進路を変更してくれた。


「見えてきたわ!状況は・・・あまりよろしくなさそうね」


「でも何とか持ちこたえてるんだろ?」


「辛うじてというところでしょうか。まだハッチは開けられていませんが、それも時間の問題かと」


「中に入られると厄介だから今のうちに何とかしたいところだが・・・、向こうの戦力は?」


「周辺を警戒する宙賊船が四機と豪華客船にとりつこうとしているのが二機、宙賊の人数はなんとも言えませんが客船側の方が多いでしょう」


 向こうが進路を変えてくれたおかげで何とか襲撃される前に到着できたわけだが残念ながら状況はよろしくないらしい。


 強引に停船させられ乗り込まれるのは時間の問題、それでもこの時間短縮が無かったら大変なことになっていたに違いない。


 問題はどうやってこいつらを退治するか。


 ぶっちゃけ周囲を警戒している方はどうとでもなるけれども、下手に刺激すると中に乗り込もうとしている連中が強硬手段に出ないとも限らないので出来るだけ同時に対峙したい。


 とはいえうちの戦力はイブさん一人、客船を優先すれば外の奴らに襲われるしかといって外を先に倒すとさっきみたいな状況になってしまう。


 こんな時イブさんが二人、もしくは俺が戦えたらと思うけれども残念ながらない物ねだりだ。


 今までなら。


「ってことはいよいよあいつのデビュー戦か、使えるんだよな?」


「もちろんです、実戦練習としては悪くない()かと」


「よし、それじゃあ俺達は豪華客船に向かうぞ!イブさん、白兵戦準備だ!」


「わかりました!」


「突入は宙賊と反対側の非常口から行います、ローラさん示したポイントに移動をお願いします」


「オッケー!バッチリつけるから任せといて!」


「俺はカーゴで最終確認をしてくる」


 自分が何をするかわかっていると行動は速い、イブさんと一緒にハンガーへ移動し奥に押し込められていた黒いコンテナの前に立つ。


 コンテナを固定していたピンロックを解除、同じくコンテナそのものの鍵も外していく。


 ソルアレスの自己進化プロセスによって新たにこの船の一部として認められたこいつがどれだけの働きをしてくれるのか、シミュレーション上ではかなりの戦果を挙げているけれども実戦となるとまた状況は違うはず。


 あのアリスがアレだけ調教したんだから流石に無断で動くことはしないだろう・・・知らんけど。


「準備完了です」


「こっちも解除を確認、コックピットに戻ろう」


「了解しました」


 あと数分でここは真空状態になる。


 急ぎカーゴを出て隔壁を封鎖したのを確認してからコックピットに戻ると、豪華客船はもう目と鼻の先までの所に来ていた。


 ここまでくるとさすがの宙賊もこちらに気づいたようでレーダーを見ると三機がソルアレスへと向かっているようだ。


 もう一基は警戒のため残っているんだろうか、まぁ一機だけならアリスがどうにかできるだろう。


「ロック解除確認、いつでもいいぞ」


「かしこまりました。カーゴ内コンテナの移動を開始、テネブリス射出します」


 カーゴ内のコンテナは可動式の床に設置されていて、パズルのように場所を入れ替えることができるようになっている。


 もちろん満杯になっている時は難しいけれど荷物の少ない今であれば例のコンテナをハッチの前に移動させるのにそう時間はかからない。


 追いかけられたままカーゴハッチが開きそこから黒いコンテナが射出されると、宙賊に向かって真っすぐ飛んでいく。


 もちろん当てるために出したわけじゃないので向こうも余裕で回避するけれど、それが彼らの仇になるとはおもわないだろうなぁ。


「射出完了、起動シーケンスを開始・・・正常に進行中、コンテナ開きます」


 射出されたコンテナが花開くようにゆっくりと開き、中から黒い機体が姿を現す。


 ゼルファス・インダストリーが作り出した無人機とは黒い機体というくくりでは同じに見えるが中身は全くの別物になっている。


 あの時、廃棄される寸前の試作機をアリスが回収しソルアレス内に保管。


 その後この船の一部として生まれ変わった無人機には新たな名前と共にもう一つ別の物が加えられている。


「起きなさいテネブリス、仕事です」


「えー、仕事?今いいところだからちょっと待って」


「もう一度言います、テネブリス仕事です」


「やだ、ホロムービーが今いい所だからあと十分ぐらい待ってよね」


 コックピットに流れる若い女性の声、10代特有のけだるさというか生意気さというか、ともかくそんな雰囲気全開の声が緊迫したコックピット内に響き渡る。


「アリス?」


「大丈夫です、すぐに調教しますので」


「お、おぅ」


 アンティークヒューマノイドであるアリスは通常のヒューマノイドと違って表情豊か、全体的に笑顔が多いイメージだがあのアリスがこんな顔をするなんて・・・よっぽどお怒りのようだ。


「これ以上は言いません、テネブリス仕事です。もし断るのであれば今すぐ貴女のプログラム内に無限演算式を流し込みますよ」


「わー!ダメダメ!やるやる!やるからそれだけはしないで!」


「わかれば結構、折角の実戦なんですから自分が活躍できるところをしっかりと見せなさい。もし上手にできたらマスターが新しいホロムービーを買ってくれるそうです」


「え!本当!?」


「嘘は言いません」


「べ、別にあんたの命令なんて聞きたくないけど・・・新しいのを買ってくれるなら仕方ないから戦ってあげるわよ」


 なんとまぁ騒がしいこと、色々とツッコミを入れたいところはあるけれどとりあえず無事動く気になってくれたみたいだ。


 テネブリス、ソルアレスに新たに組み込まれた戦術兵器。


 当初はソルアレスのサブ機としてアリスが動かす予定をしていたのだが、前にゴミ捨て場から回収した違法廃棄物の中に彼女が入っているのを見つけインストールした人工知能(AI)


 性能はアンティークヒューマノイドには劣るけれども、それでも他のヒューマノイドよりかは数倍上のスペックを持っている。


 疑似人格に近い知能を持ったハイスペック人工知能なのだが、非常に残念な性格をしているために廃棄されたのではないかというのがアリスの導き出した結論だ。


 ツンデレ。


 大昔の人はそう呼んでいるらしい。


「お待たせいたしました、テネブリス起動完了です」


「俺の知らないところで勝手な約束が結ばれているんだが?」


「気のせいですよ」


「いやまぁホロムービーぐらい買ってやるけど・・・そんなので働いてくれるのか?」


「星間ネットワークのダークウェブでしか見つけられないとっておきです。一つ5万ヴェロス程ですのであとで口座から引き落としておきますね」


「いや、高!」


「今更ダメなんて言ってもやめてあげないんだから。あんたはそこで私の華麗な姿を見てなさい!」


 アリスといい彼女といい、なんでうちにいる人工知能はこうもいう事を聞かないんだろうか。


 まぁちゃんと仕事をしてくれるのなら5万ぐらい安いもんだけど・・・、とりあえずお手並み拝見と行こうじゃないか。


 ソルアレスを追いかける宙賊機に高速で近づくテネブリス()、周囲の空間に溶け込む光学迷彩技術だけでなく例のゴーストシップテクノロジーを搭載した彼女を見つけることはたとえ宇宙軍であっても難しいだろう。


 そのまま宙賊機の真後ろに移動するもレーダーには一切反応せず、更にスキャンされている事すらわからないまま無防備なエンジン付近めがけて超至近距離で放たれる無数の散弾。


「いい加減逃げるのを止めたらどうだって、後部に被弾!?嘘だろ、いったいどこから」


「くそ、エンジンが持たない!このままじゃ爆発s・・・」


 レーダーにも映らない相手から突然攻撃され爆散する宙賊機、この時点で懸賞金は5万を超えたのであとはプラスを生み出してくれることだろう。


「私の手にかかればこんなものよ!」


「喜ぶのは残り三機を落としてからにしなさい、私達は客船の救助に向かいますあとは任せましたよ。マスター、彼女に一言お願いします」


「まぁ、がんばれ」


「べ、別にアンタの為なんかじゃないんだからね!」


 よくわからないセリフを言いながらほかの三機を追いかけるテネブリス。


 うーん、何を思って開発者があんな性格にしたのかはわからないけどいきなりの実戦で結果を載せるぐらいには優秀なのは分かった。


 後は残りを俺達が叩くだけだ。


「こちらソルアレス、救援要請を受けて来た。これより貴艦を援護する」


「救助感謝する!だがこちらはもうもたな・・・うわぁぁぁ!」


 どうやら残された時間は少ないらしい。


 ブツっと切れた通信に思わず三人で顔を見合わせる。


 緊急事態ではあるけれども、まぁなんとかなるだろう。


「通信切れました。それではローラ様あとは手筈通りに」


「オッケー、みんなしっかりつかまっててね!」


 ソルアレスが船を傾け豪華客船に向けて一気に近づく。


 さぁ、メインディッシュと行こうじゃないか。

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