128.襲われていた船に遭遇して
「平和ですね」
メインモニターに映し出される漆黒の海とそこに広がる星々を眺めながらアリスがぽつりとつぶやく。
コロニー標準時で1時31いや2分になったところ、俗にいう真夜中だ。
ローラさんは数時間前に自室に戻ってしまったので今はオートパイロットに切替えてアリスがその補助を行っている。
アンドロイドのいいところは休息を必要としないところ、なのでこうやって深夜でも船を自由に飛ばすことができているわけだが・・・なんでそんな時間にコックピットにいるかって?
ただ寝れないだけだ。
「平和なのはいいことだと思うが?」
「確かにそうですが、平和だという事は稼ぎが少ないという事です。先ほどのコロニーでもあまり儲けが出ませんでしたし・・・誠に申し訳ありませんでした」
「いくら相場がわかるって言っても結局それを決めるのは人だからなぁ」
「在庫は残り僅か、価格もそう売価補佐するAIも含めあれだけの条件が必要だと言っているのに買わない理由がわかりません」
「懇意にしている取引先がいるとか大方そんな所だろ。多少高くても知っている人から買いたいと思うのが人間ってもんだ」
「付き合いが大切なのはわかりますが、その懇意にしている業者が来る頃には在庫は切れている事でしょう。そうなれば困るのはコロニーの住人、本当にそれでいいのでしょうか」
その辺の感性の違いが人間とヒューマノイドの違いなんだろう。
いかに合理的かを追求するか、それともいかに合理的かを無視するか。
損をするとわかっていても未来の特に期待してしまうのが人間という生き物、この感覚を解れというのは中々に難しい。
「良いか悪いかじゃないんだよなぁ、そこは」
「私にはわかりません」
「ま、終わった話だしもういいじゃないか。幸いピュアウォーターはどこでも売れるものだし、次のコロニーで手放してまた買えばいいだけの話だ」
「マスターがそれでいいのであればこれ以上は言いませんが・・・」
「大丈夫だって、どこかでドカンとデカいのが来るからそれまでのんびり行こうぜ」
「それはいつですか?」
「さぁ、今日か明日か一年か。待ってたらいずれ来るだろ」
いつ儲かるかなんて誰にもわからない、いつか来るだろうと信じて地道にコツコツやるのが金儲けの近道だと最近思うようになった。
だから焦ったところでどうしようもない、今できることをあり続けるだけだ。
不満げなアリスの頭をポンポンと軽く叩いてからキャプテンシートに座る。
残念ながら睡魔はまだ来ないが、この無限に広がる宇宙をみていればいずれ来るかもしれないのでそれに期待することにしよう。
「平和だなぁ」
「さっきそういったじゃないですか」
「平和なのはいいことだ」
「それも聞きました」
「こんなコロニーとコロニーのど真ん中じゃさすがの宙賊も出てこないだろ。なんならこの近くに同業者も含め誰もいないんじゃないか?」
「さすがに誰もいないってことはないと思いますが・・・」
ポチポチこコンソールを叩きメインモニターに宙賊地図を表示、アリスが星間ネットワーク経由で入手した位置情報をリアルタイムに表示する。
ど真ん中にいるのが俺達、そこから同心円状に広げていくも輸送船はおろか宙賊船の反応すらなかった。
まぁ急いでいる人は少し離れたハイパーレーンを使うだろうし、わざわざこの航路を使う人はいないってことだろう。
「半径1時間圏内には何もいません」
「だろ?今はもうハイパーレーンも走ってるし、わざわざこの航路で行く理由がない。それこそ里帰りとかその程度じゃないか?」
「それにしても少なすぎませんか?」
「じゃあ例のゴーストシップ同様スキャンに引っかからないとか?」
「その可能性も考え異なる技術でスキャンしています」
「ってことはガチだな」
ここまでの空白地帯は珍しい、まぁ移動するうえで邪魔されないのはいいことなのでのんびりと飛行しようじゃないか。
アリス的にはハプニング的なものがあったほうがいいんだろうけど、何事も平和が一番だ。
「まぁどこかですれ違うこともあるだろう、もし見つけたら教えてくれ」
「かしこまりました」
見つけたところでどうなるものでもないんだが、眠れなくて暇なのは俺も同じなのでぼんやりと宇宙を眺め続ける。
コロニーにいる時もこうやって宇宙を眺めていたっけなぁ。
あの時は外に出てみることになるとは思わなかったけど結局どこに行っても宇宙は同じ。
もちろん星の配列とかそういうのは違うけれども、漆黒の下地に星屑を散りばめるのは変わらない。
こんな贅沢な時間の使い方、今までが色々ありすぎて忙しかっただけにたまにはこうやってゆっくりするのも悪くはない。
そう、働きすぎはよくない。
稼がなければならないとわかっていてもこういう時間は絶対に必要・・・。
「マスター」
「どうした」
「スキャンを拡大した結果三時間圏内に複数の反応がありました」
「輸送船か?」
「いえ、豪華客船です」
「・・・なんだって?」
なんだか聞きなれない単語が聞こえてきたけど、豪華なんだって?
「ですから豪華客船です。遠すぎて詳細は分かりませんが、わざわざ高いお金を払って金持ちが好き放題するあの豪華客船です」
「豪華客船にうらみでもあるのか?」
「そういうわけではありませんが、世間はそういう認識かと」
「複数ってのは?」
「残りの反応は全て宙賊ですね」
「なんだって?」
「ですから宙賊です。もし聞こえが悪いようでしたら医療用ポッドで確認しましょうか?大抵は耳垢のつまりですから、膝枕で確認してあげますよ?」
いや、昨日掃除したばかりだからそれは大丈夫・・・ってそうじゃない。
豪華客船とその他に宙賊船?
それってつまりやばいってことじゃないか?
「そういうのはいいから。ってか、それってやばいよな?」
「そうですね、距離が遠すぎて救難信号を拾ってはいませんが届くのも時間の問題かと。ネットワークの書き込みを見るに数時間前から追われているようですね。おや、エンジン部が破損?出力が下がって逃げ出せない?奴らに家族が嬲り殺されるぐらいならいっそ自分の手で・・・なんて書き込みもあります」
「どう考えてもやばいじゃねぇか!」
「そうですが・・・まさか助けに?」
「宙賊に襲われてるってことは助ければ謝礼を貰える可能性もあるわけだろ。ただ倒すだけなら懸賞金だけだが、この気を逃す手はない。お前だって暇だって言ってたじゃないか」
しかも豪華客船というぐらいなんだから乗ってるには金持ちばかり、もしかしなくてもそれなりの報酬はもらえるはずだ。
さっきも言ったようにいつ何時ドカンとデカいのが巡ってくるかわからない。
それが偶然今だったってことなんだろう。
「平和だと言っただけで暇だとは申してません」
「どっちにしても同じことだ。とりあえず現地に向かうとして、到着にはまだかかるから一時間ぐらい前にイブさんたちを起こそう。寝不足はいい仕事の敵だからな」
「お優しいことで」
「後でしこたま働いてもらうからな、今だけだ」
宙賊とやり合う時に一番活躍するのはあの二人、俺はただふんぞり帰ってるだけなので今ぐらいは仕事をしておこう。
「よし、緊急加速!豪華客船を助けにいくぞ!」
「了解しました」
エンジン音が高くなり星々が後ろに流れる速度も速くなる。
しばらくして救難信号を受電、これにより救助報酬は確定した。
後は現地で一戦交えるだけ、さぁ一稼ぎしようじゃないか




