126.そこへ颯爽と現れて
ルークさん達が開発したという装置を使って狼藉を働くゴーストシップを撃墜して二日。
ゴーストシップを認識する装置は飛ぶように売れているらしく、星間ネットワーク上には感謝と安堵の書き込みが殺到しているらしい。
どうやら帳簿を手動で書き込んでいるのか売上自体は確認できないものの、動いている装置の数量から逆算するとざっと5000万ぐらいは稼いでいるんじゃないだろうか。
今までの自分からすれば想像もできないような金額だけどソルアレスの回収二回分と思うとそこまでの金額じゃないんだよなぁ。
コロニーの規模を考えれば数億っていうお金が動くはず、若干販売数量も落ちてきているのでそろそろ二度目の襲撃があるだろうというのがアリスの見立てだ。
対策用の装置さえあれば襲撃してくるゴーストシップなんて問題ない、そう思う人もいるだろうけど別に直接攻撃を仕掛ける必要はもうないんだよなぁ。
そこにいるとわからせるだけでも人々の恐怖を煽れるし、大勢の人がそれを認知できるようになればさらに恐怖が膨れ上がる。
そう、襲撃するのは最初だけで後は張りぼてでも何でもいいというわけだ。
流石にやりすぎると襲ってこないと判断されてしまうだろうけど、あと二・三回は効果あるだろう。
「さて、そろそろか?」
「そうですね、販売数量の落ち込みから考えるとテコ入れをしてくる時期かと」
「次は複数で襲来、それを感知させてまた緊急放送を流せばまた一気に売れ始めるというわけか」
「コロニー直属の警備が購入していますから発見の報告は即座に広まるはずです、表向きはノヴァドッグを守るためと言いながら実際の所すぐに見つけてほしいからっていうのが賢いですよね」
「その辺の頭の回転の良さは流石ってところだが・・・まぁ、今回は相手が悪かったという事で」
ここまでの動きは完璧、俺達が邪魔をしないという事がわかったようでさらに大胆に活動を始めている。
最初の襲撃時も実はルークさんからくぎを刺されていたけれど、俺達が大人しくしているのを見て安心してくれたみたいだ。
そう、俺達は大人しくしてる。
でも外野はどうかな?
「緊急放送受電、コロニー外の映像きます」
そんなことを話しているとコロニー全体にサイレンの音が響き渡り、メインモニターへ強制的に外の映像が映し出される。
駐機する大型船のさらに奥、星々の輝きの向こうに何やら動く何かが見える。
「見え・・・るのか?」
「一応は」
「通常のレーダーには反応ないから間違いないわね。レーダーに映らないのにそこにいる、それだけを流すだけでお金が入るんだからぼろい商売よねぇ」
「まったくだ」
緊急通信曰く、複数のゴーストシップを確認したから不要不急の外出は控えるようにとのことらしい。
加えてルークさんの所で装備を買った傭兵がいたら力を貸してほしいとも流しているけれど、あの人たちが傭兵に装置を売るはずもなく、取り付けているのは大抵が大型の輸送船や金持ちの個人船ぐらいだろう。
あと何回かは巻き上げなければならないんだし、わざわざ襲撃してくる相手に武器を売るはずがない。
放送は数分で終了したけれど、瞬く間にネットワーク上が騒がしくなりルークさんの所に注文が殺到し始めたそうだ。
「襲撃も始まったし今のうちに出航するか」
「もう行くの?」
「これ以上儲けさせる必要もないし、初回を見逃したことで義理は果たした。ほしい物も買ったしやり残すことはないだろ?」
「大丈夫です」
これ以上ここにいる必要はない、襲撃のどさくさに紛れてコロニーを脱出して次の目的地へ向かうとしよう。
ローラさんに合図を出してゼルファス・インダストリーのドッグから船を動かしたその時、ハンガーの向こうに見覚えのある姿を発見。
どうやらエドさんとオルドさんが見送りに来てくれたらしい。
次に会うことはないかもしれないけれど、とりあえず手を振ってからゆっくりとノヴァドッグから出発した。
「こちらノヴァドッグ警備、現在ゴーストシップがこちらに近づいている。不要な出発は避けるように」
「こちらソルアレス、心配無用だ。対策はしてあるし今は戦力が必要なんだろ?」
「こちら傭兵ギルドの登録証です、ご確認ください」
「・・・これは!心強い援軍、感謝する!」
船が動き出すとすぐに警備艇が近づいて警告をしてきたが、アリスがライセンスを転送すると安心したのかそのまま去って行ってしまった。
期待してくれているところ申し訳ないが俺達が戦うことは一切ないけどな。
「さて、ナディア中佐はどんな感じだ?」
「待機していた宇宙軍と合流し、例のゴーストシップ艦隊のすぐそばまで来ているようです。どうやら向こうのレーダーには感知されていないようですね」
「自分たちが同じ技術でやられると思わないのか」
「そんな頭があったらこんなことしてません。先方より連絡がありました、五分後に突撃するそうです」
最初の襲撃を見届けたあと、ナディア中佐を宇宙軍の待つとある宙域へと連れて行き、先方と合流。
ゴーストシップ対策の多重水晶を手渡して引き返した。
その後彼らの方で装置を改良してゴーストシップをスキャンできるようにしたのと同時に、アリスが送った技術を用いて自らの船をゴーストシップ化することに成功。
そんなわけで相手時気づかれることなくすぐそばに移動することに成功したと言うわけだ。
残り時間はあと5分。
その間にゴーストシップ艦隊はゆっくりとノヴァドッグへと近づき、それを映したコロニー内ではさらに大きな混乱が起きていた。
警備もまともに戦えない中誰もが命の危険を感じたその時、突如ゴーストシップ艦隊から爆発が巻き起こる。
おー、なかなか派手にやるなぁ。
ハリボテ艦隊に向かって容赦ない全力攻撃、今頃ナディア中佐が渾身のドヤ顔をしていることだろう。
突然のことにコロニー内部では時間が止まったかのように皆モニターの前で動かなくなっていた。
「こちらは宇宙軍、ノヴァドッグがゴーストシップに襲撃されていると聞き助けに来ました。もう心配はいりません、コロニーに平和は私たちが守ります」
軍の強制通信が響くと同時にそれはもう物凄い盛り上がりを見せ始めるコロニー内。
映像には帽子を上に向かって投げたり、隣の人と抱き合ったりと思わぬ援軍の登場に大騒ぎする光景が映し出されている。
コロニーの危機に颯爽と現れる宇宙軍、間違いなく一気に彼らの株は上がっていくことだろう。
それとは対照的に第二ブロック周辺はしんと静まり返り、信じられないと言う顔のルークさんが映し出されていた。
「はは、いい顔だ」
「これからもう一儲けと思ったところに想定外の味方が現れて大事な餌を食い散らかすちゃうんだもの当然よね」
「可愛いそうですけどこれまで良い思いしたわけですから」
「そう言うこと。さて、後は中佐に任せて俺たちはとんずらするとしよう」
色々あって長くなってしまったがノヴァドッグでやることは全て終了。
補給も終わっているし次のコロニーで売るものも満載、思い残すことは何もない。
「ローラさん、出発だ」
「了解キャプテン!」
「マスター、ルーク様から通信が入っていますが」
「悪いがゴーストシップの影響か通信不良で受電できない、スルーしてくれ」
「ではそのようにいたします」
宇宙軍に情報を売ったんじゃないかと文句を言いに来たんだろうけど、あいにくとその証拠はどこにもない。
全て口頭&書面での伝達を徹底、情報社会においてこれがいちばん確実なのは前の騒動で学習済みだ。
たまにはアナログがいい時もある。
そんなわけで俺たちは世話になったノヴァドッグを離れ、新たなる宙域へと旅を続けるのだった。




